会社千夜一夜

第47回

モチベーション策を考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

12月に入って本格的に年末モードに入りましたね。先回、会社としてはスパート時期なのに働き手が乗ってこないこの時期のモチベーション維持・アップ策について考えました。恐怖によるモチベートと期待によるモチベートです。語られることは少ないようですが、非常に重要なポイントなので、今回はもう一歩、掘り下げて考えてみましょう。



恐怖によるモチベート

言葉はおどろおどろしい感じですが、恐怖によるモチベートは、いわゆる「普通の」モチベート策です。マズローの欲求5段階説を利用してご説明すると、「そんな調子では昇進どころかボーナスを減額されてしまうぞ。ここは頑張らなきゃ!」と、今より下位な欲求レベルまで転落してしまうと警告して、より強い頑張りを促すのが恐怖によるモチベートです。

このモチベート策が「普通」だというのは、近代的なマネジメントが生まれた当初から使われていたと考えられるからです。近代的マネジメントは、流れ作業を提唱したテーラーの頃に生まれたと考えられます。それまでは徒弟制度で「親方は何を教える訳ではないが、有能な弟子は親方の秘密のノウハウを盗む」という形で技術が伝承され、日常の仕事がこなされていました。テーラーたちが「使う側がベストな仕事方法を考え、それを働き手に実践するように求める」というスタンスで臨んだことは、それまでと比べると大きなパラダイムシフトであり、それゆえ彼らが近代マネジメントを創始したと考えられます。

一方で、提示する仕事方法を実践しない働き手がいると、会社側は大打撃です。このため、働き手に実践を強く働きかけることになりましたが、そこで使われたのが恐怖によるモチベートです。チャップリンの代表作映画「モダンタイムス」を見ると、時折誇張はありますが、その姿を目にすることができます。


恐怖によるモチベートの長所・短所

人間の心理として、「新たなものを手に入れられる期待」よりも「今持っているものを失うかもしれない恐怖」の方が、動機として強く作用すると言われています。「年末まであと一ヶ月もないのに、ノルマ達成が見えて来ないではないか。こんな調子では一年間の苦労は水の泡で課長昇進は無理だぞ。いや、降格も覚悟しておいた方が良いだろう」というモチベート策は、それらを失わないように相手に強く動機付けることになります。強さの側面では最強のモチベート策といえるでしょう。

一方で、恐怖によるモチベートには欠点があります。「不利な状況に陥りたくない」というと思うばかりに、マネジメントが導きたい方向性とは違った反応が起きる可能性があることです。

この状況は「ゲームズマンシップ」と呼ばれています。これは「ルールになくてもフェアに言動する」というスポーツマンシップに対比される言葉で、「ルールの穴を突いて得点を稼ぐ、見つからなければルール違反も厭わない」という意味です。恐怖によるモチベートは、見られていない時にサボるなどの面従腹背や、架空売上等の不正行為に繋がりやすいと考えられます。恐怖によるモチベートの場合、モチベートする側とされる側との信頼感が築きにくくなるので、前向きなアドバイスが聞き入れられ難くなるため、この傾向に拍車がかかります。

この現象の例は幾つも見つかります。大企業、時には長い歴史を併せ持つ名門企業が倒産等する時には、必ずと言って良いほどゲームズマンシップがあるようです。ある名門企業は「ノルマを達成できないので架空売上を計上した」、「それが発覚しないように帳簿操作をした」、「監査で見つかりそうになったので、損失を補填するために会社からは禁止されているリスクの高い取引に手を出し、失敗した」という連鎖で倒産に至りました。


期待によるモチベートと短所・長所

一方で、期待によるモチベートは逆の構図です。「失うこと・もの」に焦点を当てる恐怖によるモチベートとは異なり、期待によるモチベートは「得られること・もの」に焦点を当てます。例えば「ノルマ達成まであと一息だ。一年間の苦労を水の泡にしないように、是非とも社長賞を受賞できるよう、もうひと頑張りしよう」という声がけから生まれる期待です。

「最近に流行っている『褒める』動機付けだな。」実は、期待によるモチベートは『褒める』とは異なります。その違いは来週にじっくりと考えるとして、ここでは期待によるモチベートの短所・長所を考えてみましょう。短所は、恐怖によるモチベートに比べてインパクトに欠けることです。人間は、今、持っているものを失うことに強い恐怖心を抱くものですが、今、持っていないものを手に入れられることに、それほどの期待を抱くことはできません。期待によるモチベートに強い効果を持たせるためには、プラスアルファの工夫が必要になります。

一方で、期待によるモチベートの長所は、恐怖とは違って「ゲームズマンシップ」が生じにくいことです。今は持ち合わせていないものを手に入れたいと考えるほど十分にモチベートされた人は、ゲームズマンシップの精神でうかつな言動をすることで期待するものを手に入れられない事態は避けたいと考えるでしょう。また、期待によるモチベートの場合にはモチベートする側とされる側の信頼感が築きやすいので、前向きなアドバイスが聞き入れられ易くなります。

「我が社のマネジャーは有能な人材が揃っているはずなのに、不思議と部下がついてこない」との現象がある場合には、一度、モチベートの仕方が恐怖なのか期待なのか、チェックしてみるのはいかがでしょうか?



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 本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACから實悠希さんご提供によるものです。實悠希さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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