第18回
人手不足にどう対応するか
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
現在、人手不足が非常に問題になっています。もともと人材の確保が難しかった中小企業では、この問題は非常に深刻です。私が顧問としてご支援している企業でも、家族の都合で退職した従業員の補充がうまくいかず、大変に困っています。今回は、人手不足にどう対応するかについて考えたいと思います。
応急対応する
欠員が出た場合、最初にすべきは「人数不足への対応」です。「臨機応変にやるしかないではないか」というご意見も聞こえてきそうですが、この場面では準備の良し悪しが大きな差を生む場合があります。例えば飲食店のように様々な仕事を複数人で連携してこなす職場なら「あるメンバーが不在な場合、他のメンバーがどのように代行するか」を決めておく、運送業者のように同様の仕事を複数人でこなしている職場なら「人数が足りなくなった分、どんな仕事を断るか」を決めておくのです。欠員の場合だけでなく普段の突然の休暇でも、これらを決めておくことで仕事の進行や収益への影響を最小限に止められます。
「代わりになる人がいない場合はどうするのだ?中小企業の場合、ある人の仕事を別の人もできるようしておく余裕など、ない。」そう言いたくなるお気持ち、分かります。しかし「工夫して対策をして下さい」と申し上げます。ここで二つの例をお話しします。一つは、私の友人が開設したレストランです。彼は料理ができませんでしたが、本場で食べた美味しいピザを世に広めたいと思い、腕の良いピザ職人を探してピザレストランを開設しました。しかしその職人は数年で故郷に帰らなくてはならなくなり退職してしまいました。代わりの職人を探しきれなかったのでピザレストランは閉店してしまいました。
もう一人は、創業者ではなく父親の洋食店を料理人と一緒に受け継いだ友人です。彼自身はもともとサラリーマンだったので料理はできませんが、妻がお店に入り、多少の料理は見よう見まねでできるようになっていました。このため料理人が退職せざるを得なくなった時も、なんとかお店を継続できたのです。
「働きたい職場」であると伝える
応急措置を施したら、次は次に働いてもらえる人の募集です。最近は、ハローワークだけでなく様々な媒体がありますから、いろいろと試しながら活用するのが良いでしょう。若年層人材を採用したいなら、テレビなどでよく知られている「転職サイト」などの活用が必須と言われているようです。
「ハローワークにしろ転職サイトにしろ、いろいろ活用しているのに応募がない」というお話をよく聞きます。その時には、自社サイト(インターネットホームページ:HP)を確認した方が良いかもしれません。最近は、ハローワークや転職サイトだけで応募を決めている人は少ないようです。HPをしっかり閲覧し、応募する企業を見定めているのです。
「企業のHPなんて、みんな同じだろう。そこで差が出るとは思えない。」そう思われる方もいるかもしれません。しかし応募者が殺到している企業の社長や採用担当者に話を聞くと「その理由はHPです」と言われることが多いです。魅力的なデザインがものを言う訳ではありません。応募者は「この会社で働くと楽しそうか?やりがいがあるか?」」を知りたがっています。応募が殺到している企業のHPでは、「この会社で働いてよかった」と先輩が感じていることが、しっかりと示されています。仕事が楽だとか、残業が少ないこととは限りません。逆に仕事が大変でも「お客様に喜ばれて嬉しかった」「自分の成長を喜んでもらえた」などの声が先輩から聞こえると「自分もそうなりたい」と思った人が応募してくるようです。
少ない人で対応できるようにする
仕事のシフトなどで応急措置をして、その後間も無く人材補充できたら問題はありません。しかし今は、うまくいかない場合が多いようです。私のクライアント企業では半年経っても採用できない事例もありました。このような状況では、少ない人数でも儲けが出るように体制作りする必要があります。「それができるなら、とっくにそうしている。」確かにおっしゃる通りです。しかし人材不足が長期化した場合、少人数で事業を回して利益が出せる方法を模索するのは絶対条件です。
ある企業の例からお話ししましょう。ある特殊技能を持つ従業員に欠員が出た時、取引金融機関は「大変ですね、資金が必要でしょう」と融資を申し出てくれました。しかし半年経つと「まだ補充できませんか?」としつこく聞くようになり、決算をまたいで不本意な数字が出ると「しばらく支援は無理」と言うようになりました。社長は「万が一、この状態が半年も続いて融資が受けられないと倒産してしまう」と発起一念、当該技能を必要とする仕事を抑えながらも利益を出せる態勢を整えてその期決算は黒字化を実現しました。金融機関取引も以前に戻って安堵することができたのです。
人材不足は企業の未来を左右しかねないほど大変な問題です。しかし、運命にだけ身を任せるのはあまりにも危険です。人材採用から収益構造の変化まで、「できることはなんでもやる」との意気込みが、会社を救う原動力になります。
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プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
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- 第48回 「褒める」はモチベート策になるか?
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- 第46回 年末にモチベーションを維持する
- 第45回 台風19号で被災した中小企業への支援
- 第44回 理解力を高める唯一の方法
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- 第42回 こんな会議になっていませんか?
- 第41回 理解力について職場の「あるある」
- 第40回 上級マネジメント・チェックリスト
- 第39回 吉本興業に必要な上級マネジメント
- 第38回 吉本興業事件の真の原因は何か?
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- 第35回 受講生と足並みを揃える
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- 第30回 カルサバ人材開発計画が危険な理由
- 第29回 カルサバ人材開発が企業をダメにする
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- 第23回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
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- 第21回 人材難を乗り越える人材育成の方法
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- 第3回 金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース
- 第2回 仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース
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