「以前に、PDCAサイクルについてお伺いしましたね。マネジメントが問題になっている場合にはPDCAサイクルで対応できる場面が多いというお話でした。」
「よく覚えておられましたね。そう、申し上げました。」
「しかし私は、自分のマネジメントをPDCAサイクルで磨いていくのは難しいのではないかと思うようになりました。」
「どうしてですか?」
「そもそも、計画を立てること自体が難しいのです。このため、PDCAどころかフィードバックも難しいのではないかと。」
「例えば、どういう時にそうなるとお考えなのですか?」
「ちょうど今のような状況の時です。先が見えず、暗中模索している時です。」
「なるほど。」
行き当たりバッタリ戦略
「起業したての頃は、先が読めませんよね。そして最近は、先行きがとても不透明な状況だと思います。」
「仰るとおりですね。」
「そういう時に、特定の目標を掲げた計画を立ててしまうと、ビジネスが硬直化してしまわないでしょうか?」
「確かに、アントレプレナーのメリットは、身軽だということですからね。特にあなたの場合はコンサルタントという、とても柔軟性のある業態を選んでおられます。」
「そうなんです。にもかかわらず、例えば顧客ターゲットとか提供するサービスなどを特定して、それに集中してしまうと、自分のメリットを自ら放棄して、対応力を殺いでしまうような気がするのです。」
「そう思われたのですね。」
「だから私は、暗中模索の状況では、いわば『行き当たりバッタリ』で対応するしかないと考えているのです。」
「そういう事情だったのですか。」
行き当たりバッタリ戦略でも使えるPDCA
「ところで、今言われた『行き当たりバッタリ戦略』を採る場合でも、PDCAサイクルは活用できるということはご存じでしたか?」
「そんな、行き当たりバッタリにPDCAサイクルなんて、使える訳がないではないですか。」
「それは違いますね。行き当たりバッタリを目指すからこそ使うべきPDCAサイクルというものがあります。」
「訳が分かりません。」
経営戦略とマネジメントの違い
「先日、『経営戦略では柔軟性が大切なのでフィードバックで対応した方が適当だろう。一方でマネジメントは、PDCAサイクルで対応できる』というお話しをしました。」
「そうですね。そう、お伺いしました。」
「経営に関わる意思決定や行動という観点からすると経営戦略とマネジメントは近接していて区別しにくいと思いますが、誰に対して何をすることかという観点でシンプルに考えると区別しやすくなります。」
「ほう?」
「経営戦略をシンプルに表現すると、あなたの会社はどんな顧客に、何を提供するかに関して検討することだと言えるでしょう。」
「なるほど。」
「一方でマネジメントをシンプルに表現すると、あなたの会社をどのように組織化し、活用するかに関することです。特に従業員に上手く働いてもらうための措置が、マネジメントです。」
「なるほど。」
経営戦略ではフィードバックで対応する理由
「こう考えてみると、見えてくることはありませんか。」
「経営戦略とは、私の会社はどんな顧客に、何を提供するかに関することでした。顧客や、もっと広く捉えて市場というものは、私がコントロールできるものではありません。なので予断なく、柔軟に対応した方が良いということなのですね。」
「そうです。だからこそ、行っている取組みを止めるという選択肢もあるフィードバックの方が適切に対応できるわけです。」
マネジメントではPDCAサイクルで対応する理由
「その点、マネジメントとは、私の会社の中で働いてくれている人々をどのように組織化し、働いてもらうかに関することのようですね。」
「そうです。」
「この取組みを止めることなんか考えられないので、PDCAサイクルで良いというお話でした。」
「その通りです。」
「でも、今は特定の方向性を決めきれないでいるのですよ。だからこそ暗中模索で『行き当たりバッタリ戦略』を取ろうとしているのです。その場合でもPDCAサイクルなのですか?」
「ではお聞きしますが、従業員さんにも『行き当たりバッタリでやってくれ』というのですか?」
「いえ、そうではないです。『どんな状況でも、うまく立ち回ってくれ』と言います。」
「ほう。では、あなたの会社の従業員さんの立場になって考えてみて下さい。『会社としては行き当たりバッタリでいくのだけど、君たちにはいつもうまく立ち回って欲しい』と言われた場合です。それで、納得しますか?」
「それは無理ですね。」
「そしてあなたの『行き当たりバッタリ』がうまくいかなかったと上司が判断したら、怒られたりボーナスが下がったりしたとします。それでも頑張ることができますか?」
「それも無理だと思います。会社を辞めたいとさえ、思うかもしれません。」
「では、どうすれば良いのでしょう?」
方針や目標を決めることで、行き当たりバッタリが可能になる
「こうやって会話しているうちに、私のいう『行き当たりバッタリ』が、何も考えなしに対応することではないことに、気が付きました。『お客さまが満足してくれるように最善を尽くす』が基本理念、基本方針なんです。お客様に提供すべきものを、私たちが勝手に決めるのではなく、お客さまに決めてもらう。そして、お客さまのご希望を、できるだけ実現する。そのことを、行き当たりバッタリと言っていたのです。」
「そうですね。『行き当たりバッタリ』戦略を行う場合には、個々の働き手にどんな風に考えて欲しいのか、どのような判断をして欲しいのか、それを基本理念や方針として最初に明確に伝えることが必要になります。」
「確かに。」
理念や方針の実践をPDCAで磨いていく
「そうやって基本理念や方針を提示したら、社員さんは最初からうまく立ち回ってくれると思いますか?」
「それは、無理でしょうね。最初はトラブルの連続だと思います。お客さまを怒らせることもあるだろうし、会社が損をするような案件を受注してしまうかもしれない。」
「そうですね。その場合には、どうするのですか?」
「私の方針や理念を、改めて提示するのでしょうね。思い出してもらうだけでなく、追加の情報を提供する必要があるかもしれません。例えば『担当者の判断で決められるのは契約額30万円まで。それ以上の場合には上司と相談すること』などのルールを作るかもしれません。」
「そうしていけば、社員の皆さんにも、だんだんと基本理念や方針が浸透していくでしょうね。ちなみに今言われたことは、PDCAサイクルを回すことと言えないでしょうか?」
「あ、そうか。」
「こうやって考えてみると、マネジメントでは暗中模索の状況であっても、理念や方針、目標など、これをひっくるめて計画といいますが、計画を立てて実行に繋げていく、それを常にブラッシュアップして期待する成果が得られるようにすることが大切だと、お分かり頂けたのではないかと思います。」
「そうですね。よく分かりました。」