第16回
インパクト・スタートアップが日本再興の起爆剤 利益と社会課題解決を両立
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストM
「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」をビジョンに掲げるレディーフォーは医療機関や大学などにおける研究、地域活性化など既存の金融サービスではお金が流れにくい分野に資金調達の手段を展開。11年のクラウドファンディングサービス開始から約2万件のプログラムを掲載し110万人以上から約300億円の資金を集めた。米良CEOは「お金の流れを社会課題の解決にダイナミックに向かわせることに挑戦している」と意気込みを示した。
ユニファは保育・育児関連の社会課題をテクノロジーで解決するチャイルドケア・テック企業。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した保育支援サービスを開発・提供し、子育てしながら働きやすい豊かな社会づくりに貢献する。星CFOは「保育施設のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化で保育士がハッピーになれば園児もハッピーになるし、保護者もハッピーになれる。インパクト・スタートアップで成功例を創る」と断言した。
これまでの資本主義は利益と株価を追求してきた。評価基準はお金だ。しかし、そのために地球環境を破壊していいのか、従業員をこき使っていいのか。コンプライアンス(法令順守)やガバナンス(企業統治)を軽視(あるいは無視)していないか。こうした行き過ぎた利益優先主義の反省から生まれた新潮流が、社会課題をビジネスによって解決するインパクトだ。これからの資本主義といえる。
一般に社会性と事業性は対立した概念であり、経済合理性の外側に位置するためNPOなど非営利団体が担ってきた。しかし規模が小さいがゆえに、積みあがる社会課題に対応しきれない。資本主義社会では、やりたいことをやるにはどうしてもお金がかかる。3社がNPOではなく株式会社を選んだのはそのためだ。米良CEOは「日本のNPOは数十億円規模。これではインパクト(影響)は出せない」と言い切る。
水野CEOは「ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は当初、考えていなかった。しかし3億円の調達は正解だった。インパクトを出せるから」という。デジタル・アントレプレナー教育のためのシステム投資に使ったが、1000万円の利益を積み上げていてはいつまでたっても完成しない。「遠隔教育の提供で北海道・根室の子供が東京に来るまでのお金を不要にできた」と話した。
とはいえインパクト・スタートアップへの投資家の理解はなかなか進まなかったという。星CFOは「バイアス(偏見)がかかっており、多くの投資家から『儲からないでしょ』といわれる。説明すると納得してくれるけど」と笑う。米良CEOは「起業時にVCから『お金を儲けたいの、それとも社会貢献したいの』と聞かれ、『どっちかにしろ』といわれた」と振り返る。
インパクト・スタートアップが日本で受け入れられる余地は十分にある。事業性と社会性の両立は、日本の企業文化ともいえる売り手良し、買い手良し、世間良しの「三方良し」に近いからだ。そもそも日本に創業100年を超す長寿企業が多いのは、身の丈経営で持続的成長を重視し、地元密着で社会貢献に熱心だからといえる。
岸田文雄政権は「新しい資本主義」に向けて、イノベーションを生み出すためのスタートアップ投資を重点分野に位置づけた。日本経済の再興には産業の新陳代謝が欠かせないからだ。その担い手になりうるのがインパクト・スタートアップといえる。若いZ世代は起業の動機付けとして社会性を重視する。それだけにインパクト・スタートアップの先駆者たちが経済性と社会性を両立させた成功モデルになる必要がある。そうすれば次世代のチャレンジャーにバトンを渡せる。21世紀発の100年企業が誕生する期待は高まる。