ドラッカーから起業を学ぶ

第29回

プロフェッショナルのネットワーク

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「一つお聞きして良いですか?」

「もちろん、何なりと。」

「私はもともと法律事務所に勤めていましたが、先ごろ独立して行政書士としての業務を開始しました。法律事務所でそれなりの実績を積んできたので法的手続きに関する知識やノウハウについては自信があるのですが、なかなかビジネスに繋がりません。どうすれば良いのでしょうか?」


「私の仕事」を考える

「あなたの仕事は何ですか?」

「先ほども言ったように、行政書士です。」

「それをもっと分解してみましょう。行政書士の仕事には、何がありますか?」

「行政書士の仕事は、お客様が専門的な法律的文書を作成しなければならない時に、その作成を手助けし、時には代行することです。」

「それだけですか?」

「それだけです。」

「というより、それ以外の表現はありませんか?あなたが行なっている仕事が、お客様の何に役立つかということです。」

「ご質問の意味が、よく分かりません。」

「お客様が欲しいのは法律的な文書ですか?それとも、その文書があることによって得られる業務の遂行とか、安心感などですか?」

「それは、業務の遂行とか、安心感などだと思います。でも、私の仕事がそれを実現するというのは、少しおこがましい気がします。そういう効果は、例えば会計支援や労務支援などの専門家とタイアップして、初めて生まれてくることだからです。」

「とても良いことに気がつかれました!」

「は?」


お客様にベネフィットを訴える

「お客様が欲しいのは法律的な文書ではありません。その文書があることによって得られる業務の遂行とか、安心感などです。そちらを訴えなければ、お客様は『それを欲しい』とは思わないのです。」

「確かに。でも、先ほども言いましたけれど、私だけでそれをなし得る訳ではありません。他の専門家とタイアップして、初めて生まれてくることなのです。」

「では、どうすれば良いのですか?」

「どうすれば良いのでしょうか?」


プロフェッショナル

「ドラッカーは何と言っていると思いますか?」

「えっ、ドラッカーが行政書士の仕事について、儲け方を教えているのですか?」

「いや、さすがのドラッカーも、行政書士さんの儲け方についてアドバイスしている訳ではありません。しかし、自分の仕事だけでは顧客の満足をうまく実現できない場合の対処法について、アドバイスしています。」

「えっ、そうなのですか?」

「ドラッカーの著作のうち『プロフェッショナルの条件』は読んだことはありませんか?」

「ありますが、あまり記憶には残っていません。あれは、例えばコンピューターのプログラマーなど、本当に『プロフェッショナル』と言われている人向けに書いたものだと思っていました。」

「そういうあなたも、プロフェッショナルですよ。専門分野のエキスパートなんですから。そして、先ほども申したように、自分だけでは顧客の満足をうまく実現できないという性質を持った仕事に従事しているという意味でもあります。」

「悔しいけど、確かにそうです。」


ベネフィットを生むネットワークを形成する

「では、お客様はどうやって、自分の満足を得ていると思いますか?」

「いろいろなプロフェッショナルの仕事を複合的に受けることによってでしょうね。」

「それをお客様自身でやるとなると、かなり大変そうですね。」

「気が遠くなりそうです。どうしたら良いでしょうか?」

「そういう、色々なプロフェッショナルを一堂に集めておき、必要に応じて専門家を組み合わせて提供するというサービス方法があります。」

「理想的ですが、そんなこと、可能なのでしょうか?」

「中川さんも、よく見かけている施設ですよ。病院です。」

「なるほど。内科や外科のドクター以外に、放射線技師やリハビリテーション療法士、そして看護師などの専門家を取り揃えて、必要に応じてチームを編成し、各人が専門分野で全力で取り組んでもらうことで、顧客満足を実現している訳ですね。」

「そうなんです。行政書士の仕事の場合、病院のような施設を作るのは難しいかもしれませんが、お客様が目指す成果を得てベネフィットを感じてもらえるように、専門家のネットワークを形成するのはどうでしょう?」

「確かに、その方法はありますね。そうやって連携すれば、お客様に満足してもらうことができると思いました。」

「ぜひ、試してみてください。」

 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

ドラッカーから起業を学ぶ

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。