第14回
日本経済の再興には「人をつくる」しかない 人材投資で産業競争力を強化
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストM
二つ目は労働市場の変化だ。円安で生産拠点の国内回帰を進めようとしても人手不足で、工場で働いてくれる人を見つけるのが難しいという。少子高齢化に加え、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため外国人の受け入れをストップしたことも人材難に拍車をかけた。
どちらも短期間で解決できる問題ではないだろう。バブル経済崩壊から約30年間、日本の経営者は円高対策と人件費の安さを求めて中国や東南アジアに生産拠点を移した。その結果、資金、技術、人材の海外流出が起きた。このため国内は低賃金で働かされる非正規雇用が増え、購買力が低下しデフレスパイラルに陥った。日本の賃金は20年間、ほとんど伸びていないのが実情だ。国力の低下も著しい。
「ニッポン株式会社」が稼げなくなったのは、バブル経済崩壊から約30年間、日本政府はもちろん、大企業を中心に何の手も打ってこなかったからといえる。終戦後のどん底から這い上がったのはチャレンジャーのハングリー精神にほかならない。創業者の「やってみよう」の号令に、勤労意欲の高い国民がついていって優秀な製品を生み出し輸出し高度経済成長を実現した。
その成功の上にあぐらをかいてきた世代が停滞をもたらしたといえる。経営者の質の低下といっていいだろう。稼いだカネを使わず、内部留保としてため込むばかりだ。設備投資や研究開発費、人材育成にカネが回らなければ企業成長はおぼつかない。
打開するには競争力の底上げを図るしかない。経営資源であるカネはある。モノへの投資は後回しのようである。優秀な人材を奪い合う今、最も重視すべきはヒトへの投資ではないだろうか。経営者は従業員をコストと考えずに、価値を生み出す投資先ととらえるべきで、人的投資の拡充にカネを使うべきだ。従業員は大事なステークホルダー(利害関係者)に違いないからだ。
学び直しによってスキルアップしていけば、企業内失業は防げる。会社にしがみつく必要もなくなるので、企業は従業員の適正・能力をしっかり評価し処遇しなければ辞められてしまう。こうして労働の流動性が高まれば、日本経済の課題といわれてきた産業の新陳代謝も起きるだろう。次代を担うスタートアップ(新興企業)の育成・発展につながるのは間違いなく、独り負けの日本経済を救うことになる。「経営の神様」とたたえられ、松下電器産業(現パナソニック)を起こした松下幸之助は創業間もないころ、従業員に「松下電器は何を作っているんですか」と聞かれ、「人をつくっています。電気製品もつくっていますが、その前にまず人をつくっているのです」と答えたという。ニッポン株式会社の再興には「人をつくる」しかない。
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- 第11回 「型を持って型を破る」 沈滞する日本を救う切り札
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