第5回
自信を持った二代目社長のケース
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
現在、政府は、事業承継に力を入れています。近年、日本の中小企業者数がものすごい勢いで減少していること、その一因として会社を継ぐ意思のある人物が不在のため廃業に至るケースが少なくないことなどを鑑みると、事業を承継する意思のある二代目社長はとても貴重です。
事業承継には、もう一つ、厄介な問題が付きまといます。会社の経営権を引き継ぐ根拠となる株式に高額の評価がつけられ、莫大な贈与税がかかるという問題です。最近、発表された税制改正が贈与税の障害を取り除くものとなり、事業承継が推進されることを、一中小企業診断士として切に期待しています。
ある広告業者のケース
一方で、株式を無事に引き渡すことができれば、事業承継は成功だという訳ではありません。次に、承継した二代目社長がしっかりと経営できるかが問題になります。二代目社長に経験がなく、経営に未熟であることが問題になることが多いのですが、逆に経験豊富な二代目社長が陥る罠もあります。
都心近郊で事業展開する、ある広告業者のケースです。商店街店舗のチラシ制作が事業の中心でした。最近台頭してきた格安印刷業者の影響は、商店街店舗を顧客としていることから、最小限で済んでいましたが、商店街の凋落はどうしようもありません。既存顧客(店舗)が撤退したり、商店街自体の低調で需要が低下したため、事業発展は難しいと考えられていました。その中で、先代社長の長男が後継者として名乗りをあげたのです。地域活性化の担い手の出現に、とても心強く感じました。
二代目社長が事業承継に前向きだったのは、デザイン力をベースとした営業力に自信があったからのようです。専門教育を受けたわけではありませんでしたが、以前は薬局のチェーン店で働き、チラシや店内ポップのデザインを手がけていたことから提案型営業ができ、顧客を増せるとの目論見でした。実際、それまでチラシなど活用してこなかった店舗まで取り込むことができ、当初は順調な滑り出しだったようです。
社員の反乱
二代目社長が就任して早々に最高売上・利益を更新したことで、この事業承継は成功したと、誰もが思っていました。が、あっけない幕切れとなりました。5人しかいなかった社員が反乱を起こして退職してしまい、事業休止を余儀なくされたのです。理由は、新社長のワンマン経営にあったとのことでした。
社長の営業力は、ものすごいものだったそうです。今までにない顧客を引き寄せ、付加価値を付けた製品・サービスを売るので、今までにない収益をあげることができました。しかし社長は、返す刀で、社員を責めるようになったのです。最初は営業マンに対してでしたが、次第に印刷担当者にも向けられるようになったそうです。自分が提案した製品・サービスが実現できないと信用問題となるという社長の気持ちも分かりますが、経験のない作業や高いレベルの仕上がりを突然に求められ、狼狽していると罵られるとなると、ひどくモチベーションを低下させてしまうのも仕方のないことだと思われます。そういうことが重なり、最後は「引き際には社長にダメージを与えたい」と社員一同で気持ちが一致したのか、集団退社となりました。
StrateCutionsの提言
二代目社長の就任時にStrateCutionsがご支援するご縁を頂いたなら、二代目社長と社員の融和に取り組みます。二代目社長の就任は人体に例えるなら、頭脳と心臓に当たる若い臓器を年老いた身体に移植するようなものだからです。というと、少なからぬ二代目社長は「自分に、時代遅れになった事業のやり方に合わせろというのか」という疑問を頂きますが、そうではありません。二代目社長が試みてみたいやり方を試し、実現したい成果を実現するために、まず融和するのです。
新しい何かを創造する時には、実は2つの創造が必要だと言われています。求めるものをリアルに創造する前に、その設計図を創造するのです。会社を変えていこうとする時も、同じことが言えます。「二代目社長が実現したい新しい会社の姿」をまず明確にすることによって、実現の可能性が高まります。と共に、設計図を描く時点で従業員を巻き込むことで、従業員との融和もなされていきます。突然、新しい仕事を指示された従業員は狼狽しますが、設計図を見せられ、それを合意した上だと覚悟があり、スムーズに取り組んでいけるでしょう。自発的に準備する従業員も、いるかもしれません。
「計画を立てるなんて、慣れていないし、かったるいよ」と言われる社長さんは少なくありません。StrateCutionsは戦略(Strategy)と実行(Execution)の専門家(StrateCutions)として、社長の頭にあるイメージを言語化すると共に数字やアクションプランの裏付けある「計画」を策定し、それに基づいて「実行」する進捗管理までをサポートすることで、円滑な事業承継をご支援しています。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙2枚のボリュームで、表裏印刷すれば一枚にまとまるのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
- 第49回 期待によるモチベート
- 第48回 「褒める」はモチベート策になるか?
- 第47回 モチベーション策を考える
- 第46回 年末にモチベーションを維持する
- 第45回 台風19号で被災した中小企業への支援
- 第44回 理解力を高める唯一の方法
- 第43回 理解力低下の破壊力
- 第42回 こんな会議になっていませんか?
- 第41回 理解力について職場の「あるある」
- 第40回 上級マネジメント・チェックリスト
- 第39回 吉本興業に必要な上級マネジメント
- 第38回 吉本興業事件の真の原因は何か?
- 第37回 顧客かつ対戦相手として研修生と向き合う
- 第36回 研修の前からスタートする
- 第35回 受講生と足並みを揃える
- 第34回 5次元社会で活躍が期待される人材像
- 第33回 今、存在しない人材の育成
- 第32回 どんな人材を育てようとしているか
- 第31回 新人研修でカルサバから脱皮する
- 第30回 カルサバ人材開発計画が危険な理由
- 第29回 カルサバ人材開発が企業をダメにする
- 第28回 最も困難な人材開発から学べること
- 第27回 最も困難な人材開発から学ぶ
- 第26回 飛躍できる企業を育てる
- 第25回 孫社長の飛躍の秘密
- 第24回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(2)
- 第23回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
- 第22回 人材難を乗り越える人材育成教育
- 第21回 人材難を乗り越える人材育成の方法
- 第20回 人材難を乗り越える人材育成
- 第19回 目指せ!新ビジネスモデル
- 第18回 人手不足にどう対応するか
- 第17回 起業家が犯しやすい間違い
- 第16回 挨拶できてもダメなお店・企業
- 第15回 コラム名変更に込めた想い
- 第14回 従業員を軽視した工場のケース
- 第13回 準備で忙しかった先生のケース
- 第12回 経理の疎さが危機を招いたケース
- 第11回 周囲を蹴落としたら自分の所在もなくなってしまったケース
- 第10回 お金の使い方でサラリーマンから卒業できなかったケース
- 第9回 事業承継への消極性が企業の持続力を奪ってしまったケース
- 第8回 二代目の多店舗戦略が裏目に出たケース
- 第7回 リスケ後に安穏としてしまったケース
- 第6回 消極投資で自分を窮地に追い込んでしまったケース
- 第5回 自信を持った二代目社長のケース
- 第4回 経営改善に踏み込めなかったケース
- 第3回 金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース
- 第2回 仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース
- 第1回 事業改善して繁盛企業になれる方法を倒産企業から学ぶ