会社千夜一夜

第37回

顧客かつ対戦相手として研修生と向き合う

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 受講生への深い関心なくしてより良い人材開発、特に研修を考えることはできないことを2回にわたって考えてきました。今日は、人材開発担当と受講生との関係について考えたいと思っています。「どんな関係を結ぶかだって?人材開発担当として確かに受講生から直接に意見をもらったりするけれど、普段は講師や職場の上長を介して繋がっているに過ぎない。関係と言われても、そんなものは結びようがないではないか。」そうでしょうか?



間接的ではあっても深い関係を結ぶ

 ここは一つ例え話で考えて下さい。皆さんが消費財(例:化粧品)メーカーの営業管理職だったとします。いつも直接に接するのは大企業である卸業者の営業マンで、ユーザーである女性に直接に会うことはほとんどありません。この状況下で、もし自分の部下である営業マンが「私がいつも接するのは卸業者の営業マンなので、ユーザーである女性とは関係がない」といった場合、その答えを肯定するでしょうか。「それは違う!」と、深い関係の大切さを強調するでしょう。


 「しかし、直接のお客ではない最終ユーザーと、どのようにして関係を結ぶのか?」部下がそう質問してきたら、どう答えますか?ここで「うーん」と唸っていたのでは、信じてもらえないでしょう。アンケートを取ることもできますし、卸業者営業マンから情報を集めることもできます。営業マンとして自分が選択したチャネル毎の売上や、イチオシとして提供した製品の売上、添付した説明書への反響など、自分自身が仮設に基づいてとった行動への検証結果も、実は最終ユーザーとの対話の一種です。


 これと同じように、人事担当、特に研修企画者にとっての受講生も、間接的なつながりしかないかもしれませんが、最終ユーザーとして深い関係を結ぶべき相手です。アンケートや上長からの評判、そして能力評価・モチベーション評価などの人事評価の結果も、受講生と間接的に対話するツールなのです。



親しい間柄である顧客

 では、最終ユーザーとしての受講生と、どのような関係を深めてゆけば良いのでしょうか?まずは「親しい間柄にある顧客」として接することになると思います。企業と顧客の間柄は、ほとんど「顧客の希望や将来に達成すべき状況を踏まえて、現在の状況と比較したギャップを埋めるソリューションを提供する」ことでしょう。理想や達成すべき状況については、現在に顧客が意識しているもののみならず、潜在意識もしくは今では前提知識さえないような事柄まで先回りして想定することが必要になると思います。


 人材開発担当(研修担当)にとって受講生は、まさにこの意味での顧客でしょう。受講生が考える将来像や手に入れたい知識・コンピテンシーの実現ではなく、5年後10年後に会社が求めることになる知識・コンピテンシーを前提に研修を企画・実施します。



対戦相手

 一方で(誤解を生むかもしれませんが、筆者の信念なので敢えて申すと)、人材開発担当にとって受講生は「対戦相手」にも該当するのではないかと思います。

 対戦相手とは、敵ではありません。敵は「打ち負かす」相手です。戦争において敵に遭遇したら、勝つか負けるかの一度限りの勝負をします。一方で対戦相手は、自分と相手がお互いに高め合うパートナーです。「対戦」と名前がついていますから、その瞬間は相当厳しいやりとりですが、それはひとえに自分を高めること、そして相手を高めることを目的としています。例えば柔道の対戦で相手に怪我を負わせてしまうなどして「あの相手とは二度と対戦したくない」と思わせてしまったら、短期的には「完璧な勝利」と誇れるかもしれませんが、長期的には相手にも、そして自分にもメリットにはなりません。一種の敗北です。


 人材開発という取組みは、受講生が会社・職場が必要とする人材になってくれるよう研修を企画・設計・実施・フォローする真剣勝負です。会社・職場が必要とする人材を生み出すことができ、それら人材の活躍により会社が業績をアップさせられたら、それは「一つの対戦」における人材開発担当の勝利と言えるでしょう。一方で、人材が疲弊して次の研修を嫌がったり悪い評判が立つなどすれば、長期的には敗北です。



 人材開発は「ユニークな感情・人格を備えた人」を相手にする仕事です。だからこそ、受講生を「サービスの対象となる顧客」と捉えるだけでなく、「お互いを切磋琢磨する対戦相手」と見ることがポイントになると常々、感じています。受講生とは長期的なWin-Win関係を常に結べるよう、いつも心がけています。




<本コラムの印刷版を用意しています>

 本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。


印刷版のダウンロードはこちらから

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

会社千夜一夜

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。