会社千夜一夜

第25回

孫社長の飛躍の秘密

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 今月19日「平成最後の大型上場」との呼び声も高くSoftbankが東証1部に上場しました。これまでの大型上場というとNTTやJRなど官営企業が民業化されたものが多かったのですが(NTTは電信電話公社、JRは国鉄で、昔は3公社5現業と言われた官営事業)、Softbankは孫社長が一代で築き上げた事業という点で特徴があります。「会社千夜一夜」の今年最終版は、この孫社長の飛躍の秘密について、考えてみることにしましょう(この記事はSoftbank株を買うようお勧めするものではありませんのでご注意ください)。



イノベーション

 孫社長の最初の事業は「音声機能付き翻訳機」とされています。カルフォルニア大学バークレー校に在学していた孫社長は1979年に、時代の先端を行くこの製品をシャープに売り込んで1億円の資金を手に入れ、躍進のきっかけを掴みました。その後にシャープは、この技術をもとにポケット電訳機 (IQ-3000)を開発・発売したとされています。


 「音声機能付き翻訳機」は今でも進化中の時代の最先端をいく製品です。もちろん孫社長の開発した品は今のものと比べると原始的ですが、その当時には他に類似品のない「イノベーション」でした。これが、孫社長飛躍の第一歩になりました。



プラットフォーム化

 孫社長、そして彼が率いる会社Softbankといえば携帯キャリアです。それまでSoftbankは、専門雑誌「Oh!PC」「Oh!MZ」などの出版業や、LCR(電話番号ごとに最も安価な回線を選択して架電する装置)開発販売、Yahoo Japanの設立など積極的な事業展開を果たしましたが、2004年に携帯電話事業に参入していなかったら、今のような会社の発展はなく、孫社長の経営手腕が今のように取りざたされることもなかったのではないかと思います。そのような訳で携帯電話事業の進出は、大変に意義深いものでした。


 では、携帯電話事業進出がなぜ、これほどに意義深いことなのでしょうか?それは、携帯電話が「プラットフォーム」だからです。プラットフォームの代表例として、パソコンにおける「OS:オペレーティング・システム」が挙げられます。OSは、パソコンを動かす基本的なソフトウエアであると共に、その上で機能するワープロソフトや表計算ソフト、インターネット閲覧ソフトが機能する土台となるシステムです。どんなソフトウエアもOSなくしては成立せず、それゆえOSを押さえているとMicrosoft社のようにPC産業で枢要なポジションを占めることが可能になります。


 携帯電話は、最初は単なる「無線電話」というポジションでしたが、インターネットのデータを扱えるようになってプラットフォームとしての位置付けがどんどんと濃厚になってきました。先日にSoftbankの通信機器の不具合が生じたことで、多くの人々が必要な電話連絡を取れなかったばかりか、インターネットで自分の居場所や目的地が分からない、クラウドに格納されたデータを活用して仕事ができない、キャッシュレスでお金が払えないという不便さに見舞われました。これはまさに携帯電話が、情報提供や業務プロセス構築、キャッシュレスの販売事業などでプラットフォームとして機能している証左と言えます。



戦略

 孫社長の躍進の秘密としてもう一つ「戦略」が挙げられます。音声機能付き翻訳機の売り込みは、もしかしたら「思いつき」かもしれません。しかし、携帯電話事業への進出は思いつきで取り組むのは不可能です。そして今、孫社長は、トヨタとの合弁で新会社「MONET Technologies(MONET)を設立しました。その目的はIoTを自動車に実現することで移動や物流、そして物販におけるサービスを飛躍的に向上させることだとされています。


 インターネットはこれまで世界津々浦々の人々を繋いで産業ばかりか人々の生活に革命的と言えるインパクトを与えました。IoTは、モノとモノとをインターネットで繋ぐことで、今までにないサービスを可能にし、メリットを生み出そうとしています。Softbankが自動車による移動や物流の分野におけるIoTでデファクト・スタンダードを取れたら、少なくとも世界をリードする企業の一つになれたら、そのメリットは如何ばかりでしょう。このポジションを取るべく、孫社長は、トヨタとの連携を決めたものと思われます。


 これから成長していく企業とは何か?孫社長率いるSoftbankのあり方は分かりやすい見本です。私たちもイノベーション、プラットフォームそして/もしくは戦略を検討する年末・年始にしたいものですね。 




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。



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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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