鳥の目、虫の目、魚の目

第2回

トップは最大の広報マン、危機管理の欠如は致命傷

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
10月31日に投開票された衆議院議員選挙は自民党が単独で、国会の安定運営に必要な絶対安定多数を獲得した。岸田文雄政権が国民から信任を得たことで、国民への情報発信力と説明力がますます重要になる。政府と国民をつなぐ広報力が問われるともいえる。その広報においてトップこそが最大の広報マンだ。国においては岸田首相にほかならない。

広報力は政府だけでなく、企業はもちろん、学校法人や医療法人、自治体といった様々な組織に求められる。ステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションをいかに緊密にしていくか。その重要性はますます高まっているといえ、的確な行動は持続的成長をもたらすが、下手な振る舞いは信頼を失いかねず、決しておろそかにできない。

とはいえ稚拙な広報が多く見受けられ、政治の世界では新型コロナウイルス対策などをめぐる政府関係者の一連の失言は適切な広報を理解せずに発した結果であり、菅義偉前政権の崩壊をもたらした。大手企業でも不祥事の隠蔽などが後を絶たないが、すべては広報力の欠如からといえる。

企業・団体の広報活動を支援するNPO法人「広報駆け込み寺」の三隅説夫代表は「広報はまさに経営機能であり、危機管理を担う」と指摘するとともに、その役割について「企業が間違った方向にいかないための羅針盤」と言い切る。

その三隅氏が口を酸っぱくして言い続けているのが「逃げるな。隠すな、嘘をつくな」。危機発生時の大原則で、不祥事など問題発生時にトップが逃げずに真摯に対応し謝罪。その上で、分かっているすべてのことを情報開示(ディスクロージャー)し、的確に説明責任(アカウンタビリティー)を果たせば、批判は拡散せず早期に収束する。

にもかかわらず「俺は(用意された記者会見に)行かない」と逃げるトップがいる。「たいしたことではない」との発想からかもしれないが、この発想は内輪の論理でしかない。隠していても必ず内部告発されて明らかになり、世間にたたかれる。マスコミへの初動対応がすべてなのに後手後手に回り、収拾がつかなくなる。


危機管理能力のなさはトップとして致命的だ。トップの器の問題でもあるが、保身が第一で企業を守る気がないとしか思えない。「お客さま第一」の掛け声も空しく響くだけだ。他社が不祥事を起こしても。そこから学ぼうとせず「うちは大丈夫だな」程度で終わってしまう。他山の石として事の重大さを認識し、徹底的に危機管理の行動を起こすべきなのにできない。


危機管理とは最悪の事態を想定して備えることだ。しかし、危機管理という広報マインドの備わっていないトップのもとでは、企業は存続すら危うくなりかねない。「企業は営業不振ではつぶれないが。広報が機能しないとつぶれる」と断言する経営者もいる。不祥事への対応に失敗してコーポレートブランド価値を失い市場からの退場を余儀なくされた企業が存在したことからも明らかだ。


逃げるトップに対し、「記者会見はどこで行うのか」と矢面の先頭に立つトップもいる。トップが顔を見せて説明することで不祥事への本気の対応を印象づけられる。それにより被害防止対策のスピードアップと会社に対する信頼低下を防ぐことができる。危機管理能力にたけた、まさに「最大の広報マン」だ。


このように、すべての責任を取る覚悟をもって事に当たるトップほど頼もしい存在はない。言い換えれば、トップは広報力を企業の成長の原動力と位置づけるべきであり、トップ自らが広報力を身につけなければならない。「広報力がすなわち経営力」なのだ。企業の本質は不祥事の時に現れるといわれるゆえんだ。


インターネットの発達とそれに伴うソーシャルメディアの台頭で情報の受け止め方も多様化。特にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の浸透で、誰もが“記者”になれる。企業にとっていい情報も悪い情報もネットを通じて自由に飛び交うようになった。コロナ禍で先が読めない今、企業の顔であるトップが何を考えているかに注目が集まる。それだけトップの発言は重い。その一言が企業価値を上げたり下げたりする。だからこそ情報発信力、危機管理を担う広報力が問われる。


 

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