第8回
二代目の多店舗戦略が裏目に出たケース
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
ここ数年、政府が力を入れているのが事業承継対策です。企業数がどんどんと減って、日本の国力や魅力を大きく損ないつつあります。なぜ事業承継が進まないのか?理由の一つに、中小企業の収益性の低さが挙げられます。二代目候補に「儲からない事業は、承継したくない」という気持ちが働いてしまうのです。先代と二代目で知恵を出し合って収益性を高めていければ、事業承継も進む可能性があります。昨年募集された「事業承継補助金」では業種・業態変更を伴う費用も補助されました。事業承継時の事業見直しは、今や常識かもしれません。
しかしここで、一つ落とし穴がありそうです。せっかく打ち出した高収益戦略が裏目に出てしまう可能性です。特に多店舗戦略は、大きなメリットが期待できますが、デメリットも少なくありません。リスクも潜んでいます。これらに注意深く対処して進めていかないと、せっかくの事業承継が台無しになるばかりか、企業を倒産させてしまうことにもなりかねません。
多店舗展開を前提にした事業承継
その洋食レストランは、地味ながらも地域では評判のお店で、長らくお客様から愛されていました。70歳を過ぎた先代は息子さんに承継してもらいたいと考えていましたが、息子さんは商社に勤める道を選びました。いよいよ廃業かという時に、先代と息子さんとの間に合意ができました。息子さんは調理場には立たず経営者として多店舗展開戦略のリーダーとなる。先代もそれに協力し、息子さんが社長になるまでに料理人を店長として育成し、サポートする料理人も訓練するという合意です。
大都市郊外で「美味しい洋食を大衆価格で食べられる店」はお客様の共感を呼び、3店舗目、4店舗目と店舗を増やす毎に売上も順調に拡大しました。店舗展開に必要な資金は借入でまかなったので「全力で走らなければ返済できなくなる」という自転車操業の状況とはいえ、「あともう少しの辛抱」と従業員も一体となって頑張っていたのです。
競合店の登場
多店舗展開の当初は春を謳歌した当社ですが、競合店との顧客獲得合戦が熾烈化するにつれ、状況が一変しました。
競合店が進出する毎に、そして他店舗がキャンペーンを打つ毎に、お客様が減ってキャッシュが回らなくなるのです。それに打ち勝つには当社もキャンペーンを打つしかありません。2割、3割の値引きがいつしか5割になり、恒常化してしまったのです。そうするともう、お客様は50%オフでしか来店してくれません。客足は一定レベルに維持できていましたが、利益率が急速に低下してキャッシュ不足に陥り、支払不能となったのです。結果的に、自己破産を余儀なくされました。
StrateCutionsが提案できるソリューション
どうしたら倒産が避けられたでしょうか?以下、多店舗展開開始時にご提案する対策を簡単にまとめてみます。
多店舗展開は、一見すると魅力的なビジネスモデルです。店舗を増やす毎に売上や利益も2倍、3倍と増えいくと予想できます。計画時に損益計算書だけでシミュレーションしたのではバラ色の将来しか見えませんが、「儲かっているのにキャッシュが足りないのはなぜだろう」と疑問に思うようになります。この理由は、貸借対照表やキャッシュ・フロー表まで作成すると分かります。StrateCutionsではもちろん、これら資料の作成をご支援し、資金調達などの準備を予め行なっていきます。
それに加えて経営戦略に特有の問題にも対処します。先代が長年営業した「本店」は固定客を確保していることでしょう。一方で2号店、3号店は顧客を獲得しなければなりません。上では「競合店が進出」と書きましたが、実は自身が「競合店」の立場で既存他店から顧客を奪わなければならないのです。StrateCutionsでは、自社の強みや進出する地域の競合先状況などを総合的に考慮に入れながら「自社の魅力」を戦略的に高めるご支援も行います。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。また、コラム(本欄)ではコンパクトにまとめたStrateCutionsからのご提案についても、各項目をしっかりとご説明しています。印刷版を利用して、是非、繁盛企業になるための方法を倒産企業からしっかりと学んでみてください。
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。
1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。
2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。
Webサイト:StrateCutions
- 第49回 期待によるモチベート
- 第48回 「褒める」はモチベート策になるか?
- 第47回 モチベーション策を考える
- 第46回 年末にモチベーションを維持する
- 第45回 台風19号で被災した中小企業への支援
- 第44回 理解力を高める唯一の方法
- 第43回 理解力低下の破壊力
- 第42回 こんな会議になっていませんか?
- 第41回 理解力について職場の「あるある」
- 第40回 上級マネジメント・チェックリスト
- 第39回 吉本興業に必要な上級マネジメント
- 第38回 吉本興業事件の真の原因は何か?
- 第37回 顧客かつ対戦相手として研修生と向き合う
- 第36回 研修の前からスタートする
- 第35回 受講生と足並みを揃える
- 第34回 5次元社会で活躍が期待される人材像
- 第33回 今、存在しない人材の育成
- 第32回 どんな人材を育てようとしているか
- 第31回 新人研修でカルサバから脱皮する
- 第30回 カルサバ人材開発計画が危険な理由
- 第29回 カルサバ人材開発が企業をダメにする
- 第28回 最も困難な人材開発から学べること
- 第27回 最も困難な人材開発から学ぶ
- 第26回 飛躍できる企業を育てる
- 第25回 孫社長の飛躍の秘密
- 第24回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(2)
- 第23回 カルロス・ゴーンの2つの教訓(1)
- 第22回 人材難を乗り越える人材育成教育
- 第21回 人材難を乗り越える人材育成の方法
- 第20回 人材難を乗り越える人材育成
- 第19回 目指せ!新ビジネスモデル
- 第18回 人手不足にどう対応するか
- 第17回 起業家が犯しやすい間違い
- 第16回 挨拶できてもダメなお店・企業
- 第15回 コラム名変更に込めた想い
- 第14回 従業員を軽視した工場のケース
- 第13回 準備で忙しかった先生のケース
- 第12回 経理の疎さが危機を招いたケース
- 第11回 周囲を蹴落としたら自分の所在もなくなってしまったケース
- 第10回 お金の使い方でサラリーマンから卒業できなかったケース
- 第9回 事業承継への消極性が企業の持続力を奪ってしまったケース
- 第8回 二代目の多店舗戦略が裏目に出たケース
- 第7回 リスケ後に安穏としてしまったケース
- 第6回 消極投資で自分を窮地に追い込んでしまったケース
- 第5回 自信を持った二代目社長のケース
- 第4回 経営改善に踏み込めなかったケース
- 第3回 金融機関を渡り歩いて事業改善を怠ったケース
- 第2回 仮説に固執して事業改善のタネを見付けきれなかったケース
- 第1回 事業改善して繁盛企業になれる方法を倒産企業から学ぶ