ドラッカーから起業を学ぶ

第19回

誰からどのように資金調達するかを考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「少しお話を聞いてよいでしょうか?」

「もちろん、どうぞ。」

「起業してしばらくたったところです。雑貨の販売業ですが、小さく始めて、それなりに順調に進展していると思います。ここで事業を、もう一段、拡大したいと思うようになりました。」

「それは素晴らしいことですね。それで、どんなご質問ですか?」

「事業を拡大するためには、資金が必要です。自己資金では不足なので、他から調達しなければなりません。」

「なるほど。」

「但し、調達できるあてがないという訳ではないのです。税理士は、この調子だと、金融機関も貸してくれるのではないかと言っています。」

「それは素晴らしいですね。」

「他にも、友人と親が、お金を貸してくれると言っています。」

「そうなんですか!」

「それで、どこから調達するのが良いかなと思いまして。」


定説:コスト・確実性

「まず、ご自分はどうお考えですか?」

「いろいろ本は読みました。多くの本は、コストと確実性で考えるよう、指摘していました。」

「コストと確実性ですか?」

「利息と、何か困った時に猶予をくれるのか、それとも回収を図ろうとするのか、ということですね。」

「確かに、そういう観点は大事ですね。とすると、どうなるのでしょう?」

「金融機関は、困った時に回収しようとする可能性があると聞きました。だから、やめておこうと思います。」

「なるほど。」

「それから親は、私への出資を、一つの投資とみているようです。なので利息はがっぽりもらうよと言っています。だからやめておこうかと。」

「なるほど、それで、消去法で友人ですか?」

「彼は昔からの友人で、経営のこともよく知っています。中小企業の実体を良く知っているので『元本も金利も、ある時払いの催促なしで済むように出資という形にしておこうか』と言ってくれます。こういう人からのお金を借りておくのが一番良いかなと思っています。」

「そうなんですか?ドラッカーが何と言っているか、調べてみるのは如何ですか?」

「えっ、ドラッカーが資金調達について、何かアドバイスしているのですか?」


理念に共感してくれる人から調達する

「ドラッカーは『非営利組織の経営』という本の中で『資金源開拓』に関するセクションを置いています。つまり、募金ですね。」

「募金ですか?私の場合は借金なので、少し事情が違うと思いますが。」

「まあ、聞いて下さい。ドラッカーは、募金を受け付けるときに、NPOの理念に共感して支援してくれるところから資金を集めるようにと言っています。」

「なるほど。金を出して口も出すところはご遠慮願うのですね。」

「口を出すところは全て排除するようにという趣旨ではないと思います。NPOの理念を実現するために現場では何をすればよいのか、戦略やオペレーションに提案してくれる相手なら歓迎しても良いかも知れません。」

「でも、理念にあれこれ言うような相手は遠慮しておいた方が良いのですね。」

「そうなんです。NPOの理念は、実はNPOが存立する源泉で、活動の全てに影響を与えています。ボランティアは理念に共感して集まってくれますし、もしNPOが商品等を販売しているとすれば、お客さまは理念に共感して買ってくれるでしょう。」

「その通りですね。その時にもし、出資者が口を出して理念を変えてしまうと、ボランティアは出て行き、共感して商品を買ってくれる人も離れていってしまうでしょう。」


出資の意味合い

「同じことが、あなたの会社でも言えませんか。」

「そうですね。会社の場合に出資を受けるのは、理念にもの申すだけでなく、会社の経営権そのものを奪われる可能性もあるということなのでしょうか?」

「今は考えにくいかも知れませんが、それも考慮に入れた方が良いと思います。」

「いや、思い当たることもあるのです。友人が『元本も金利も、ある時払いの催促なしで済むように出資という形にしておこうか』と言ってくれたとき、これほどの大きなメリットを私に与えてくれるとは、裏では何を私に求めているのかな、と。」

「そうですね。お金という貴重な資源を融通してくれる以上、相手が何かを求めることは当然といえます。では、それは何なのか?お金の調達方法によって、一定のルールがあります。借金の場合は、利息や、いざという時に返済を求められる可能性があるという負担がある一方で、経営権に踏み込まれることはまずないでしょう。一方で出資の場合は、利息や突然の資金回収という負担は少ない一方で、経営権に踏み込まれる可能性は高くなります。というか、それを目指して出資する者も少なくありません。これによって経営権を奪われることはないか、経営の方向性に強いバイアスがかかることはないか?それらについて、しっかり確認した上で判断した方が良いと思います。」

「ありがとうございます。確認した上で、きちんと考えてみます。」
 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

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