「一つお聞きして良いですか?」
「もちろん。私のことを、誰かからお聞きになったのですね。」
「うどん店を開店しようとしている末永君から、先生のことをお聞きしました。私は、美容院を開店したばかりの大塚といいます。」
「はじめまして。大塚さん。」
「末永君から先生が、今のところ確たる戦略がなく、できることは何でもやろうという姿勢の起業家でもPDCAサイクルは回せると仰っていたというお話を聞きました。」
「そうです。大塚さんは美容院を開店しようとしておられるのですね。例えばターゲット顧客を決めつけることなく、我がお店のお客さまとして一番マッチしているお客様を捜すという場面では、PDCAサイクルではなく仮説も捨てる場合もあり得るフィードバック分析の方が適しているかもしれません。しかし、自分たちのお店を理想の姿に近づけていく場面では、例えば従業員教育でPDCAサイクルを回していくことができます。そうすることで、ターゲットとして探すべき顧客もうまく見つかるようになるでしょう。」
「仰ること、その通りだと思うのです。それで従業員教育ではPDCAサイクルを回していくことにしたのですが・・・。」
「何か問題があったのですか?」
「いつ、そのサイクルを回していけばよいのか、わからなくなってきたのです。」
「と、言われると?」
「私が『こんなお店にしたい』といった場合、解ってくれてすぐに取り入れてくれる従業員と、なかなか解ってくれない従業員とがいるのです。でも、その従業員もいつか解ってくれるかもしれません。とすると、しばらく待つべきかと思って。」
「なるほど。」
「こういう場合、PDCAサイクルを回すのはどれくらいの期間が良いのでしょうか?一般の企業では昇進は年に1回ですから、私の場合でもやはり1年ですかね。それとも、もう少し頻度を上げて6ヶ月位が良いのでしょうか?」
「なるほど。事情をお話していないのでびっくりされると思いますが、答えから言うと、PDCAサイクルは臨機応変に設定することができます。1ヶ月でも1週間でも、1日、いやマネジメントしているその瞬間でも回していけます。」
「どういう意味か、全く分かりません。説明してもらえませんか?」
他人に向かうサイクルと、自分に向かうサイクル
「まず、PDCAサイクルに関する誤解から解いていきましょう。大塚さんは、PDCAサイクルのことを従業員の評価だと思っておられるようですね。」
「そうですけど、それが間違いだとでも言われるのですか?」
「そのようなPDCAサイクルも、もちろんあります。しかしマネジメントのPDCAサイクルは、それだけではありません。というよりも、自分に向かって回すサイクルの方が本質的なのですよ。」
「えっ、そうなのですか?他人に向かうサイクルと自分に向かうサイクルとは、どういう意味ですか?」
他人に向かうサイクル
「大塚さんは従業員さんに、どんなマネジメントをしておられるのですか?」
「今はお客さまを暖かくお迎えすることを目標としています。私は美容院を立ち上げるに当たって、何人かの友人を誘いました。もちろん、お客さまに喜んでもらえるお店を目指すという私の理想に納得してくれ、それに答えてくれる人を選びました。」
「なるほど。」
「しかし、実際にお店に立つと、意識というか、温度差を感じることはありますね。私以上の工夫で頑張ってくれる従業員もいますが、私が『ここは妥協できないな』と思うところがおざなりになってしまう人も、中にはいます。そういう人には給料やボーナスに反映して、お店の理念を浸透させようと思っています。」
「そうですか。そこで、彼らへの評価が問題になる訳ですね。」
「そうなんです。」
「しかし、彼らのうち、特に悪い評価を得てしまうことになる人にとってみれば、一定期間黙認されていたのに期末になったら悪い評価を得てしまうことになると、不満が出ませんかね。」
「いや。もちろん、注意などはしたのですよ。しかし、聞き入れてもらえなかったのです。」
「大塚さんは、あきらめてしまった訳ですね。」
「顧客サービスをあきらめた訳ではないですよ。ただ、私が口で伝えて改善してもらうことはあきらめたのです。」
「従業員さんは、どう思ったでしょうね?『大塚さんは、大塚さん流の顧客サービスをあきらめた、私のやり方で良い』と思ったのではないでしょうか?」
「そうかも知れません。でも、実際はそうではないことは、期末になったら分かります。」
「このようにマネジメントをしてもうまくいかない場合、他人を評価して相手の言動を変えようとすることを、私は便宜上、他人に向かうPDCAサイクルと言っています。」
自分に向かうサイクル
「では、自分に向かうPDCAサイクルとは、どんなものですか?」
「この場合なら、大塚さんの伝え方を改善することで、より効果的に、より早く成果が出るように工夫することです。」
「なるほど。」
「大塚さんは、どんな方法で伝えられましたか?」
「顧客への良くない対応があった時に『今のではだめじゃないか』と伝えることが多いですね。」
「その方は、具体的に何が悪いか、正確にわかったでしょうか?」
「うーん。僕は分かるのではないかと思いましたが、分からないですかね。」
「それに、どのように改めるべきか、説明されましたか?」
「それも言っていないです。私がいつもしていることを見ていれば、分かるはずですから。」
「なるほど。では、相手に対して何が悪かったか、どのように改めるべきかをきちんと伝えるようにすれば、大塚さんのマネジメントも随分、伝わるのではないですか?」
「うーん、確かに、そうなのかも知れません。」
「ここで私が申したかったポイントは、フィードバックとは、評価を相手に伝えるだけでなく、自分が行うマネジメントを改善していくという形で行うことができるということです。」
「なるほど。」
自分向きのサイクルなら臨機応変に設定できる
「相手に伝わっているかいないか分からないマネジメントを一回行い、相手の言動を見て半期とか一年とかの期間の後に評価して突きつけるよりも、マネジメントの度毎に、自分のマネジメントがうまくいっているかどうかを評価して改善していった方が、マネジメントは随分と良くなると思いませんか?」
「そういわれてみると、そうですね。」
「そしてこの場合、フィードバックは半年とか一年に限る必要はありません。自分が指示を行う度毎に、それを行うことができます。」
「例えば?」
「自分が伝えたいことを相手が上の空で聞いていると感じたら、その場で復唱してもらうことができるかもしれません。」
「確かにそうですね。」
「PDCAサイクルというのは、このように、半年とか一年とか、一定の期間を定めなければならないというものではありません。自分で自由に、サイクルを決めることができます。」
「確かに。」
「時にはそのサイクルを短くして、マネジメントした瞬間に相手の反応を見てその方法を変えてみることもできます。」
「確かに。」
「このように、PDCAのサイクルをTPOに合わせて臨機応変に設定することで、豊かな成果を得ることができます。」
「了解しました。」
「是非、実践してみて下さい。」
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