第3回
東芝VSソニー 複合経営は是か非か 稼ぐ力をつけることこそ肝要
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストM
総合電機、総合商社、総合化学など複合経営を標榜する日本企業は少なくない。東芝の決断が低収益にあえぐ日本企業の行動を変え、これを機に会社分割が広がるかもしれない。とはいえ、分割により企業規模は小さくなる。手がける事業に専念し、機動的経営で生き残りを図るが、従業員や取引先など多様な関係者の理解が得られなければ、稼ぐ目論見も「絵に描いた餅」になりかねない。企業価値向上を求める株主の声に応えることができなければ、市場からの退場が避けられない。
会社分割こそが企業価値の向上に資するわけではない。ゲームから半導体まで手掛けるソニーに対し、米アクティビストのサード・ポイントはかつてエンターテイメント事業の分離を迫った。これに対しソニーは自社の強みを複合経営と主張し、要求を突っぱねた。一方で株主との対話を続けた。その結果が、21年3月期の最終利益1兆円突破だ。売上高も9兆円弱と過去最高だ。株主との良好な関係を維持しているのは言うまでもない。
ソニーは21年4月に社名を「ソニーグループ」に変えた。吉田憲一郎社長はその狙いについて「エレクトロニクスもエンターテイメントも金融も横一線。グループとして効果的に資金や人材を配分する」と話したという。祖業のエレクトロニクスも「ワン・オブ・ゼム」にすぎないというわけだ。
実際、アニメを含む音楽、映画、ゲームのエンターテイメント事業は今や稼ぎ頭で、営業利益の6割を占める。ゲームで専用機を作り、映画も製作、多くの歌手も抱える。この3事業が相乗効果を生み、2度、3度と稼ぐ。音響技術や映像機器などエレクトロニクスとの融合もあり、株式市場もその多様性からコングロマリットプレミアムを意識する。要は総合か専門かではなく、強くて稼げる事業領域を持つかどうかだ。
- 第42回 道徳・倫理観を身につけている?
- 第41回 民法906条? 日本一美しい条文、相続問題は話し合って決める
- 第40回 「褒める」「叱る」で人は伸びる
- 第39回 危機管理の本質を学べる実践指南書 社員は品性を磨き、トップに直言する覚悟を
- 第38回 円より縁 地域通貨が絆を深める
- 第37回 相撲界を見習い、産業の新陳代謝で経済活性化を
- 第36回 広報力を鍛える。危機への備えは万全か
- 第35回 水素社会目指す山梨県
- 第34回 「変わる日本」の前兆か 34年ぶり株価、17年ぶり利上げ
- 第33回 従業員の働きがいなくして企業成長なし
- 第32回 争族をなくし笑顔相続のためにエンディングノートを
- 第31回 シニアの活用で生産性向上
- 第30回 自虐経済から脱却を スポーツ界を見習え
- 第29回 伝統と革新で100年企業目指せ
- 第28回 ストレスに克つ(下) 失敗を恐れず挑戦してこそ評価を高められる
- 第27回 ストレスに克つ(上) ポジティブ思考で逆境を乗り切る
- 第26回 ガバナンスの改善はどっち? 株主はアクティビスト支持 フジテックの株主総会、創業家が惨敗
- 第25回 やんちゃな人を育ててこそイノベーションが起きる 「昭和」の成功体験を捨て成長実感を求める若手に応える
- 第24回 人材確保に欠かせない外国労働者が長く働ける道を開け 貴重な戦力に「選ばれる国・企業」へ
- 第23回 人手不足の今こそ「人を生かす」経営が求められる 成長産業への労働移転で日本経済を再生
- 第22回 賃上げや住宅支援など子供を育てやすい環境整備を 人口減少に歯止めをかけ経済成長へ
- 第21回 賃上げで経済成長の好循環をつくる好機 優秀人材の確保で企業収益力は上昇
- 第20回 稼ぎ方を忘れた株式会社ニッポン 技術力で唯一無二の存在を生かして価格優位をつくり出せ
- 第19回 稼ぐ力を付けろ 人材流動化し起業に挑む文化創出を
- 第18回 リスクを取らなければ成長しない。政府・日銀は機動的な金融政策を
- 第17回 企業は稼いだお金を設備と人への投資に回せ 競争力を高め持続的成長へ
- 第16回 インパクト・スタートアップが日本再興の起爆剤 利益と社会課題解決を両立
- 第15回 適材適所から適所適材への転換を ヒトを生かす経営
- 第14回 日本経済の再興には「人をつくる」しかない 人材投資で産業競争力を強化
- 第13回 「Z世代」を取り込むことで勝機を見いだす
- 第12回 改革にチャレンジした企業が生き残る
- 第11回 「型を持って型を破る」 沈滞する日本を救う切り札
- 第10回 ベンチャー育成、先輩経営者がメンタリングで支援 出る杭を打つことで日本経済に刺激
- 第9回 コロナ禍で鎖国の日本 外国人材に「選ばれる」仕組づくりを
- 第8回 「御社の志は何ですか」社会が必要とする会社しか生き残れない
- 第7回 大企業病を患うな 風通しのよい組織を、思い込みは危険
- 第6回 常識を疑え、ニーズに応えるな ベンチャー成功のキラースキル
- 第5回 トップを目指すなら群れるな 統率力と変革の気概を磨け
- 第4回 脱炭素への対応が勝ち残りの道、事業構造の転換に本気に取り組むとき
- 第3回 東芝VSソニー 複合経営は是か非か 稼ぐ力をつけることこそ肝要
- 第2回 トップは最大の広報マン、危機管理の欠如は致命傷
- 第1回 リーダーに求められるのは発進力 強い意志と覚悟で危機に挑む