第44回
雇用リスクとは?【第1回 安全配慮義務の対策】
株式会社TMR 執筆
1. 雇用リスクとして検討しなければならないこと
2. 安全配慮義務の範囲
3. 安全配慮義務違反の例
雇用に関して企業が対策しなければならないこととして、まず、従業員の安全と健康を守る安全配慮義務の対策があります。他にも、採用や離職に関わるリスクなど、検討しなければいけないことは多く、企業はこれらを「雇用リスク」として対策を行うことが求められています。
1. 雇用リスクとして検討しなければならないこと
事故などによる労務災害、職場環境による健康面や精神的な負荷などに加え、採用のミスマッチや雇用形態、待遇、離職などに関わるリスクもあります。
労務災害に関わるリスク
・ 設備の整備・点検や作業の安全確保が不十分であることから発生する事故
・ 超過労働による事故
など
健康配慮に関わるリスク
・ 定期的な健康診断などの健康への配慮不足による罹患
・ ハラスメントなど、職場環境が要因となる精神疾患
など
人材採用や待遇、登用、離職などに関わるリスク
・ 従業員による情報漏えいなどの犯罪行為
・ 反社との関わりある人物の採用
・ 定年後再雇用時の雇用条件等
・ 残業代や休暇取得、パワハラや女性差別などの不当待遇
・ 嫌がらせで退職に追い込むなどの不当解雇
・ 外国人雇用時の不法就労や副業で雇用する際の法定労働時間など法令遵守
・ 離職による欠員や技術継承、新卒採用時の内定辞退による欠員
など
このように雇用に関するリスクは多岐に渡り、様々な対策が必要となります。中でも、労務災害や健康配慮に関するリスクについては、「安全配慮義務」として業種業態に関わらず、すべての企業が対策を行わなければなりません。
2. 安全配慮義務の範囲
安全配慮義務には、大きく分けて「健康配慮義務」と「職場環境配慮義務」の2つがあります。どちらの場合でも違反による罰則はないものの、安全配慮義務違反と判断された場合、労働基準監督署への届け出が必要となり、企業の責任が問われ、損害賠償の責任を負うこととなる他、事実が公表され、企業としての社会的な信用低下は避けられませんので、企業のレピュテーションは低下します。それにより、企業のイメージダウンや取引先関係への影響などで業績を大きく悪化させることもあります。
健康配慮義務
雇用した従業員に対し、心身ともに健康への配慮が義務付けられています。残業の制限や健康診断の実施などに加え、メンタルヘルスケアが行える従業員向けの相談窓口の設置、教育(セミナー)の実施など、精神面においての配慮も含まれています。
職場環境配慮義務
使用者は、従業員にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮が義務付けられています。
設備面での事故防止や安全に作業するための用具の整備など、物理的な安全確保に加え、それを使用する従業員への適切な教育、ハラスメントが発生しない環境など、心理面での環境配慮も含まれます。
安全配慮すべき対象
正社員、アルバイトなど、雇用形態に関わらず雇用している全従業員が安全配慮義務の対象となります。労働契約法では、「労働契約に伴い、使用者は特別な規定や根拠がなくても、当然として安全配慮義務を負うこと」とあり、雇用形態に関わらず雇用契約を結んだ時点で安全配慮すべき対象となります。
安全配慮義務違反と判断されるのは、労働基準法や労働安全衛生法などで定められている条項を遵守していない場合などが該当しますが、「十分な対策を取ること」などの記載となっている条項も多く、定量的な基準を持たないものが多数あり、具体的な対策についても定められていません。そのため、従業員が安全に働けるよう企業が独自に対策を行う必要があります。
3. 安全配慮義務違反の例
安全配慮義務違反で告発された場合、その要因が企業の安全配慮に関わるかどうかという点はもちろんのこと、予測の可能性や回避の可能性についても企業側の責任が問われます。安全配慮義務違反として告発されることの多い例として、以下のようなものがあります。
労災事故
作業中の転落事故や過労による体調不良など、通勤中や業務中のケガや病気に対して企業側の安全配慮が問われる例が多くあります。高所作業であれば、高所作業の安全確保はもちろん、落ちる可能性を加味していたか、回避する対策を行っていたか、といった観点で配慮が十分かどうかを問われることとなります。
労働安全衛生法において、現場代理人を含めた監督者に対し、労働災害防止対策が義務付けられています。法に則った対策ができているのかの確認も必要です。
長時間労働
残業は月45時間、年間360時間以内と定められており、月100時間超または、月平均80時間超が「過労死ライン」とされています。長時間労働により、体調を崩した場合やケガをした場合、過労死やうつ病などの精神疾患の発症や睡眠不足による事故など、安全配慮義務違反が認められた事例が多数あります。
ハラスメント
パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなど、従業員間におけるハラスメントであっても、企業がハラスメント行為を発生させない環境構築を行っているかが問われます。また、カスタマーハラスメントによる応対者の精神的負担など、メンタルヘルスケアの必要が予想される場合の対策も問われます。
(ハラスメント対策の詳細は弊社作成 2024年4月~7月掲載記事「企業におけるハラスメント」を参照)
天災やウィルス
台風や豪雨、地震などの自然災害によるケガや病気においても、予測の可能性や回避の可能性がポイントとなります。台風の中、出勤して倒木によるケガをした場合などは、安全配慮の不足が問われる可能性があります。また、新型コロナウィルスの蔓延による感染症対策においても、安全配慮義務として時差出勤、テレワークの推進など、感染拡大防止の対策が企業に求められました。
雇用するということは、企業が人材を得ると同時に雇用された人材の安全を確保する義務が発生するということです。様々な業種、職種などで必要となる安全確保の方法は異なりますが、従業員を守る対策に注力するとともに成長を育む事を常に意識することが大切です。
次回は、採用や離職などに関わる雇用リスクについてお届けしたいと思います。
株式会社TMRでは、リスクマネジメント体制の構築支援を行っています。雇用の際の人物調査、組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革など、独自のノウハウと事案発生の企業や弁護士事務所からの多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。
※転載元 株式会社TMR お役立ち情報「雇用リスクとは? 第1回 安全配慮義務の対策」
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