鳥の目、虫の目、魚の目

第28回

ストレスに克つ(下) 失敗を恐れず挑戦してこそ評価を高められる

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

「『首尾一貫感覚』で逆境に強い自分をつくる方法」の著者、舟木彩乃さんは「今は窮屈でストレスがたまる。これでは首尾一貫感覚も育ちにくい」と指摘した。ただし「首尾一貫感覚は先天的ではなく後天的であり、価値観や考え方、行動様式を変えれば性格は変えられる。ネガティブ思考も修正できる」と伝えることも忘れなかった。

確かに、逆境を乗り越えて一回り大きく成長できる人と、つらい状況に飲み込まれてしまう人の二通りの人がいる。

成長するには、逃げ出したくなるような出来事を宿命として受け入れ、目をそらさないという覚悟ができるかどうかに尽きる。自分なりの哲学(生き方)、それも醸成された自分なりのものを持っている人はつらい出来事を意味あるものに変えられる。把握可能感と処理可能感が高い人の多くは、失敗を恐れず挑戦していけるため行動的だ。周りの評価も得られる。失敗経験も人生の肥やしにできる。「失敗は成功の元」なのだ。

首尾一貫感覚を私なりに解釈すると次のようになる。逆境に立たされたとき、自らを混乱に陥れた原因を究明し、人脈や知見、お金といった資源(リソース)を駆使し解決。さらに再度、同じような苦境に陥ったときその経験を生かして克服する。

失敗を繰り返すことがなくなり、発想もポジティブになる。こうして自らの生き方を習得し、どんな状況に追い込まれてもぶれずに進むべき道を歩める。

プロ野球の試合で最後を締めくくるクローザーという役どころを任される投手がいる。この抑え投手こそ高い首尾一貫感覚が求められるとつくづく思う。

クローザーの成績・評価を決める指標にセーブポイントがある。3点差以内で勝っているときに登板して抑えに成功、つまり勝利に貢献したときにもらえる。

1対0で勝っているとき、最終回の9回裏にマウンドに登ったクローザーで首尾一貫感覚を考えてみたい。自分の置かれている状況を把握して今後の展開を考えると、勝つためには1点も与えられないという覚悟のもとで相手打者に挑む。

こうした中での処理可能感だが、自分がもつ資源、すなわち自分の直球の威力や変化球の切れ、コントロールといった投球術を駆使すれば「何とかなる」と思えるかどうかだ。その上で対戦する打者の力量から打ち取れると確信すると、自信をもって投げ込めるので結果もおのずとついてくる。 

しかし、同じクローザーでも経験を積んだベテランになると、それだけ首尾一貫感覚も磨きがかかる。前述の1対0ではなく、3対0の場合には3点差を逃げ切ればいいと考える。言い換えると2点までなら失ってもいいと割り切ることができる。1点も与えたくないという緊迫感から解放されるため精神的にも余裕が生まれる。

それだけ投球の幅が広がり、相手打者・打線との駆け引きでも優位に立てる。処理可能感も一段と高まるわけだ。

かつて中日ドラゴンズで長年クローザーを務め、前人未到の通算407セーブを稼いだ、中日黄金期の絶対的守護神、岩瀬仁紀投手(1999~2018年)は後年、応援しているファンから見ると苦しみながらなんとか抑える投球が続いた。

ファンは、迎える打者をバッタバッタと打ち取って3者凡退でゲームセットを期待しているわけだが、そうもいかずヒットを打たれ、点と取られることも多くなった。

ハラハラドキドキの展開を望んでいないファンから「投手を代えろ」のヤジも飛ぶが、当の本人は涼しい顔でマウンドに立っている。「1点、2点与えても勝利すれば問題ない」ということで、自ら描いたシナリオ通りに投げ込むだけなのだ。抑えに失敗しても「次回に生かせばいい」と切り替え、監督、コーチもだからといってクローザーを変えるわけでもない。

与えられた立ち位置を明確に意識し、そのためにどんな投球をすればいいのか理解しているのだ。大投手と評価される所以だ。

首尾一貫感覚が高い人は、現状を把握し、自ら培った資源を生かせば「なんとかなる」と前向きにとらえることができる。絶体絶命の試練も、自らが成長するために神が与えてくれたとポジティブに考える。確かに「神様は乗り越えられない試練は与えない」と聞く。何よりも、どんな逆境に陥っても、それを克服できるだけの訓練に日ごろから励んでいる。

プロスポーツ選手だけでなく企業人も同じだ。与えられた場所で実績を積んで上司から評価され、一歩ずつ階段を上がることだ。置かれている立ち位置からやるべきことを把握し、磨いてきた技量をフルに発揮する。その上で、与えられた課題に応えることが自分の成長に欠かせないと理解する。こうして首尾一貫感覚を高めることがストレスフルな今の世を乗り切る肝といえる。


 

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