会社千夜一夜

第2回

仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
 倒産企業を多数、審査している中、「なぜ、手が付けられなくなる前に事業改善に取り組もうとしなかったのだろう?」と思うことが少なくありません。その事情について関係者(信用保証協会を含む金融機関担当者)と話しているうちに、見えてきたことがあります。「原因を見極められないため、対策が打てない」という事情です。


原因を見定める重要性

 みなさんがもし、とてもお腹が痛くて病院に行き、いろいろ検査しても原因が掴めなかったとしましょう。その場合に、「原因は掴めないけれど、痛いのは確かだから手術をしましょう」という医者と、「原因を見極められるまで、検査を続けましょう」という医者がいたら、どちらを信頼しますか?もちろん後者ですね。万が一、前者の医者に託すことになったら、命がいくつあっても足りそうにありません。

 同じことは企業にも言えます。企業の業績が悪くなった場合に、その原因を見極められるまで、対策を打つのは得策でない場合があります。例えば売れない理由が製品にあるのに「広告宣伝が少ないからに違いない」と思い込んで対策を立てても、効果はほとんど出ないのです。チラシをまく程度ならコストも少ないので問題が少ないように感じるかもしれません。しかし、「製品を改善する」という根本的な事業改善のための貴重な時間を効果が期待できない対策のために浪費しているという意味では、重大な結果に至る可能性があります。


原因究明にこだわりすぎる危険性

 一方で、原因究明にこだわりすぎると、非常に重大な結果に陥ることがあります。ある交通事故被害者について聞いた話です(約40年ほど前、CTもMRIもなかった頃のお話です)。ある交通事故被害者が吐き気を訴えたので病院では造影剤等を使った検査をしましたが、何も見つかりませんでした。このため「大丈夫だろう」という診断だったのですが、それが数日続いたので、脳外科医が「脳内出血の可能性あり」と英断を下して手術したのです。結果は本当に脳内出血しており、その患者は一命を取り留めました。

 同様のことが企業にも言える場合があります。原因探しをし、「これだ!」という結果が得られなかった場合でも、敢えて対策を打ち始めるのです。そうしないと、倒産の危機に見舞われる可能性があるからです。「原因が理解できるまで闇雲に対策を打たない」というのは合理的な判断ですが、度が過ぎると、後に「もっと他に方法があったはず」と悔やまれる結果に陥る可能性があります。


筆者が遭遇したケース

 ここで、筆者が遭遇したケースを簡単にお話ししましょう。コラム初回でご紹介したケースです。

 ある蕎麦屋のケース。住宅地の入り口となる駅前から徒歩約5分、ちょっとした駅前商店街の一番端、そこから先は住宅地という場所に立地する店舗です。その店の道路向かいは飲食店で約10年間で3店舗が入れ替わりました。その200mほど先には老舗の蕎麦屋がありましたが、当店はそことうまく棲み分けていたようです。

 その状況が一変したのは約3年前、道路向かいに和風居酒屋が入店したことです。ちなみに和風居酒屋はもう1店舗あり、そちらは予約が必要な人気店でした。最初は、居酒屋同士の熾烈な競争になると予想されましたが、様相は違いました。2つの居酒屋は共に繁盛する一方で、この蕎麦屋には全くといって良いほどお客が入らなくなり、倒産に至ったのです。


蕎麦屋店主が予想した理由

 さて、この蕎麦店はなぜ、倒産するまで手を打たなかったのでしょうか?その理由として「蕎麦屋の競合は蕎麦屋しかない」と思い込んでいたと推察されます。そのため、蕎麦屋の競合に全く変化が起きていないのに、自分の業況が変化してしまった理由が理解できなかったのです。

 また、このように考えていたので、向かいに出店した和風居酒屋にお客を奪われても、なす術が見つからなかったのかもしれません。蕎麦屋同士の競争なら対策が思いつくけれど、ジャンルの違う相手との競争では何をしたら良いのか、わからなかったのです。


提案できる対策

 この蕎麦屋はどうしたら倒産を避けられたのでしょうか?以下、もしこの蕎麦屋が倒産に至る前にStrateCutionsに相談してくれた場合に提案できる対策を簡単にまとめてみます。

 この蕎麦屋がすぐに取り掛からなければならないことは、仮説検証です。「我が店のお客は蕎麦好きである」という仮説でもって長年、営業できていましたが、向かいに居酒屋ができてお客が減少したという事実を鑑みて、その仮説を疑ってみなければなりません。新たな仮説を立てるのです。そして、その仮説を検証してブラッシュアップすることで、正しい仮説と、その仮説に基づいた対応の方向性が同時に見えてくることでしょう。


仮説提示と検証を繰り返して原因を探る

 売上が下がっても理由がわからないというのは、社長にとって非常に辛いことです。闇雲に手を打つと効果のない対策実行のため疲弊してしまうかも知れません。一方で、「原因がわからない以上、手の打ちようがない」と静観していたのでは、こちらも重大な結果に陥る必要があります。

 こういう場合、仮説を立て、検証しながら原因を突き止め、対策を見つけ出していくという方法を採ることができます。経営者単独では難しいと感じる場合には、中小企業診断士などの力を借りることができます。中小企業が無料で経営診断を受けられるミラサポの専門家派遣制度なども準備されています。これらの制度をぜひ活用して、事業改善のきっかけを見逃すことのないように心がけてください。




本コラムの印刷版を用意しています

 本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙2枚のボリュームで、表裏印刷すれば一枚にまとまるのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、仮説設定と検証の方法についてしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。



 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

会社千夜一夜

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。