「先週、ドラッカーを学ぶ意味について教えて頂きました。ドラッカーはマネジメントの体系を考えたので、特に経営者が学ぶには最適だとのお話だったと思います。」
「その通りです。よく、覚えておられましたね。」
「ええ、そのことを、ずっと考えていたものですから。」
「どのようにですか?」
「マネジメントを体系的に学ぶことで経営の全体が分かり、穴がなくなるというお話でしたね。そのメリットは、経営者にとっては大きいと思います。」
「そう思って、ドラッカーをもとにお話していたのです。」
「でもドラッカーは所詮、一個人ですよね。もうお亡くなりになってもいます。ということは、その考察も止まっている、最新の研究ではないということです。それでも、ドラッカーを学ぶ意味があるのでしょうか?」
「そうですね。学問は、ご指摘の通りどんどんと進歩していっています。でも、そうとは言えない部分もあるのではないかと、私は考えています。」
「どのようなことですか?」
「いや、そんなに難しいことではないのですよ。ドラッカーが究明したことの中には、後に続く人が専門化して深堀りした部分もあります。しかし、後に続く人がほとんどいないので、ドラッカーの指摘から学ぶしかない分野もあるのです。」
「それは本当ですか?どのようなところですか?」
マネジメントの体系
「いろいろあると思いますが、ここでは2点に絞ってご説明させていただきましょう(コラムとしては今週に1点、来週にもう1点をご説明します)。第1は、マネジメントの体系についてです。」
「マネジメントの体系については、前回にお話頂いたのではないですか?」
「そうですね。でも、ドラッカーがまとめたマネジメント体系の特徴は、お話していませんでした。それについて、いつか、お話したいと思っていたのです。」
「それは、ちょうど良いタイミングで質問させてもらったのですね。その解説を、お願いします。」
ドラッカーのマネジメント体系とは
「マネジメントの体系というと、どのようなものをお考えになりますか?」
「マーケティングとか生産管理、リーダーシップ、会計などだと思います。」
「そうですね。それが一般に言う、マネジメントの体系だと思います。でも、ドラッカーは、その体系を提示しているでしょうか?」
「えーっと。」
「ここに『マネジメント エッセンシャル版』がありますからご覧になって下さい。」
「あれっ!不思議ですね。マーケティングや生産管理、リーダーシップ、会計などの項目はありません。」
「そうなんです。代わりにあるのは何ですか?」
「パートの分け方からすると『マネジメントの使命』、『マネジメントの方法』、そして『マネジメントの戦略』ですね。」
「そうです。その違いは何から来ていると思いますか?」
「さあ?」
解剖学的な体系・日常活動的な体系
「私はこの違いを、人体研究になぞらえて説明できるかなと思っています。」
「人体研究?」
「変な言葉使いですね。医学的と言っても良いのでしょうけれど、私は医学をきちんと学んだことがないので、誤解を生まないように、こういう言い方をしています。」
「それで、どのような違いなのですか?」
「まず、人体で考えてみましょう。解剖学的なアプローチとは、人体を、脳とか心臓、胃腸、腎臓、肝臓などと分けて研究するアプローチです。」
「はい。」
「一方で、活動的アプローチとは、呼吸をする、食事をする、会社で仕事をするなど、人間の各活動において人体のそれぞれがどんな役割を果たしているかを考えるアプローチです。」
「なるほど。」
「マネジメントの体系を、マーケティングとか生産管理、リーダーシップ、会計などと表現するのは、人体研究においては解剖学的なアプローチではないかと思っています。」
「そう言われれば、確かに。」
「一方で、ドラッカーのアプローチは、活動的アプローチだと私は考えています。」
「どういう意味ですか?」
「ドラッカーは『企業の使命を明らかにしてマネジメントに備える』、『実際にマネジメントを行う』、そして『フィードバックしてマネジメントを戦略的に改善していく』という場面ごとに、何をすべきかを提示したのです。」
「そう言われると、私もそのように感じてきました。」
2つのアプローチからマネジメントの体系を学ぶ
「マネジメントの体系には2つのアプローチがあるというお話、ご理解頂けたと思います。」
「本屋でよく見かける本などで採用されている解剖学的なアプローチと、ドラッカーが採用している活動的アプローチですね。」
「そうです。」
「それで、ドラッカーの方が優れていると仰りたいのですか?」
「いいえ、そうではありません。私は両方とも、重要だと思っています。」
「一つ覚えておくだけでは、不足なのですか?解剖学的なアプローチの方が情報が多いと思いますから。」
「身体の例で、考えてみてください。あなたは医者になるお積もりはないでしょう。そういうあなたにとって、解剖学的なアプローチでの医学的知識だけで大丈夫でしょうか?」
「日常生活では、活動的アプローチの知識も大切ですね。」
「そうですね。私もそう思います。では、経営者のあなたにとって、解剖学的アプローチの知識だけで大丈夫ですか?」
「マネジメントについての専門家、つまり学者になる積もりはないという前提でですね。だとすると、活動学的アプローチでの知識も大切ですね。」
「そうですね。ただ、解剖学的アプローチの知識が不要というわけでも、ないと思います。」
「確かに。活動学的アプローチでの理解も、それによって深まるでしょうからね。」
「そうなんです。解剖学的アプローチと、活動学的アプローチは、車の両輪です。」
ドラッカーしか提示していない活動学的アプローチ
「さて、前置きが長くなってしまいました。マネジメントを学ぶに当たって解剖学的アプローチと、活動学的アプローチがあります。解剖学的アプローチに関しては、ご覧の通り、山ほど書籍があります。たくさんの学者さんが研究しておられます。」
「その通りですね。」
「一方で、活動学的アプローチでの研究をしている人は、ドラッカー以外にいるでしょうか?」
「そう言われてみると、いませんね。」
「そうなんです。それが、実務家にドラッカーを学ぶようお勧めしている理由なのですよ。」
「なるほど。わかりました。」