第10回
お金の使い方でサラリーマンから卒業できなかったケース
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
最近、サラリーマンを「卒業」して独立起業する方が増えています。雇用制度の見直しなどが進む中、壮年サラリーマンが身に付けた技能・ノウハウを活用する場を、会社を辞めて起業することによって自ら創造することは、素晴らしいことです。中小企業数が激減している中、日本経済を支え、子供達の世代に元気な社会を引き継いでいく原動力として期待しています。
そういうサラリーマンから起業した方々を拝見していると、散見、どころかしばしば見かけるのは「お金の使い方でサラリーマンを卒業できなかったケース」です。今回は、何年も、何十年も慣れ親しんできたサラリーマン時代の思考パターンが経営者には適さなかった、時には有害となったケースを検討します(プライバシー保護のため脚色してあります)。
<会社で養った技術を強みに起業>
前職の量販店で販促担当だった経験を生かして独立開業したWebマーケティング支援業者のケースです。当初は店頭のポップを担当していましたが、その写真をSNSにアップロードして大きな評判を獲得しました。「これからは動画の時代」という話を聞いて手がけたところ大ヒット。当時、専門家はほとんどおらず、すぐに「専門家」と目されたので、動画を中心としたWebマーケティング支援業で起業しました。
事業は2本柱で展開しました。メインは、自らの強みを生かした動画撮影・編集で、特に量販店で蓄積したノウハウを活かした特殊効果やテロップが評判でした。もう一方は、セミナー事業です。スマホを活用して、素人でも簡単に販促動画が撮れることを伝えました。セミナー事業は本業否定につながる危険性がありましたが、販促ツールとしての動画の効果を実体験してもらうために取組みました。「手軽に作製できると分かったが、作るならプロに任せたい」と考える方は少なくなく、当初は意図通りの成果があがっていました。
<アプリの普及で差別化が難しく>
そういう中、携帯アプリがどんどん改善され、それと共に受講生からの撮影・編集注文が減ってきたのです。特に画質の改善は著しく、受講生がスマホで作成・編集する動画の画質が、自分がホーム・ビデオカメラで撮影しパソコン用編集ソフトで作成したものに肉薄してきました。キャッシュが減少する中、運転資金を調達しつつ善後策を検討することにしました。
<調達した資金で高性能な専用機を導入>
結局この企業は、それから1年しないうちに廃業しました。理由は、早々に資金が逼迫した時に更なる資金調達ができなかったからです。「いや、事業継続のため資金調達したのではなかったか」という疑問があるでしょう。その資金は、高性能専用機(ビデオと動画編集機)購入資金に充てられたそうです。ホーム・ビデオカメラとパソコン用編集ソフトでは差別化できないので、ダントツの画質を実現して差別化を計ったのです。しかし、その効果は出ず資金は尽きてしまいました。
<StrateCutionsが提案できるソリューション>
では、このマーケティング支援事業者は、どうすれば倒産を免れたでしょうか?一度は成功した資金調達時に顧問として迎えて頂いた場合を例に、お話しします。
資金調達支援の場合、StrateCutionsは、企業の強み弱みをしっかりと見極めた上で、実現可能なマーケティング策を織り込んだ事業計画を策定します。当社の強みは、量販店で身に付けた特殊効果やテロップのノウハウを活用して顧客の売上に繋がる動画を作成できることでした。画質の良い動画ではありません。ここをしっかりと認識していれば、強みの増強に繋がらない投資に走ることはなかったでしょう。
この事業者が高額な機材を導入してしまった原因は「サラリーマン発想」にあると言えそうです。サラリーマンだと、投資額の少ないプロジェクトよりも多いプロジェクトを手がけた方が高く評価される傾向があります。多少の失敗があっても「経験を積んだ」と評価される場合さえあります。オーバースペックの機材を導入する思考回路が植え付けられてしますのです。一方で中小企業、特にスタートアップ時の企業は、投資を最低限に抑えてリスクを極小化する必要があります。大切なのは投資よりも成果であり、成果を得るために投入すべきはお金よりも知恵や行動です。「投資から考える」サラリーマン発想から、「成果から知恵や行動を考える」企業者発想に切り替えることは、多くの起業者にとって困難なチャレンジであるようです。StrateCutionsは、経営者にしっかりと寄り添い、時には厳しく、この発想を身に付けるようご指導します。
では、投資ではなく知恵や行動をどのように発揮するのか?今回の事業者の場合は「セミナーを変える」ことが必要だったと考えられます。「受講生に自前で動画を作成させると、自分のバックエンド商品が不要になってしまう」という構図を改めなければなりません。例えば「素人が作る動画とプロが作る動画の違いを説明するセミナー」を行えるでしょう。そうすれば、受講生はマーケティングにおける動画の有効性を認めた上で、プロに任せる道を選ぶでしょう。「安かろう悪かろう」の同業ではなく自分を選んでもらう差別化も実現できるでしょう。
私自身も経験したことですが、発想面・メンタル面で大きく変わらなければ、サラリーマンから起業者に脱皮することはできません。StrateCutionsでは、顧問として伴走しながら、会社だけでなく社長自身の成長をご支援します。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
- 第49回 期待によるモチベート
- 第48回 「褒める」はモチベート策になるか?
- 第47回 モチベーション策を考える
- 第46回 年末にモチベーションを維持する
- 第45回 台風19号で被災した中小企業への支援
- 第44回 理解力を高める唯一の方法
- 第43回 理解力低下の破壊力
- 第42回 こんな会議になっていませんか?
- 第41回 理解力について職場の「あるある」
- 第40回 上級マネジメント・チェックリスト
- 第39回 吉本興業に必要な上級マネジメント
- 第38回 吉本興業事件の真の原因は何か?
- 第37回 顧客かつ対戦相手として研修生と向き合う
- 第36回 研修の前からスタートする
- 第35回 受講生と足並みを揃える
- 第34回 5次元社会で活躍が期待される人材像
- 第33回 今、存在しない人材の育成
- 第32回 どんな人材を育てようとしているか
- 第31回 新人研修でカルサバから脱皮する
- 第30回 カルサバ人材開発計画が危険な理由
- 第29回 カルサバ人材開発が企業をダメにする
- 第28回 最も困難な人材開発から学べること
- 第27回 最も困難な人材開発から学ぶ
- 第26回 飛躍できる企業を育てる
- 第25回 孫社長の飛躍の秘密
- 第24回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(2)
- 第23回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
- 第22回 人材難を乗り越える人材育成教育
- 第21回 人材難を乗り越える人材育成の方法
- 第20回 人材難を乗り越える人材育成
- 第19回 目指せ!新ビジネスモデル
- 第18回 人手不足にどう対応するか
- 第17回 起業家が犯しやすい間違い
- 第16回 挨拶できてもダメなお店・企業
- 第15回 コラム名変更に込めた想い
- 第14回 従業員を軽視した工場のケース
- 第13回 準備で忙しかった先生のケース
- 第12回 経理の疎さが危機を招いたケース
- 第11回 周囲を蹴落としたら自分の所在もなくなってしまったケース
- 第10回 お金の使い方でサラリーマンから卒業できなかったケース
- 第9回 事業承継への消極性が企業の持続力を奪ってしまったケース
- 第8回 二代目の多店舗戦略が裏目に出たケース
- 第7回 リスケ後に安穏としてしまったケース
- 第6回 消極投資で自分を窮地に追い込んでしまったケース
- 第5回 自信を持った二代目社長のケース
- 第4回 経営改善に踏み込めなかったケース
- 第3回 金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース
- 第2回 仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース
- 第1回 事業改善して繁盛企業になれる方法を倒産企業から学ぶ