第16回
資金調達における反社会的勢力の規制への対応について
株式会社TMR 執筆
1.資金調達における反社会的勢力への規制強化
(1)反社会的勢力による第三者割当増資に関する規制の厳格化
(2)「特定団体等」としての反社会的勢力の定義付け
2.証券取引の適正化を担う証券取引等監視委員会とは
3.反社会的勢力による第三者割当増資の虚偽記載が指摘された事例
4.証券取引等監視委員会からの審査に備えるための調査専門会社の活用
1.資金調達における反社会的勢力への規制強化
(1)反社会的勢力による第三者割当増資に関する規制の厳格化
反社会的勢力は、組織の実態を隠ぺいして、証券取引を通じた資金獲得の動きは顕著に巧妙になってきています。このような背景から、上場企業が行う第三者割当などの金融取引への規制が厳格化されつつあります。既に上場企業の第三者割当増資について開示規制が強化されています。
2009年 12 月施行の内閣府令で、第三者割当により株式の募集等を行う場合、有価証券届出書への募集先企業の内容についての記載が義務化されることとなりました。有価証券届出書上に、これまで実在しなかった特記事項の記載欄が新設され、上場企業が行う積極的な情報開示への取り組みが明文化、義務化されました。
2011年には中小企業4団体(日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会及び全国商店街振興組合連合会)が、各都道府県の下部組織に対し、企業指針の普及促進等、企業活動からの暴力団排除の取組を行うよう通知しました。さらに2014年、日本商工会議所は、会員からの暴力団排除条項を盛り込んだ定款例を全国の商工会議所に示すなど、警察と連携を図りながら暴力団排除を推進しています。中小企業が行う取引や資金調達などの事業活動においても反社会的勢力との関係を避けることが強く求められています。
(2)「特定団体等」としての反社会的勢力の定義付け
また、2009年 12 月施行の内閣府令では、割当を予定する企業の実態について、「暴力若しくは威力を用い、又は詐欺その他の犯罪行為を行うことにより経済的利益を享受しようとする個人、法人その他の団体」が「特定団体等」と明確に定義されました。
第三者割当増資の割当予定先が「特定団体等」に該当するかどうか、何らかの関係を有していないかどうかについて株式を発行する企業側が確認して、結果や確認方法を具体的に記載することが義務付けられています。確認すべき内容として、割当を予定する企業だけでなく、その親会社や子会社、出資者や役員等についても確認する必要があると詳細な確認の範囲が規定されました。
2.証券取引の適正化を担う証券取引等監視委員会とは
証券取引等監視委員会は証券取引や金融先物取引等の公正を確保する目的で財務省に設置され、現在は金融庁に属する審議会の一つです。内閣総理大臣及び金融庁長官から委任された権限により、市場分析審査や証券のモニタリング、取引調査、開示検査などを行います。
金融商品取引法または犯罪収益移転防止法に基づき、質問、検査、領置といった任意調査をするほか、裁判官の発する許可状による臨時検査、捜索及び差押え等の強制調査を行います。証券取引等監視委員会が行う開示検査によって開示規制違反等の問題が判明した企業では、経営陣のコンプライアンス意識の欠如や内部管理体制の機能不全などが原因で不適正な会計処理につながった事例が多く見受けられます。
3.反社会的勢力による第三者割当増資の虚偽記載が指摘された事例
A社は、有価証券届出書の割当予定先の実態調査を専門調査会社に依頼しましたが、調査報告で割当を予定している企業の親会社に反社会的勢力や違法行為に関与の懸念がある人物との関係が指摘されていました。
しかし、有価証券届出書に「割当予定先の主要株主が反社会的勢力等や違法行為に関わりを示す情報に該当はありませんでした。」と記載し提出したところ、証券取引等監査委員会からの開示検査により、増資の引受先として適格な相手方ではないことを示す情報を得ていたにもかかわらず、虚偽記載を行っていると指摘されました。
この企業は、経営上、多額の損失計上により債務超過に陥ったため、急速な資金調達と調達資金を原資とした新規事業による収益力強化を目指していたようです。代表取締役をはじめとする旧来の経営陣が持つ資金調達のノウハウが非常に乏しかったことに加え、管理体制が十分に機能しておらず、社内体制も脆弱だったことも要因のひとつと考えられます。
4.証券取引等監視委員会からの審査に備えるための専門調査会社の活用
経営者の視点からは、自社のガバナンスが形式だけでなく実質的な効果を伴ったものとなっているか、適正な情報開示を行うための体制が実効的に機能しているかなどについて、改めて点検することが求められています。監査役や監査委員の視点からは、独立した立場から取締役等の業務の執行をチェックするという本来の役割を果たすことが、開示規制違反等の企業不祥事の防止につながると考えられます。
第三者割当増資に伴う企業取引では、社内の管理体制や管理機能を補うためには、専門調査機関を活用した調査が有効です。証券取引等監視委員会からの検査対応におけるリスクヘッジのためにも専門調査機関の活用は非常に効果的な選択肢です。
㈱TMRではこうした証券取引等監視委員会からの検査の実績を豊富に保有しています。第三者割当増資にあたっての当該法人および大株主や役員の反社チェックを含む企業調査は、決算書分析等の定量データの分析にとどまらず、定性分析、経営コンサルテーションまで含んだトータルソリューションとしてご提供しています。安心・安全な取引の実現可能性を高めて、企業経営の成長を確かなものにします。
※転載元 株式会社TMR お役立ち情報「資金調達における反社会的勢力の規制への対応について」
プロフィール
株式会社TMRはビジネスにおけるあらゆるリスク対応を支援し、企業価値の向上を全力でサポートします。
・信用を第一に「誠意」「正確」「迅速」をモットーにご納得いただくまで親身にご説明いたします。
・マスコミや弁護士事務所、警察関連組織などへの調査協力も行っており、法令遵守で調査情報の秘密厳守、社会正義に即した調査を行います。
・ISO27001認証を取得しており、調査後の調査資料の廃棄に至るまで厳格に管理しています。
取引先や社員、株主などを対象に「反社会的勢力」との関係をチェックします。情報収集と収集した情報の蓄積を行い、独自でデータベースを構築し、情報利用についても熟知しているため、安心してお任せいただけます。
■信用調査
企業の与信調査(不動産や資産など)から採用時の個人 調査、その他、長年のノウハウを活用したきめの細かい各種信用調査を行います。
与信調査・不動産・資産・債権保全・信用調査・採用 入居者審査・身元調査・市場調査・各種マーケティングリサーチ・テナント調査・身元調査・訴訟関連・債権関連など
ISMS認証のノウハウを活用した情報セキュリティ対策支援やネット風評対策、ハラスメント対策などの企業のリスク対策のほか、盗聴対策などの個人向けの対策を含め、あらゆるリスク対策について対応可能です。
企業リスク対策(情報セキュリティ、情報漏洩等)・ネット風評対策・ハラスメント対策・各種相談窓口開設(コールセンター、内部告発等)・その他 盗聴対策、各種セミナー開催など
Webサイト:株式会社TMR
- 第44回 雇用リスクとは?【第1回 安全配慮義務の対策】
- 第43回 経営者リスクとは?
- 第42回 海外取引のリスク【第2回 海外取引におけるリスクマネジメント】
- 第41回 海外取引のリスク【第1回 海外取引における信用調査の重要性】
- 第40回 営業秘密の保護
- 第39回 業務上横領にはどう対応すべきか
- 第38回 企業のBCP対策【第2回 BCP対策の手順】
- 第37回 企業のBCP対策【第1回 BCP対策の状況】
- 第36回 企業不祥事の要因【第2回 自動車開発の不正認証取得事例から見る改善ポイント】
- 第35回 企業不祥事の要因【第1回 自動車関連企業の不正】
- 第34回 企業が行うべきリスクヘッジ【第4回 盗聴・盗撮から企業を守るためのリスクヘッジ】
- 第33回 企業が行うべきリスクヘッジ【第3回 情報漏えいのリスクヘッジ】
- 第32回 企業が行うべきリスクヘッジ【第2回 リスクヘッジの取り組み方】
- 第31回 企業が行うべきリスクヘッジ【第1回 リスクヘッジ能力の高い人材の確保と育成】
- 第30回 職場の心理的安全性
- 第29回 注意義務となっている反社チェック
- 第28回 投資先、出資先とのトラブル未然防止と発生後の対処
- 第27回 企業が行うべき反社チェックとは
- 第26回 企業におけるハラスメント 【第4回 企業間で発生するカスタマーハラスメント(カスハラ)とその対応】
- 第25回 企業におけるハラスメント【第3回 カスタマーハラスメントへの対応】
- 第24回 企業におけるハラスメント【第2回 パワーハラスメントの分類と事例】
- 第23回 企業におけるハラスメント【第1回パワーハラスメントがもたらす企業リスク】
- 第22回 企業のリスクマネジメントとして行う素行調査の有効性
- 第21回 反社チェックのポイント(採用編)
- 第20回 採用リスクを回避するバックグラウンドチェック(経歴調査)とは
- 第19回 個人情報との向き合い方【第2回 情報が流出する原因とリスクマネジメント】
- 第18回 個人情報との向き合い方【第1回 個人情報の背景と現在】
- 第17回 外部専門会社を活用した前職調査や身元調査で明らかになるネガティブ情報とは
- 第16回 資金調達における反社会的勢力の規制への対応について
- 第15回 倒産リスクのシグナルを読み取る必要性とポイント
- 第14回 顧客満足度を向上させるための相談窓口の設置
- 第13回 信用取引において必要不可欠な与信管理とは
- 第12回 オンライン面接へシフトする採用市場における調査専門会社の活用
- 第11回 採用時にネガティブ情報をつきとめるバックグラウンドチェック
- 第10回 企業の社会的責任として求められる、組織全体で行う反社対策
- 第9回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第3回 内部統制の効果的な運用】
- 第8回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第2回 内部統制の体制づくり】
- 第7回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第1回 内部統制とは?】
- 第6回 不良債権リスクの高まりでより必要不可欠となる与信管理
- 第5回 コロナ禍の資金調達難に付け入る反社や黒社会の融資や買収の危険性
- 第4回 アリバイ会社との取引が懸念される場合の企業調査対策とは
- 第3回 採用調査で重要性が増しているリファレンスチェック
- 第2回 ビジネス取引において実施される信用調査とは
- 第1回 貸し倒れリスクを回避するための債権回収の対策