会社千夜一夜

第49回

期待によるモチベート

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



令和元年の師走も、そろそろ終わりを迎えようとしています。皆さんにとって今年は、どんな年だったでしょうか?改元やラグビーのワールドカップなど華やかなイベントもありましたが、さえない景気や消費税増税による失速など影を落とす事象も生じています。来年に繋がっていく、締めの時期にしたいですね。


この師走は、モチベート策について考えてみました。今まで一般的に「恐怖によるモチベート策」が用いられてきましたが、逆効果やゲームズマンシップによる弊害などが指摘されています。これを避けるために勧められるのが「期待によるモチベート策」です。今日はこれについて深掘りして考えてみましょう。


「期待しているぞ!」の底力

恐怖によるモチベートは強力ですが、時には相手を意気消沈させて逆効果になる可能性があります。また、それを逃れるためだったら抜け穴を探したり時にはゴマカシだってするという「ゲームズマンシップ」を生みがちです。実際、社員(従業員。管理職、時には役員)のゲームズマンシップにより倒産した会社もあるほどです。また「褒めること」をモチベート策として考えている人も多いようですが、こちらも時として逆効果になる場合があります。褒めるとは結果を見て評価することなので、ラストスパートをかけてもらいたい場面で褒めると「もう、これで良いのだ」という気持ちにさせてしまうのです。また褒めることにも、それを得るためだったら抜け穴やゴマカシもする「ゲームズマンシップ」に繋がる場合があるようです。


期待によるモチベートは、恐怖によるモチベートほどの強力さはありませんが、それに生じがちな弊害は少ないようです。「期待をかけてもらうために、抜け穴を探したりゴマカシをする」という話はあまり聞いたことがありません(時々「勘違いな人」が、そんなことをしたという話は聞きますが)。功なしたビジネスパーソンの半生記を新聞などで読むと、若い頃に上司から「期待しているぞ!」と声をかけてもらい、ずっとその言葉を励みに頑張ってきたエピソードが語られているのを見かける時があります。期待には、時として大きな力があります。



期待の種類

一口に「期待」と言いますが、これにはいろいろなタイプがあります。今日は、そのうちのいくつかをご紹介します。

第一は「期待の対象が成果なのか、プロセスなのか」という軸で分けたタイプです。成果への期待としては「ノルマ達成への期待」、「グループで一番になることへの期待」、「昇進・昇格することへの期待」などが挙げられるでしょう。一方でプロセスに関する期待としては「やるべきことをきちんとやり遂げることへの期待」、「困難にあっても投げ出さないことへの期待」、「協働する仲間と調和しながら仕事することへの期待」などがあります。


第2は「誰からの期待か」という軸です。期待には他人から向けられた期待と、自分から自分に向けられた期待があります。


第3は「期待に応えたかどうかを評価する主体」という軸です。これには、評価者が他人の場合と、自分自身である場合とがあります。



分類する意味

「確かに期待には、今に指摘されたような軸があり、分類があるのかもしれない。しかし、それは言葉の遊びではないか?企業でのマネジメントで行う場合は『他人からの期待』かつ『他人による評価』にしかならないのではないか?プロセスを評価するのは失敗した場合の『逃げ』で、本来は決められた成果を出すよう期待するのが本道なのではないか」という感想がありそうですね。確かに筆者自身も、サラリーマン時代には、そう考えていました。


一方で、独立した企業者の経営者として働くようになると「他人からの期待」、「他人による評価」そして「成果への期待」だけでは足りないことに気が付きました。自分自身で自分に期待しないと、成長していく原動力や方向性が得られないのです。評価者も、自分自身以外にはいません。成果への期待が原則とは言え、新たな仕事を始める時などはプロセスを期待した方が適切に言動できることにも気付きました。


そういう時、功なしたビジネスパーソンの半生記などを読んで、これらの人々がさまざまな期待を活用していたことに気が付いたことが、期待を分類してみる動機となりました。これらの人々は、ある時には他人から評価を仕事のエネルギー源にし、別の時には自分の評価でもって自分を励ましていました。他人からの期待に応えられず結果を出せなかった場合に「失望したぞ」と言われても、「学ぶところが多かった。良い経験だった」と評価し直すことで辛い時期を耐えた人もいました。一方で、手掛けた仕事が次々と上手くいって昇進したとしても「出世だけを喜んではいけない。その経験を喜ぼう。次は人が嫌がる仕事で自分を試してみよう」などと考える人もいました。このように「期待」を使い分けることで、自分を強くしていたのです。


期待を上手く活用することで、以上の様に、頑張るべき時に一踏ん張りできる人材を育てられます。それだけでなく、辛い時にしなやかな心で耐えたり、多彩な観点からの成長を目指す人材を育てることも可能です。「年末の忙しい時に、もう一踏ん張りする人材はいないのか」と嘆くマネジャーさん、来年は期待によるモチベートの活用を考えるのはいかがでしょうか?




<本コラムの印刷版を用意しています>

 本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、コンサルタントの知恵を皆さんの会社でも活用してみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACからtomatokoさんご提供によるものです。tomatokoさん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

1985年中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
約30年間の在職中、中小企業信用保険審査部門(倒産審査マン)、保険業務部門(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定、事業再生案件審査)、総合研究所(企業研究・経済調査)、システム部門(ホストコンピューター運用・活用企画)、事業企画部門(組織改革)等を歴任。その間、2つの信用保証協会に出向し、保証審査業務にも従事(保証審査マン)。

1999年 中小企業診断士登録。企業経営者としっかりと向き合うと共に、現場に入り込んで強みや弱みを見つける眼を養う。 2008年 Bond-BBT MBA-BBT MBA課程修了。企業経営者の経営方針や企業の事業状況について同業他社や事業環境・トレンドなどと対比して適切に評価すると共に、企業にマッチし力強く成果をあげていく経営戦略やマネジメント策を考案・実施するノウハウを会得する。 2014年 約30年勤めた日本政策金融公庫を退職、中小企業診断士として独立する。在職期間中に18,000を超える倒産案件を審査してきた経験から「もう倒産企業はいらない」という強い想いを持ち、 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を中心した企業顧問などの支援を行う。

2016年 資金調達支援事業を開始。当初は「安易な借入は企業倒産の近道」と考えて資金調達支援は敬遠していたが、資金調達する瞬間こそ事業改善へのエネルギーが最大になっていることに気付き、前向きに努力する中小企業の資金調達支援を開始する。日本政策金融公庫で政策研究・制度設計(信用保証・信用保険制度における事業再生支援スキーム策定)にも携わった経験から、政策をうまく活用した事業改善支援を得意とする。既に「事業性評価融資」を金融機関に提案する資金調達支援にも成功している。


Webサイト:StrateCutions

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