第13回
準備で忙しかった先生のケース
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
起業支援する多くの方々が「多くの士業・先生業が創業するが、その多くがかなり短い期間で廃業に追い込まれている」と指摘されています。「先生になろうというだけあって、知識もあり、判断力もある人たちなのに、なぜ、そんなに廃業に追い込まれるのだろうか?」その質問の答えに心当たりがあります。先生業を目指す方は「準備に忙しい」ケースがあるからです(以下は、プライバシー保護のために脚色してあります)。
ある中小企業診断士のケース
ある異業種交流会で、同業である中小企業診断士にお会いしました。話しをお聞きすると、大手製造企業で技術職として長年実績を積まれ、定年退職を前にして役職定年となったのを機に独立されたそうです。「技術の世界がお好きなら、別に管理職でなくても良かったのではないですか」という質問に、「そうなんですよ。しかし役職定年になると技術の世界からも離れてしまうので、最新の情報に疎くなる前に独立したのです」と言われました。お話を聞いて「この先生の専門分野では、そんな状況もあるのだろうな」と感じました。
「では、現在は何をしているのですか?」という質問には、「私の知識・ノウハウを活用してもらえるよう準備をしている」とのお返事が返ってきました。彼の得意分野はニッチなので、それにピタリと当てはまるお客様を見つけるのは相当苦労するはず。このため、自分の知識・ノウハウを汎用化しているとのことでした。「かなり進んでいるのですよ。出来上がったフォームは数十枚に及びます」と嬉しそうでした。
「準備ができていないので」と紹介を断る
こういう状況だったので異業種交流会のメンバーには「勉強熱心な先生だ」と評判が立ち、評価も上々でした。が、それを一変させるような事件が起きます。メンバーが紹介した仕事を断ることが、続いたのです。理由は「準備ができていないから」というものでした。紹介者としては、彼が紹介を求めているクライアントだと思ったお客様だったり、多くの中小企業診断士が手掛けている補助金申請書の策定を希望するお客様をご紹介したのに断られたので、とても訝しがっていました。
このため「あの人は、何の仕事だったら準備ができているのだろう」という疑問が湧き、同業者ということで私が話をお聞きしました。紹介者だったメンバーの気持ちなども伝えながら尋ねると「全く悪気はない。自分が納得する出来栄えで支援できるかどうか自信がなかったので、少し待ってもらった」というお話でした。「では、次からは同種の紹介は受けられるのか」と質問すると、それは難しいとのこと。理由を聞くと「今、健康経営について興味を持っている。まず、そちらの準備をしたい」とのことでした。それを求めるお客様がいるのなら、もちろん問題はありません。「お客様を満足できるよう頑張って」と伝えると、まだお客様はいないとのことでした。まだ存在しないお客様のために「準備」していたのです。
このようなことを続けているうち、その中小企業診断士は、異業種交流会からいなくなりました。話を聞くと、昔の仲間が経営する企業に技術者として再就職したとのことでした。
StrateCutionsが提案できるソリューション
StrateCutionsは、この中小企業診断士にどんな支援ができるでしょうか。実は、必要なのは仕事上の支援ではなく、この先生自身の意識を変えることではないかと思われます。
この先生の意識は、何が問題だったのでしょうか?推察するに「自分のやりたい支援を、やりたいように行いたい」という意識だったようです。一方で「自分の支援を必要としているお客様が、必要としている支援を行う」という意識ではありませんでした。彼の支援を受けたいと思う社長、彼の支援が受けられるようにお客様を紹介したいという仲間がいるにも関わらず、そのような求めに対応するための準備は行わず、自分のやりたい仕事の準備に没頭していたことから、そう判断できます。
もちろん、自分のやり方での支援を求めるお客様をすでに確保していたなら、問題ではありません。しかし、独立した起業者としての意識、これからお客様を探していかなければならない事業者としての意識としては、問題があったとしか言いようがありません。自身の事業は回らなくなるし、一方で彼の知識や能力でもって支援を受けたかった社長、それで現状を打破できたかもしれない企業が、頼る先を失ってしまったからです。Lose-Loseの関係になってしまいました。
「でも、自分の知識・ノウハウにぴたりとはまるお客様以外、要望に完璧に応えすることはできない。いずれにせよ準備のために仕事をお断りするしかない」そうでしょうか? それを回避する方法として、必要なサポートを提供できる士業・専門家と協業するという方法があります。パートナーと協業することにより、お客様の要望にしっかり応えてお困りごとを解決していくWin-Win-Winの「ハブ」になることができます。StrateCutionsは、自分自身がそのような存在を目指して、仲間の支援にも励みたいと考えています。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
- 第49回 期待によるモチベート
- 第48回 「褒める」はモチベート策になるか?
- 第47回 モチベーション策を考える
- 第46回 年末にモチベーションを維持する
- 第45回 台風19号で被災した中小企業への支援
- 第44回 理解力を高める唯一の方法
- 第43回 理解力低下の破壊力
- 第42回 こんな会議になっていませんか?
- 第41回 理解力について職場の「あるある」
- 第40回 上級マネジメント・チェックリスト
- 第39回 吉本興業に必要な上級マネジメント
- 第38回 吉本興業事件の真の原因は何か?
- 第37回 顧客かつ対戦相手として研修生と向き合う
- 第36回 研修の前からスタートする
- 第35回 受講生と足並みを揃える
- 第34回 5次元社会で活躍が期待される人材像
- 第33回 今、存在しない人材の育成
- 第32回 どんな人材を育てようとしているか
- 第31回 新人研修でカルサバから脱皮する
- 第30回 カルサバ人材開発計画が危険な理由
- 第29回 カルサバ人材開発が企業をダメにする
- 第28回 最も困難な人材開発から学べること
- 第27回 最も困難な人材開発から学ぶ
- 第26回 飛躍できる企業を育てる
- 第25回 孫社長の飛躍の秘密
- 第24回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(2)
- 第23回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
- 第22回 人材難を乗り越える人材育成教育
- 第21回 人材難を乗り越える人材育成の方法
- 第20回 人材難を乗り越える人材育成
- 第19回 目指せ!新ビジネスモデル
- 第18回 人手不足にどう対応するか
- 第17回 起業家が犯しやすい間違い
- 第16回 挨拶できてもダメなお店・企業
- 第15回 コラム名変更に込めた想い
- 第14回 従業員を軽視した工場のケース
- 第13回 準備で忙しかった先生のケース
- 第12回 経理の疎さが危機を招いたケース
- 第11回 周囲を蹴落としたら自分の所在もなくなってしまったケース
- 第10回 お金の使い方でサラリーマンから卒業できなかったケース
- 第9回 事業承継への消極性が企業の持続力を奪ってしまったケース
- 第8回 二代目の多店舗戦略が裏目に出たケース
- 第7回 リスケ後に安穏としてしまったケース
- 第6回 消極投資で自分を窮地に追い込んでしまったケース
- 第5回 自信を持った二代目社長のケース
- 第4回 経営改善に踏み込めなかったケース
- 第3回 金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース
- 第2回 仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース
- 第1回 事業改善して繁盛企業になれる方法を倒産企業から学ぶ