明日を生き抜く知恵の言葉

第13回

「恩送り」で人は育ち、組織は強くなる

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

恩は返すもの? 「送る」もの?

最近、ある本を通じて「恩送り」という言葉に出会い、なるほどと膝を打った。

「自分がきちんと仕事をこなせるようになるまで、先輩たちが黙ってどれだけの代償を払ってきたかを考えてみてほしい。

その恩を先輩たちに返すべきだといっているのではない。恩返しではなく、『恩送り』として、自分が先輩たちにしてもらったように、自分が後輩たちを育成するのが、『人軸』に立つ組織のあり方だ。

こうした組織では、ピラミッドの上にいる先輩たちから、下にいる後輩たちに恩が送られ、その中で人材が育ち続けていく。だから、こうした『恩送り』が成り立つ会社は、末広がりのように長く成長・発展を遂げていくのだ」

(青木仁志『経営者は人生理念づくりから始めなさい』〈アチーブメント〉)


恩は返すものだと思っていた。だが、恩は受けた相手に返すだけのものではない。会社なら、自分が先輩から受けた恩を先輩に返す「恩返し」だけでなく、自分が先輩から受けた恩を後輩に送る「恩送り」がいかに大切かということに気づかされた。

「『恩送り』で組織は強くなる、「自分が先輩から受けた恩を後輩たちに送る『恩送り』のない会社では、組織が時とともに弱っていく。会社とはじつは、人材育成の過程で伸びていくものだからだ」(同書)

人材育成や部下指導というと、何をどう教えたらいいのか、後輩や部下とのコミュニケーションをどう取ったらいいのかと身構えてしまう人もいるだろう。だが、あまり難しく考えず、人材育成や部下指導は、自分が先輩から受けた恩を後輩や部下に送ることだ、その「恩送り」の中で人は育つと、シンプルに考えていいのかもしれない。

「恩送り」の中で人が育つ企業。想像するだけでも魅力的ではないか。

相手の心に自分の思いやりを「重ねて乗せる」

そんなことを考えているうちに、「恩」の語源をさかのぼってみたくなった。

例によって、最古の漢字字典である『説文解字』を開くと「(恩は)恵みなり」=写真=と解説されている。「恩」が「恵み」に通じるのはなぜなのか。

そこでさらに、加納喜光『漢字語源語義辞典』(東京堂出版)を見てみると、「恩」は「上に乗る」「上に重なる」イメージを表す「因」に、「心」が合わさってできた文字で、他人の心に自分の心(思いやり)を重ねて乗せる様子を暗示させると説明されている。

同書によれば、「他人の心に自分の心(思いやり)を重ねて乗せる」様子から、「相手に愛情や恵みを与える」という「恩」という漢字のコアイメージ(漢字が持つ深層のイメージ)が生じた。そしてそれが、「人から受けた恵みをありがたいと思う気持ち」という、今一般的に使われている「恩」の意味に展開していったというのだ。

現代人が忘れがちな恩、思いやり

ここで私たちは、「恩送り」という言葉に何を学んだらよいのか。

私は、恩は受けた相手に返すだけのものではない、自分が受けた恩を、より多くの人と分かち合うことが大切だと捉えたい。

これは会社や組織に限らないだろう。社会、あるいは家庭も同様で、今この瞬間を一生懸命に生きている私たちは、自分が親やその前の世代から受けた恩を、子どもたちやその先の世代に送ることに、なかなか心が向かわない。

「恩」という漢字の語源が教えてくれるように、「他人の心に自分の心(思いやり)を重ねて乗せる」気持ちを持てば、今、何かとギスギスしている世の中も、少しはぬくもりに満ちたものになるのではないか。

その一方で、「大恩(だいおん) は 報(ほう)ぜず」という言葉もある。これは、大きな恩ほど、人はそれに気がつかず、報いようともしないものだという意味だ。

じつは世の中は、自分が気づいていない大きな恩に満ちあふれているのかもしれない。



ジャーナリスト 加賀谷 貢樹


 

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