ドラッカーから起業を学ぶ

第28回

人材育成というマネジメント

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「前々回、前回と方向合わせによるマネジメントについてお話ししました。」

「恐怖によるマネジメントでは企業として望む成果を得られにくい。だから方向合わせによるマネジメントを目指すようにということと、それを行うためには目標設定を始点とする5つのステップを踏むようにとのお話でしたね。」

「その通りです。」

「そのお話をお聞きし、反芻して考えているうちに、組織することや動機付け・コミュニケーションと、人材開発のいずれに力を入れたほうが良いのかなと疑問に思うようになりました。」

「それは、とても素晴らしい問題意識だと思います。私も、かつてそう思ったことがあるのですよ。」

「その時には、どんな結論になったのですか?」

「今日はそれを考えてみましょう。」


マネジメントの5つのステップ

「ドラッカーが提示した5つのステップは、まるでPDCAサイクルのように見えますね。」

「私もそう思います。
① 目標を設定すること
② 組織すること
③ 動機付けとコミュニケーションを図ること
④ 測定評価すること
⑤ 人材を開発すること
のうち、①がPlan、②と③がDo、④がCheck、そして⑤がActに該当するように見えますね。」

「ドラッカーがPDCAサイクルについて述べているかどうかは異論があるところなのですが、ここではその議論は措いておきましょう。ここでは、Doである組織化と動機付け、コミュニケーションと、Actである人材開発がどのような関係にあるのか、考えてみたいと思います。」

「お願いします。私がこのことについて疑問に思ったのは、Doである組織化と動機付け、コミュニケーションよりも、Actである人材開発の方がずっと息の長い取り組みだと思われるからです。」

「なるほど。それの感想は、的を射ているように感じられますね。PDCAサイクルを用いた取組みの代表例として品質管理があります。規定の品質を満たす製品を設計して製造方法を計画し(Plan)、それを実行する(Do)。できあがった製品をチェックして(Check)、それに品質を満足しない製品があったら手直ししたり廃棄したりする(Act)というものです。この場合、Actはそれまでの取組みにとって付随的なものですね。それを行う時間も労力も、それまでの取組みに比べてそんなに大きなものではなさそうです。」


人材開発のPDCAのサイクルも回す

「私も、そう思います。一方で、人材開発は、一面から見れば組織が活動する目的そのものに関わる取組みと言えますよね。そんな大切なことは、一連の作業工程の末尾の部分でチョコっと取り組めば良いものではないと思います。こちらも、例えばPDCAのサイクルをもう一つ回しながら取り組むべきではないかと思うのです。」

「そうですね。私もそう思います。そして私は、ドラッカーもそう思ったからこそ、このような表現をしたのではないかと思うようになったのです。」

「えっ、それはどういう意味ですか?」

「方向合わせによるマネジメントを適切に行うには、人材開発も同時に行う必要がある。もう一つPDCAのサイクルを回すくらいのつもりで、しっかり取組む必要があろうということです。」

「どうしてそのように思われるのですか?」


人と仕事のマネジメントから得られる示唆

「それは、ドラッカーがマネジメントを考えるとき、『人と仕事マネジメント』という構図を基本にしているからです。」

「前にお聞きしましたね。期待する成果をあげてくれるようマネジメントするためには、人に対して働きかけるマネジメントを行うだけでなく、『このようにやったら期待した成果が得られる』と思われる仕事を与えなければならない。つまり仕事のマネジメントも行わなければならないというものでした。」

「よく覚えておられましたね。その通りです。」

「それと今回の問題が、どのように関係しているのですか?」

「ドラッカーが提唱した『人と仕事のマネジメント』という構図は『何か働きかけをしようとする時には、働きかけそのものだけではなく、その受け手のことも考えなければならない』という考え方に基づいていると思われます。」

「そうですね。その通りだと思います。」

「とすると、方向合わせによるマネジメントを行おうとする場合に、会社の方向を提示するだけではなく、働き手がどのような受け取り方をするかまで考えた方が良いのではないでしょうか?」

「確かに。会社とは絶対に交わらないような方向性を働き手が持っていたら、方向合わせのやりようがないですものね。」

「それを、人材開発が担っているのではないかと考えたのです。」


会社と方向を合わせられる人材を開発する

「しかし、会社と方向を合わせられる人材を、どのように開発することができるのでしょうか?」

「ドラッカーは、そのことについては『マネジメント』の中で取り立てて説明はしていないようです。逆に言うと、『マネジメントの5つのステップ』で人材開発よりも前に位置付けられている4つを、人材開発としても行えば良いという意図ではないかと思います。」

「『マネジメントの5つのステップ』で人材開発よりも前に位置付けられる4つといえば、目標を起点に、組織化や動機付けとコミュニケーション、そして測定評価ですね。」

「そうです。人材開発についてもPDCAサイクルを回して取り組むとするならば、それは、
① 目標を設定すること
② 組織することについて人材開発すること
③ 動機付けとコミュニケーションを図ることについて人材開発すること
④ 測定評価すること
⑤ (不足点について再び)人材開発すること
となるかな、と思うのです。」

「なるほど。これらを行うことにより、目標や組織化、動機付けそしてコミュニケーションを理解し受け入れてくれる人材を育成するという訳ですね。」

「そうなんです。こうすることで、会社の方向性と交わることができる個人の方向性を考える人材を開発することができ、方向合わせによるマネジメントが可能になる訳です。」

「分かりました。試してみようと思います。」

 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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