「ビジネスモデルについてお話をお聞きして、実際にやってみました。すると、いろいろと分かったことがあります。」
「何がお分かりになったのですか?」
「これから、いろいろな人と新たな関係を築いていかなければならないと言うことです。」
「なるほど。良いことにお気付きになりましたね。どうしてそれに気付かれたのですか?」
「ビジネスモデルを書いているうちに、ふと、思ったのです。『私は、このビジネスを成り立たせるために付き合わなければならない人たちと、誰とも付き合っていないのではないか』と。」
「それは素晴らしいことに気付かれましたね。私はかねがね、起業家にとって、ビジネスを成り立たせるために必要となる関係が重要だと思っていました。ドラッカーのいう『関係のマネジメント』に通じることです。」
顧客との関係
「では、誰と新たな関係を築いていかなければならないとお感じになったのですか?」
「2種類の人々ですが、まずは顧客になる人々です。」
(編注:もう一種類の人々については次週に取り上げます)。
「今まで、顧客になる人々と付き合っていなかったのですか?」
「もちろんあります。でも、お客様のメインとなる層が、変わってくると思うのです。」
「それはどのような意味ですか?」
「私にも今まで『この人は、私のお客様になってくれるかも知れない』と思うような人がいました。でも、ビジネスモデルを作りながら気が付いたんです。それらの人たちは、実は私のメインのお客様ではないということ。敢えていうと、メインのお客様ではあってはいけないのです。」
「どういう意味ですか?」
ビジネスを始める時の顧客
「私が最初に自分のお客様だと思ったのは、実は仲間なのです。」
「仲間?」
「昔からの友人とか、独立を目指して共に学んだ人々ですね。そういう仲間同士で、ある時はクライアントになってあげ、別の時にはクライアントになってもらうことで、互いに助け合うわけです。」
「なるほど、良いシステムですね。」
「確かに良いシステムですが、それにばかり頼りすぎると、じり貧になってしまうでしょう。お互いに収入のやり取りをしていたのでは、ご飯を食べなければならない分は減ってしまいますからね。」
「ご飯を食べる部分が減ってしまうとは、面白い表現ですね。けだし、名言です。」
「いや、笑い事ではないですよ。顧客として、仲間しかいなければ、いつかはじり貧になってしまうのは必然です。」
「とても良いことに気が付かれました。あなたの場合にはマーケティングというとても汎用性の高いコンサルティングをされているということで、起業を目指す仲間も顧客になってもらえる可能性があります。」
「そうです。その存在が、起業に向けて私の背中を押してくれたとも言えます。」
「一方で、それほど汎用性のない製品やサービスを提供しようとする起業家の場合には、前職の会社や、その取引先などが顧客になってくれる可能性があります。」
「そういうこともあるのでしょうね。」
「そういう顧客だけでずっと、ビジネスが回っていけば良いのですが、だいたい、そうは問屋が卸しません。」
「仰る意味、分かります。」
「あなたの場合には、仲間の人たちはいずれ事業を成功させて、あなたから巣立ってしまうかもしれませんね。前職の会社や取引先などを顧客にしている場合でも、そういう関係がずっと続くとは限りません。」
「本当に、そうですね。」
「だからこそ、新しい関係、つまり将来の顧客との関係を結ぶことが重要になるのです。」
どうやって関係を築くか
「では、未来の顧客と、どうやって関係を築こうとしているのですか?」
「よく分かりませんが、やっぱり広告・宣伝かなと思っています。」
「ドラッカーは『マーケティングは販売を不要にする』と言っていますよ。この場合の販売は、広告・宣伝のことだと思ってください。」
「いや、ドラッカーのいう『マーケティング』も、よく意味がわかりません。」
「そうですか。ではドラッカーのいうマーケティングとは、平たく言えば『顧客の望んでいるものを聞いて、もしくは察して、それを実現して提供することだ』と考えてください。」
「うーん。言っておられる意味は分かりましたが、ではその考え方でどうやって未来の顧客と関係を結んだら良いのか、分かりません。」
「そうですか?では、一歩戻ってみましょう。未来にお客様になってもらいたい人はどんな人か、見定めていますか?」
「それは考えています。街で真面目に仕事をしているのになかなか儲からないお店の方々に、マーケティングでお役に立ちたいのです。そうやって地元活性化のお手伝いができたらと思っています。」
「では、なぜそれを、近くの商店街の経営者に言わないのですか?」
「自分ではまだ、実力が足りないと感じているからです。そういう方々の支えになるためには、もっと経験を積み、ノウハウを会得する必要があります。」
「それは良い心掛けですね。」
「そう言って頂けると、嬉しいです。」
「でも、それでは前に進めないのではないですか?」
「そうなんです。」
強みを起点にマーケティングする
「話を変えましょう。あなたには、限られた範囲で良いので、これなら他のコンサルタント、実績のある専門家に負けないという分野はないのですか?」
「それは、あります。ネットで集客する方法については、かなりのノウハウを持っています。これまでも実践して成果をあげてきました。」
「それを、未来の顧客に伝えてみたらどうでしょうか?」
「多少は興味を持ってくれるかもしれません。でも、よく話し合うと、それだけでは商店街の店を立て直すことは難しいと思うのです。商店街だと、リアルな店舗にお客様を連れてこなければなりませんから。」
「それが分かったら、どうするのですか?」
「その分野の勉強をし、実績を重ねます。」
「そうですね。どうやって?」
「それが問題なのです。実際にお客様がいないと、実績を積むことはできません。」
「では、実績を積める方法を考えたらどうですか?」
「うーん。」
「例えばプロジェクトを分けてみるのはどうでしょうか?ネット集客は自分に実力があるのできちんと料金を頂く。リアルな集客は、自分も修行中なので料金は頂かない。そして両方のサービスは提供させて頂くとするのです。」
「そうか、そうすれば、お客様の要望を聞きながら実現していく真のマーケティングができるのですね。」
「そうです。ここで言いたかったのは、実績のない仕事でも喰いついていくようにとか、自信のないことは無料で行うと申し出るように、ということではありません。必要な関係を築くためにできることは何でもやっていくこと、そのために知恵を絞ることです。」
「それを行う上で、マーケティングの考え方や『強みをベースにする』という原則を応用するのですね。」
「そうです。そしてお客様との関係が始まったら、真摯に対応してください。」
「そうします。道が拓けた感じがしてきました。」