会社千夜一夜

第16回

挨拶できてもダメなお店・企業

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
 元気な中小企業、いや大企業も含めて、そういう企業に働く人々の表情は明るく、大きな声で挨拶していると感じられます。「元気な」を「業績の良い」という言葉に置き換えても大丈夫でしょう。今日はこの点について、考えてみたいと思います。


大きな声での挨拶の効能

 実は今や、大きな声での挨拶が大流行のような気がします。「当社では挨拶運動に取り組んでいる」と言われる社長さんは、私の周囲にも、たくさんおられます。取り組んでいない会社・店舗の方が少ない感じです。元気な声で挨拶をするのは「礼儀」や「コミュニケーション」の第一歩ですね。できていない職場で働き手同士がうまくコミュニケーションしているとは期待できません。お客様も挨拶ができないお店や企業よりも、明るく大きな声の挨拶ができるお店や企業を選びたいと思うでしょう。

 一方で、明るく大きな声で挨拶できるお店・企業に必ず好感を持つかというと、そうとは言えない気がします。自分自身を振り返ってみると、挨拶ができても、待ち時間が長すぎるお店だと「次は行きたくないな」という気持ちになります。買った商品が故障していたり変形しているなどのトラブルがあるお店・企業も同様です。こう考えると、元気な挨拶は清涼剤ではあっても、評価の決定打にはならないようです。

 「業績の良い企業に働く人々は大きな声で挨拶する」と、「明るく大きな声で挨拶できるお店・企業に必ず好感を持てる訳ではない」という真っ向から対立する2つの意見、どちらが正しいのでしょうか?両方正しいのだと思います。「だったら最初から惑わすようなことを言うなよ」との声が聞こえてきそうですね。いえ、そこが肝心なのだと思います。「明るく大きな声での挨拶」は好ましい現象ですが、ポイントは他にあります。それがないと「大きな声での挨拶」運動も失敗する可能性があります。お客様を不満に感じさせるかもしれません。


ポイントはモチベーション?

 では、何がポイントなのか?数百に及ぶ中小企業の現場を見てきた体験から自信を持って「働き手のモチベーション」だと言えます。元気な挨拶も、それが不適切なモチベーションによって発せられたものだと顧客には響かず、結果的には悪影響を及ぼしてしまう可能性さえ、あるのです。「そんな話、聞いたことがないな」、「それに、モチベーションが影響を及ぼすのは生産性ではないか」数百に及ぶ現場体験から、これらにも「イエス」と答えられます。モチベーションはまず顧客満足度に影響を及ぼし、それからしばらくして(そのモチベーションが維持されて)生産性に影響を及ぼすとの印象です。モチベーションとは「目標に向けて特定の行動を選択し、その達成に向けて努力し、その努力を持続させる一連の心理的エネルギー」のこと、人間の言動の出発点になるものです。

 一方で、働く人の特性についても、研究が進められています。「人は、できるだけ楽な方法でお金を儲けたいと考えている」とみなすのは「合理的経済人」観です。「社会的人間」観は「周囲の人々と良好な関係を築きたい」とみなします。「自分の存在意義を実感し、可能性を実現したいと考えている」とするのは「自己実現人」観です。「これら全てを持っている複雑な存在だ」とするのは「複雑人」観です。

 モチベーションについて複数の説が存在することを知って私は「人の抱くモチベーションも単純ではないのだろうな。様々なモチベーションがあり、影響も様々だろうな」と考えるようになりました。例えば「社会的人間」観で考えてみましょう。「仲間に受け入れてもらいたい」という欲求は誰にもあります。でも、受け入れてもらいたい相手次第で、人の言動は大きく異なります。「仲間と一緒に力を合わせて仕事したい。お客様には満足してもらいたい」と考える仲間に受け入れられたいと考える人は、仲間を大切にし、お客様を大切にしようとするでしょう。一方で「仲間は競争相手だ。競争に勝って彼らに一目置かれるようになりたい。顧客は、私が競争に勝つための手段だ」と考える仲間に受け入れられたいと考える人は、仲間やお客様を大切にする気持ちが希薄になると考えられます。


良好なモチベーションをリードすることが大切

 こう考えると「明るく大きな声で挨拶できるお店・企業に必ず好感を持てる訳ではない」理由が理解できます。挨拶のモチベーションが「仲間は競争相手だ。競争に勝って彼らに一目置かれるようになりたい。顧客は、私が競争に勝つための手段だ」であったなら、結局は化けの皮が剥がれるでしょう。「仲間と一緒に力を合わせて仕事したい。お客様には満足してもらいたい」というモチベーションであって初めてお客様は「この会社は好感が持てるな。信頼できるな」と感じるのです。

 とすると、リーダーの一番大切な役割は「良好なモチベーションを周囲の皆に持ってもらうこと。自分が率先して、それを発揮していくこと」ではないかと思います。経営者はもちろん、職場で責任のある立場にいる人で「モチベーション」を考えない人はいないと思いますが、「大きな声の挨拶運動」から一歩先を行って「良好なモチベーションのリーダーになる」ことを目指してみるのはいかがでしょうか。

参考文献「モチベーション・マネジャー資格【BASIC TEXT】」(新曙社)




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。

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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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