鳥の目、虫の目、魚の目

第15回

適材適所から適所適材への転換を ヒトを生かす経営

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
日本のプロ野球が面白い。剛速球を投げ込む投手と、それに対しフルスイングで対抗する打者の真っ向勝負が見られるからだ。エース(主戦投手)対主砲(長距離打者)だけでなく、全ての対決で楽しめる。

変化球でかわすピッチング、バントや右打ち、盗塁でかき回す攻撃は玄人好みかもしれないが、やはりドラマが生まれる「ホームランか、三振か」のほうが面白い。1球で試合が決まるので見ていてワクワクするし、観客も大いに沸く。

力対力の対決で先行したパ・リーグがセ・リーグ覇者との日本シリーズを優位に戦い、セ・パ交流戦でも勝ち越してきたのも真っ向勝負効果だという。遅ればせながらセ・リーグも「魅せる」野球を開始、交流戦でようやく勝ち越した。

野球はホームランバッタを9人並べても勝てないといわれてきた。長打力より機動力を重視するスモールベースボールがもてはやされた。資金力にものをいわせてスラッガーを他球団からトレードで獲得しようとした奔走した球団もあったが、実際、なかなか勝てなかった。

攻撃では1番から9番までそれぞれ打順に役割があって、投げる側も先発投手から中継ぎ、抑えとうまくつながることで得点したり、失点を防いだりして勝つという全員野球を志向した。しかし、これは4番打者やエースを揃えられないからにほかならない。

頼れる選手が揃っていれば監督は作戦を練る必要がないし、頭を悩ますこともない。ベンチに悠然と座って「フルスイングしてこい」「剛速球を投げ込め」と送り出せばいいからだ。そうできないから現有戦力でしのぐ知恵を絞り出す。打撃力を生かすため負担のかからない守備位置に変更したり、先発で結果を残せなければ抑えに回したりして能力を生かす。それゆえに「知将」といわれる監督が選手より目立った球団もあった。

企業の経営資源といえばヒト、モノ、カネだ。最初に挙げられるヒトをどう生かすかが企業発展のカギを握るのはいうまでもない。「適材適所」といって社員、言い換えると持ち駒から最適配置を探るのが企業トップの使命でもある。知将としての知恵の見せ所だ。


では持ち駒が足りないとき、どうすればいいのか。野球の監督ならまずは2軍に行って探す。能力を持て余す選手がいれば配置転換などで生かせばいい。いなければトレードで補う。外国人選手も欲しくなる。それでも目ぼしい選手を取れなければ来年の新人選手獲得競争(ドラフト)にかける。


身内にいなければ外部に委ねるしかない。勝負の世界では適材適所ではなく適所適材だ。選手はもちろん、チームもそうだ。


企業も同じだ。新卒一括採用を入り口に年功序列、終身雇用という生ぬるい日本型雇用スタイルに頼っていては過酷な国際競争に勝てるはずがない。社内に居場所がなくてくすぶっている社員がいれば能力や資質にあう職場を提供したり、年功序列にとらわれず抜擢したりすることが必要だ。それでも足りない駒は外部から取ってくるのが手っ取り早い。


報酬も職務で決まるのはいうまでもない。言い換えると給与は必ずしも右肩上がりで毎年増えるわけではない。降格だってありうる。イスを争う相手は外国人かもしれないし、かつての部下かもしれない。それだけ職場に緊張感が生まれるのは間違いない。


転職や副業が今や当たり前になり、専門知識や技術をもつ高度人材の奪い合いが激しさを増す。必要な人材は中途採用する。いわゆるスカウトだ。新陳代謝が進まない日本経済にとって成長産業に人材が流れることはいいことだ。


言い換えると、能力を生かせる適所を求める優秀人材から「選ばれる企業」にならないと持続的成長はあり得ない。そのためには企業はまず、職場ごとに最適な人材を育成・配置しなければならない。常盤新平は「財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上」と喝破した。寺田虎彦は「捨てた一粒のカキのタネ。生えるも生えぬも 甘いも渋いも 畑の土の良しあし」と話した。


一方で社員も自ら専門性を磨かなければならない。その次に企業がやるべきことは外部から最適人材を求めることだ。いずれにせよ、少子高齢化で労働人口が減少し人材不足が慢性的に続く中、日本企業に求められるのは人材ありきの適材適所ではなく、求められる役割にふさわしい人材を充てる適所適材への転換だ。


 

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