ドラッカーから起業を学ぶ

第11回

マーケティングを始点とする

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ドラッカーは、マーケティングが販売を不要にすると言っていると聞きました。」

「仰るとおりです。良く、ご存じでしたね。」

「起業したばかりで、自分の製品やサービスを知ってもらうこと自体がとても困難な者にとって、販売が不要だという言葉はとても魅力的に映ります。一方で、それが無理なことも知っていますが。」

「どうして販売を不要にすることが無理だと思われるのですか?」

「だってそうではないですか。ビジネスで一番、大変なことは、買ってもらうことなんですよ。それが不要になるだなんて、世の中、そんな楽なものではありません。」

「では、マーケティングが楽だと?」

「そうではないのですか?」

「ドラッカーは、販売よりマーケティングの方が楽だとか、やはり販売の方が楽だとかについて、述べている訳ではありません。言っているのは、マーケティングが販売を不要にするということだけですよ。」

「確かにそうかもしれませんが、私にはこの言葉は、辛い販売から逃避したいという私たちの気持ちにつけ込んで、さも楽ができるようにドラッカーが騙しているように感じていました。」

「だから、そのような読み方はドラッカーの意図ではないのです。ドラッカーの趣旨は『販売ではなくマーケティングを心がけなさい。それが根本的な解決策だからです』と言いたかっただけだと思います。」

「仰る意味が分かりません。教えてもらえませんか?」


販売:見当違いの努力?


「ドラッカーの言葉の出発点は『販売とは、時には見当違いな努力になりがちだ』ということだと思います。」

「何ですって!販売が見当違いだなんて、ドラッカーの指摘の方が見当違いだと思います。」

「そうですか?では、考えてみてください。あなたがお近付きになりたい人が、他人の方が好きなようです。その時あなたは、どうしますか?お金をかけてドレスアップして訪問し、自分の方が他の競争者よりも魅力だとアピールし、自分と付き合うとどんなに得かを印象付けようとするでしょうか?」

「その方法は、多くの場合、逆効果でしょう。それよりも、私について快く思っていない理由を知り、それを改めた方が良いと思います。」

「そうなんです。今、あなたが言われたことが、ドラッカーの言うマーケティングなのですよ。」

「えっ、そうなんですか?とすると、自分を快く思っていない相手に切り込んでいき、アピールすることを販売と言っているのでしょうか?」

「まさに、その通りです。」


見当違いに努力や資源をつぎ込むな


「今の例えは印象的ですね。販売が見当違いな努力になりがちだということ、よく分かりました。」

「ご理解頂けて良かったです。あなたが『これはすばらしい商品だ!サービスだ!』と思っているのに、お客様が買ってくれないという場合、理由があります。その理由を解決しないで売ろうと努力すると、その努力は見当違いなものになりがちだとドラッカーは指摘したのです。」

「資源や時間の浪費になる訳ですね。」

「それよりも、私の商品やサービスを買ってくれない理由を問うて、それに対応した方が良いと、ドラッカーは言いたかったのです。」

「自分の売りたいものを顧客が買ってくれる理由を作ることが、ドラッカーのいうマーケティングなのですね。」

「仰るとおりです。」


ドラッカーの言葉を実践する


「とすると、どうしたらドラッカーの言葉を実践したことになるのでしょうか?」

「顧客から答えを得る努力をすることでしょうね。」

「アンケートを取るのですか?」

「それも、あると思います。でも、アンケートを取るだけではありませんね。顧客を観察することも、できると思います。」

「今流行のビックデータですか?」

「それも一つの方法ですね。最近では、今までなかったようなデータが手に入り、商売に活用できると聞いています。」

「検討してみることにします。」

「一方で、原始的な方法も有効だと思いますよ。」

「どんな方法があるのですか?」

「私が若かった頃には、流行っている同業他社さんを研究させてもらいました。そうすると、お客様が何を求めているのか、私にはなく、同業他社様にある何を欲しがっているのか、よく分かったのです。」

「そうすることが、私が選ばれる理由を作っていくことに繋がるのですね。」

「そうです。是非、マーケティングを出発点にしてみてください。ドラッカーの言葉が実感できると思いますよ。」

 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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