ドラッカーから起業を学ぶ

第18回

社会を取り込んだ事業モデルを考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「ひとつお聞きして良いですか?」

「もちろんです。」

「私はマッサージ店を開きたいと思っています。公的機関からの支援や融資を得るためには、新規起業するにあたっての事業計画を立てた方が良いと聞いて、計画書を作ってみました。しかし、あまり評判が良くありません。」

「それはどうしてですか?」

「計画書そのものの出来が悪いという訳ではないようです。必要事項については過不足なく書かれている、根拠もそれなりに考えているとの評価を頂きました。ただ・・・。」

「ただ・・・?」

「それではインパクトがないとのことです。マッサージ店を開きたいと思っている起業者は、山のようにいるそうですね。そういう人たちとの違いが分からないというのです。」

「差別化ですか?」

「そう、差別化なんですが・・・。しかしマッサージ店の差別化なんて、今の時代、ほとんど無理です。提供するサービスは、ほとんど同じなのですから。」

「そうなのですね。」

「新しい施術法を取り入れるなど、思いついたことは書いてみました。しかし、あまり評価は変わりません。どうしたら良いのでしょうか?」


支援者は事業計画書から何を見ているか

「ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ。」

「最近、直接的な支援や金融支援を行ってくれる機関の多くが、事業計画書を作るように求めていますね。それは何故だと思いますか?」

「うーん。そう言われると、考えたことはなかったですね。」

「あなたが10年以上の経歴を持つベテランのマッサージ店経営者だったとして、考えてみてください。新しくマッサージ店を開こうとする起業者を支援するかどうか判断するために、事業計画書を書いてもらったとします。何を見て、どのように判断しますか?」

「そうですね。その人が、マッサージ店を経営するにあたって考えるべきことをきちんと考えているかどうかを、チェックすると思います。」

「そうですね。10年以上続くマッサージ店の経営者として、何が必要だと思いますか?」

「私、まだ駆け出しのマッサージ店なので、よく分からないのですが。」

「そう言わずに、考えてみましょう。あなたの周囲にも、たくさんのマッサージ店があると思います。その中の幾つかを、リサーチしたこともあるでしょう。どういう店が、生き残っていましたか?」

「リピーターを確保したお店ですね。」

「彼らはどうやって、リピーターを確保したと思いますか?」

「私が感心したあるマッサージ店は、近隣にはお年寄りが多いことに気が付いて、五十肩や歩行時の痛みなど、多くのお年寄りが持つトラブルに対応すると広告していました。病院の処方箋があれば、一定期間は健康保険も利用出来る施術メニューも作ったようです。」

「ほう。それは面白いですね。そのマッサージ店は、どうしてそのようなサービスを思いついたのでしょうか?」

「近所にたくさんいるお年寄りの役に立ちたいと思ったのでしょうね。」


社会での役割を意識する

「そうですね。少し難しい言葉で言うと『地域の中での自分の役割』を意識していたと言えるのではないでしょうか?」

「それは、確かに。」

「そのマッサージ店さんは、意識していなかったかもしれませんが、ドラッカーの考え方を活用していたと言えるでしょう。」

「ドラッカーの考え方ですか?どのようなところですか?」

「ドラッカーは、ビジネスを考えるにあたって『社会あっての企業』という意識を持つように勧めています。ドラッカーの有名な『マネジメント』も、『企業は、社会にあって支えられながら、ユニークな貢献を果たす』というモデルを前提にしていると考えられるのですよ。」

「そうなんですね。」

「以上から、何か得られるものはありませんでしたか?」

「もちろんです。私の計画書を見た方々は、私が治療院と社会の関わりとか、その中でどんな貢献を果たすのかという視点が全くないことに気が付いたのでしょうね。そしてその気付きがなければ、地域で愛され持続できる治療院を経営していくことは難しいと考えたのだと思います。』

「それは素晴らしい気付きですね。」






「ドラッカーから起業を学ぶ」がセミナーになります!


毎週の「ドラッカーから起業を学ぶ」をご購読の皆さん、どうもありがとうございます。ドラッカーの知恵が皆さんの起業に役に立つなら、筆者としてもこれに勝る喜びはありません。

一方で、これほど価値のあるドラッカーの知恵を、もっと効果的に皆さんにお伝えする方法はないかと、以前から考えていました。それで InnovationS-i 事務局のご協力を得て、IBC(イノベーションズアイ ビジネスカレッジ)の一環として、連続セミナーを開催させて頂くことになりました。

本連続セミナーでは、ドラッカーの知恵を学ぶだけでなく、実践力を身に付けるところまでフォローしたいと思っています。毎週発行するコラムから3つの記事を選んで深掘りすると共に、それを実践するとは「あなたが何をすることか」を考えていく場にしたいと考えています。あなた自身に眠る実践力をドラッカーの知恵でもって火をつけ、起業を成功させていきましょう!

第1回セミナーは『起業者は最初に何を考えるべきか? 』をテーマに、9月23日(金)18:00〜20:00に開催いたします。詳細とお申込みは、以下のリンクからとなります。是非、ご検討ください!会場で皆さんにお会いできることを楽しみにしています!!


 

プロフィール

StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫


(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!

<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』


Webサイト:StrateCutions

ドラッカーから起業を学ぶ

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