ドラッカーから起業を学ぶ

第26回

恐怖によるマネジメントと方向合わせによるマネジメント

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ひとつお聞きして良いですか?」

「何なりと。」

「私は小さな商店を始めたばかりの田上と言います。従業員も何人かいます。決して悪い人たちではないと思うのですが、私が思ったようには働いてくれません。」

「例えばどんなことですか?」

「お客様には丁寧に接するようにいつも言っているのですが、いつの間にかタメ口になっています。先日などは命令口調にさえ聞こえるような話し方でした。」

「なるほど。」

「で、先日に厳しく指示したのですが、それが逆効果だったようです。」

「聞いてくれないのですか?」

「いいえ。指示には従ってくれます。しかし、職場の雰囲気は悪くなりました。また、今度は別の何かが失われたような気もしています。トータルとしては、厳しく言ったことが良かったのか悪かったのか、分からないのです。」

「それは素晴らしいことにお気付きになったと思います。」


恐怖によるマネジメント

「これが素晴らしい気付きなのですか?さっぱり訳がわかりません。」

「でも、そうなのですよ。田上さんは『恐怖によるマネジメント』が真の力を持ち得ないことに、身をもって気付かれたのですから。」

「恐怖によるマネジメントですか?」

「そうです。上司が部下に自分の考えなどを実行させようとする方法には2つあります。その一つが、恐怖によるマネジメントです。」

「確かに、マネジメントとは上司が部下に言うことを聞かせることですよね。しかし『恐怖によるマネジメント』なんて、おどろおどろしい言葉ですね。そんな特殊なマネジメントを行う人は、少ないでしょう?」

「そうでしょうか?恐怖によるマネジメントとは『自分の命令に従わないと給料を下げるぞ』とか、「目標を達成できないとボーナスを与えないぞ』と言うマネジメントなんです。」

「そうなんですか?それは普通のマネジメント方法ではないですか。それが『恐怖によるマネジメント』だなんて。」


恐怖によるマネジメントの弊害

「びっくりされたことと思います。でも、それが普段、みんなが行っているマネジメントではないですか?」

「そうですね。そう言われて、落ち着いて考えてみると、おっしゃる通りだと思いました。」

「このマネジメントのデメリットは、何だと思いますか?」

「私が感じていること、そのものですよね。私が部下を厳しく叱咤した時に失われたもの。それは職場の良好な雰囲気や、部下の自発性ではないかと思います。今までは自分で工夫して何かをしようという気持ちが見えていたような気がしますが、今はないのです。怒られたくないという気持ちが、先に立ってしまうのでしょうね。」

「たぶん、おっしゃる通りなのでしょうね。」

「それに、職場での信頼感や、一体感も薄れたと思います。私と部下との関係でもそうですし、部下同士にも、そんな雰囲気が流れているような気がします。」

「そうなんですか。」


方向合わせによるマネジメント

「私のマネジメントが間違っていたこと、分かりました。しかし、どうすれば良いのでしょう。恐怖のマネジメントは、しかし実際は多く使われている方法です。それ以外の方法が思いつかないのですが。」

「ドラッカーはもう一つ、マネジメントの方法を提示しているのですよ。」

「ほう。それは何なのでしょうか?」

「方向合わせによるマネジメントです。」

「方向合わせによるマネジメントですって?それは何ですか?」

「『あなたの得たいものを得たら、私が得たいものも得られる。だから、両方が得たいものを得られるよう力を合わせよう』というものです。」

「『あなたの得たいもの』とは何ですか?」

「例えばあなたの部下は、もしかすると、自分なりの創意工夫として仲間と話すような口調でお客様と会話したのではないでしょうか?」

「そうかもしれません。でも、危なっかしいのです。私たちは経験から、仲間に話すような話し方が効果的な相手を知っていますが、彼らはそういう機微を知らないので、時には顧客を怒らせたりするのです。」

「なるほど。そういう時、どう言っているのですか?」

「『そのような話し方はダメだと、何度言ったら分かるんだ。こちらの指示が守れないようならボーナスは出せないぞ。指示通りにしろ』と言いました。」

「典型的な、恐怖によるマネジメントですね。」

「今思うと、そうですね。」


方向合わせによるマネジメントの例

「方向合わせによるマネジメントなら、なんと言えますか?」

「『君の熱意は分かっている。創意工夫を発揮して、楽しく仕事をしてもらいたいとも思っている。でもな、野球の試合にはルールがある。ルールを守らなければ熱意があろうと、創意工夫があろうと、勝てないんだ。同じように仕事にもルールがある。それを守ってこそ、君の熱意が生きてくるというものじゃないか。ルールを守りながら楽しく、熱意を込めて仕事ができるようになって欲しいんだ。そういうところに、君の創意工夫を発揮して欲しいんだ』と言えますね。」

「最初にしては素晴らしい気付きではないですか。ぜひ、そのような、方向合わせによるマネジメントを進めていってください。」
 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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