第24回
カルロス・ゴーンの2つの教訓(2)
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
カルロス・ゴーンの2つの教訓 第1回目の記事はこちらからご覧ください
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カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
有価証券取引法違反などの疑いで逮捕されたカルロス・ゴーンは、もともとは倒産寸前のニッサンを救うため鳴物入りでルーノーから送り込まれ、予想を上回るV字回復でニッサンを救った立役者です。彼の成功要因は「合理的なマネジメント」と「人を巻き込むリーダーシップ」だったことを前回にご説明しました。それを彼の「陽」側面の教訓とするなら、今回は「陰」側面の教訓について、考えてみたいと思います。
問題は「高額な報酬」?
ゴーンが長年に渡って100億円以上の報酬を受けていたことを問題視する人々もいますが、実は筆者は、ゴーンが高額な報酬を受け取っていたこと自体を否定するつもりはありません。筆者は、特に経営者が受け取る報酬について「その人が経営者でなければ、会社をリードしなければ、マネジメントしなければ実現しなかったであろう経済的成果の中から会社と合意した一定割合を受け取る」のは正当だと考えているからです。倒産寸前にあったニッサンを復活させ、自動車業界で今や世界上位コンソーシアムの旗艦企業に変身させた功績は、他にない高額な報酬を受け取る理由になり得ると思います。もしそれを否定すると、これから大企業が倒産の危機に陥った場合、身を呈して復活に尽力しようとする人物がいなくなるかもしれません。
問題は「唯我独尊」?
ゴーンの非は、他人の意見に耳を傾けない唯我独尊にあるという声もあります。情報によるとゴーンは、ニッサンの会議体で他人の発言に耳を傾けたり、ましてや意見を取り入れることは少なかったようです。
一方で筆者は、この点についても、あまり問題視していません。唯我独尊は、ある意味、経営者の存在意義だと思っているからです。ある人物が経営者としてトップに位置するのは、他の人に見えないもの(過去・現在・将来)が見え、他の人が配慮できないことに配慮し、他の人が身じろぎしそうな重大な判断を冷静に下せることにあるのではないかと思います。
倒産寸前にあったニッサンのマネジメントでゴーンは、必要とされる「唯我独尊」をしっかりと果たしたと思います。彼が改革を主導する時、彼に見える過去・現在・将来が見えない人々は厳しく反対したと言います。それを汲んでいたら、ニッサンの再生は実現しなかったでしょう。同様の状況は、筆者がご支援する中小企業でもよく見られます。会社の窮地を救った経営者は、普段は謙虚でも、会社に関しては唯我独尊なことが多いようです。経営者として会社の全責任を負う覚悟がない人の意見を容れて判断を誤ったら取り返しがつかないことを、知っているからでしょう。
「真摯さ(Dignity)」
逮捕されたゴーンから「高額な報酬を受け取ってはならない」もしくは「唯我独尊になってはいけない」との教訓が得られないなら、彼から何を学ぶことができるのでしょうか?それは「真摯さ(Dignity)」ではないかと思います。ゴーンが現在の苦境に陥ったのは、真摯さの欠如が原因ではないかと思うからです。
「真摯さ」は定義しにくい言葉です。「真剣に経営に取り組む」だけではないと思われます。ゴーンは真剣に経営に取り組んだので、華々しい成果をあげました。一方で、油断があったと思われます。大きな成果をあげて社会的な評価が高まれば高まるほど、会社の規模が拡大すると共に自分の地位が向上して影響力が大きくなれば大きくなるほど、不用意な言動が自分のみならず会社をも傷つけてしまう可能性が高まります。それにも関わらずゴーンは、自分の立ち居振る舞いを自重して自分が批判されることがないように、ひいてはニッサンの評判を落とし業績を悪化させる引き金とならないように配慮することを怠ったのです。
一方で、経営に真摯に取り組んでいる経営者は、報酬や便宜の受け取りだけではく、公の場で発した言葉、いや社内で冗談として何気なく言った言葉すら「あの会社の社長は、こんなことを言っていた」と揚げ足をとられないように十分に配慮しています。自分の言動が刃になって自分の愛する会社を傷つけることのないように最大の配慮を払っているのです。会社、もしくは会社として進めている事業が成功して望ましい成果を生み出すために自分の権利は二の次にする、それが「真摯さ(Dignity)」の本質ではないかと思います。
経営において真摯さが最重要だと説いたのはドラッカーです。ドラッカーはその意味を明確に示しませんでしたが、ゴーンを反面教師にすると真意が見えてきます。会社の成長や評判のために自分を厳しく律すること、それが真摯さの大切な一面であることを、反面教師としてのゴーンから学ぶことができると思います。
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プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
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