鳥の目、虫の目、魚の目

第22回

賃上げや住宅支援など子供を育てやすい環境整備を 人口減少に歯止めをかけ経済成長へ

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

日本の出生数が急減しており、2022年の出生数は初めて80万人を下回ったようだ。少子化の進行は生産年齢人口の減少を意味し、経済を停滞させるのは間違いない。人口減少に歯止めをかけることが喫緊の課題であり、もはや子育て支援は待ったなしだ。

岸田文雄首相は23年1月4日の年頭記者会見で「異次元の少子化対策(後に「次元の異なる少子化対策」と言い換えた)に挑戦する」と表明した。出生率を回復することが国力を維持するうえで欠かせないからだ。

女性1人が一生の間に産む子供の数を示す「合計特殊出生率」は21年で1.30。20年の1.33からさらに低下した。人口維持に欠かせない2.07に遠く及ばない。政府が20年にまとめた「少子化社会対策大綱」で掲げた「希望出生率(若い世代の結婚や出産の希望がかなったときの出生率の水準)1.8」からもかけ離れており、子供を産み育てやすい環境整備が急がれる。というのも少子化問題はそう簡単に解決できるものではないからで、加藤勝信厚生労働相は「危機だといってもいい」と話した。

国立社会保障・人口問題研究所は、出生数が80万人を割り込むのは30年と推計していたが、大幅に早まることになった。30年後に出産適齢期を迎える女性が減れば少子化は進む。少子化が少子化を招く悪循環にはまり、出生数はますます減少する。人口が1憶人を下回るのも推計の53年から早まる可能性が高い。

女性の就労が進んだ1970年代以降、晩婚化や非婚化、さらに晩産化、非産・少産化が進んだといわれる。バブル崩壊後の「失われた30年」は人口の停滞・減少期と重なる。生産年齢人口も減少の一途だ。

なぜ生涯子供を持たない女性が増えたのか。子育てや教育にお金がかかりすぎるうえ、住宅価格も高騰。狭さもあいまって少子化が止まらない。家の狭さや通勤時間の長さが第2子の出生を抑制するという分析もある。

これを受け、岸田首相は子育て支援として児童手当の拡充や若者の賃上げ、非正規雇用の正規化に加え、住宅支援も掲げたわけだ。若者が安心して結婚・出産できる環境を整えるには賃上げなどにより所得を向上させることが不可欠なのはいうまでもない。

その上で住宅の充実も欠かせない。不動産経済研究所によると、22年の首都圏の新築マンションの平均価格は6288万円と2年連続で過去最高を更新した。住宅の購入価格が世帯年収の何倍かを示す年収倍率は6.83倍と高い。

一方で専有面積は66.1平方メートルと前年比1%減少した。一般的に2LDKの広さだ。価格が高騰しながら住居は狭くなっているわけで、2人以上の子供をもって快適に過ごせる住環境ではないということだ。

このため少子化対策として住居費の負担、さらには住居の提供を考えた方がいい。子育て世帯は消費に占める住居費の割合が高く、住宅ローンなどの負担は重い。金利が上昇局面に入ればなおさらだ。一方で、国内には約850万戸の空き家があり、深刻な問題になっている。空き家をリノベーションして子育て世帯に貸し出せばいい。しかも格安で。

高度経済成長期につくられた都市部郊外のニュータウンも子育て世帯の住宅問題を解決するかもしれない。当初に購入した住民は高齢化し、生活に便利な都心部への転居を考える。子供に譲ろうと声をかけても、すでに独立しており後を継ぐつもりはなく、新たな空き家を生みかねない。

間取りが十分に確保されている住宅なら、子育て世帯には格好の物件ではないだろうか。緑も豊かで、都心よりのびのびと暮らせるので子供を育てるのに打って付けの環境といえる。新型コロナウイルス禍でリモートワークを採用する会社が増えており、通勤時間の長さというマイナス要因も今ではそれほど気にしなくてもいいのもしれない。

若い世帯が移り住めば消費は増える。それだけ地域は活性化し活力も生む。子育て支援策が空き家問題を解決し、地域を元気にする。まさに一石三鳥だ。「もう一人産もう」となれば、効果はなおさらで、出生率を上向かせることができれば生産年齢人口の回復につながる。長きにわたる経済の停滞にいずれ終止符を打つことにもなる。今春闘では経営側も賃上げに理解を示しており、今こそ子育て支援策を拡充して生産年齢人口を回復させ、経済の好循環を作る好機だ。


 

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