「前回、恐怖によるマネジメントではなく、方向合わせによるマネジメントを目指すようにとのお話でした。」
「よく覚えておられましたね。その通りです。」
「実際に、方向合わせによるマネジメントを目指すとして、マネジメントとしては何をすれば良いのでしょうか?」
「そうですね。今日はそれを考えてみましょうか。」
マネジメントの5つのステップ
「ドラッカーは、マネジメントには5つのステップがあると言っています。
① 目標を設定しすること
② 組織すること
③ 動機付けとコミュニケーションを図ること
④ 測定評価すること
⑤ 人材を開発すること
以上のステップを踏みながら、マネジメントを行っていくことになるのです。」
「マネジメントとは、その場その場で指示などを出していくことだと思っていました。」
「そうですね。現場での指示などは『②組織すること』に該当するでしょう。しかし、その前提として目標設定があります。」
マネジメント上の目標
「そうか、自分と部下の各々にとって望ましい目標を作れば、自然と方向性は合わせられるという考え方ですね。」
「そうなんです。例えば売上10%アップを目標とするときに、それを達成すれば会社にとっては利益率の5%向上、従業員にとってはボーナス5%アップになると提示できれば、利害が対立すると思われていた両者の方向性を合わせることができるでしょう。」
組織する
「次は組織することですね。それに基づいて、部下に命令を出していくのですね。」
「そうなんです。けれど『組織する』という言葉は、その言葉通り、部下に命令を出すことに止まりません。文字通り『組織を作っていく』ことまでを含んでいます。」
「組織を作っていく?どういうことですか?」
「例えば、ある作業員について、彼よりも先に入社した人は全て、彼に指示して良いのでしょうか?」
「いやいや、それは違います。原則としては、彼の上司だけです。」
「そうですね。マネジメントは、会社の中の『組織』という仕組みに基づいて、行われていきます。これは『誰々は誰々の部下である』などと決めるだけに止まりません。例えば、複数の製品を、複数の工程を経て製造している会社だったら、製品ごとに部署を作っていくのか、工程ごとに部署を作っていくのかなどを決めていくことも、含まれています。」
「確かに。どういう部署にするかによって、どういう指示をするかも決まってきますからね。」
「まさにそうです。目標を達成しやすい組織を作ることは、非常に大切なことなのです。」
動機付けと、コミュニケーション
「動機付けは、先週にもお話をいただいたように、恐怖によるマネジメントではなく方向合わせによるマネジメントを行っていくということですね。」
「その通りです。」
「コミュニケーションというのは、何ですか?」
「もし恐怖によるマネジメントだったら、普段は何が必要になると思いますか?」
「要所要所で『決まりを守らず、目標を達成できなかったら起きる恐ろしいこと』を思い出させることになるのでしょうね。」
「そうですね。恐怖を思い起こさせることが、マネジメントになるでしょう。」
「一方で、方向合わせによるマネジメントだと、どうなると思いますか?」
「職場で望ましくない状況が生じたとき、これを放置していたら、上司にとっても部下にとっても、望ましくないことが起きてしまうということに気付かせるでしょうね。」
「恐怖のマネジメントとの違いは何ですか?」
「協力してコトに当たろうと、呼びかけることがポイントだと思います。」
「そのときに必要なのは、一方的な通達ではなく、コミュニケーションなのでしょうね。」
評価測定
「評価測定は、通常の評価測定と同じなのですか?」
「同じと言っても良いでしょう。但し、目的とフォローの方法が違います。」
「目的は、上司と部下が方向を合わせた目標を、共に達成できるようにするということなのですね。」
「その通りです。」
「とすると、フォローの仕方とは?」
「恐怖によるマネジメントだったら、予告した恐怖を実現することがフォローですね。」
「そうか、方向性合わせによるマネジメントであれば、今回は目標を実現できなかったとしても、次期には達成できるような措置をとることになるのですね。」
「まさにその通りです。」
人材開発
「なるほど、だから次のステップは人材開発なのですね。」
「そうなのです。ここが、恐怖によるマネジメントと根本的に異なるポイントでしょうね。恐怖によるマネジメントでは、目標を達成できた者に褒賞を与えると共に、目標を目標を達成できなかった者に罰を与えます。これは、もちろんモチベーションの向上という意味合いもあるでしょうけれど、罰とか『褒賞を受けられなかった』という恐怖から逃れたいたいという気持ちを喚起することを目指しているものです。」
「恐怖の気持ちでもって、人を駆り立てるのですね。」
「そうです。一方で方向合わせによるマネジメントは、そのような恐怖の気持ちを植え付けようとはしません。逆に『次回はできる!』と思ってもらえるような措置を行うことになります。」
「それが人材開発なのですね。」
全てのステップを適切に行っていく
「こうやって考えてみると、マネジメントとは場当たり的なものではありませんね。きちんとした考えでもって、ステップを積み重ねていかなければなりません。」
「そうなんです。恐怖によるマネジメントを行う場合には、これほどのステップは必要ありません。とにかく、恐怖を与えていれば良いのですから。」
「私の今までのマネジメントも、そうだったかもしれません。」
「一方で、働く人々が喜んで、自発的に働いてくれるようになる方向合わせによるマネジメントでは、これら一連のステップが必要になります。」
「気持ちをすり合わせていくところから、万が一、目標を達成できなかった場合にフォローすることまでですね。」
「その通りです。これまでと比べて面倒臭いかもしれませんが、きっと成果があると思いますよ。」
「いやいや、その通りです。厳しく命令する弊害は、先週も申したように思い知りましたからね。今度は方向合わせによるマネジメントを試してみることにします。」