コロナ後の世界

第1回

デジタルで変わるコミュニケーションの功罪

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
コロナ禍が始まって2年。この間、多くの企業でテレワークなどが続けられてきた。突然はじめたにしてはスムーズに実用化でき、数カ月もすると働き方の基本形をテレワークにする企業も現れるなど、定着するのも早かった。東京都が実施した都内企業のテレワークに関する調査によれば、2020年3月時点では24.0%だった実施率も緊急事態宣言の発出された4月には62.7%に上昇。以来数度にわたる緊急事態宣言等の発出期間は60%台、解除後も50%台を維持し続けている。

こうみると、テレワークは仕事の1つのスタイルとしてしっかり根付いたかにみえる。ただ、実際にテレワークをしている人や実施企業に対するアンケートで浮き彫りになる課題や困りごとは、時間を経るにしたがっていろいろと変化してきた。そんなテレワークの課題だが、当初から解決していないのか、一貫して上位にランクされ危惧され続けているのが“コミュニケーションの希薄化”だ。

一方で、コミュニケーションが向上した、という利点を挙げる企業もある。このあたりは、仕組みや業種、社員の平均年齢などによっても違いが出てくることだろう。ただ、テレワークをしていない時代からコミュニケーションの悪い企業は多々あった。そういう組織は、テレワーク時代になってもコミュニケーションが良くないことだろう。そして、コミュニケーションの悪い企業はなにがしかの課題を抱えていることが多い。

コミュニケーションの活性化は、企業に属する各自が同じ目標に向かって協働するための調整などが円滑にできることから、生産性を向上させやすい。それ以上に、コロナ禍後のような不確実性が高い時代は、個々の従業員が持つ情報や知を共有することが重要だ。

今後の経済成長のカギを握るイノベーションは、異なる知の結合から生まれる。これを結合知というが、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏はこのイノベーションの元となる知の創造はコミュニケーションから始まる、と強調している。

京セラの創業者、稲盛和夫名誉会長は、そんなコミュニケーションを多角的に高める仕組みを多数考案した。そのひとつ“コンパ経営”は、本家の京セラのほか、稲盛氏がかつて主宰していた経営塾“盛和塾”の参加企業などでも広く実践されている。


ここでいうコンパは単なる親睦のための飲み会ではない。経営幹部から新入社員まで仕事上の上下関係を忘れて本音で語り合い、お互いをよく知るとともにみんなで進む方向性を合わせていく場となっている。


盛和塾に参加していた企業経営者によれば、このコンパには流儀がある。畳か御座の広間で乾きものをつまみにビールをのむのだという。本家である京セラの関係者に聞くと、実際はそこまで子細な決まりはなく、鍋をつつくことも多かったというが、コンパを続けることで社員同士は打ち解け、本音の議論が繰り広げられるようになる、という点は同じだ。


上司や部下も含め、仕事の仲間と飲みに行く、というのは何とも昭和的だし、現代の若年層は飲酒離れでそもそも飲み会を嫌がりそうではある。


しかし、稲盛氏はこのコンパ経営を2010年に始まった日本航空再建にも投入。自らの経営哲学や企業理念を繰り返し説くとともに、本音の話に耳を傾けた。再建に向け社員が一丸となって早期の再建を果たした背景には、こうした弛みないコミュニケーションの活性化策もあったのだ。


折しもコロナ禍で、こういう取り組みをしようにも容易ではない。テレワークが本格化したころ、オンライン飲み会というのも流行ったりしたが、最近はあまり聞かなくなった。2022年は年明け早々の新型コロナ感染拡大にともない、広範な地域がまん延防止等重点措置の対象となったが、この措置に基づく具体的な要請は、飲食店等の営業時間短縮とアルコール類の提供に関する制限、4人以下といった人数制限が核となっている。まさに、濃密なコミュニケーションをとるな、といわれているような環境。これが2年も続いているのだ。


経済社会は情報化、デジタル化の大波にさらされ、産業革命以来とされる大変革の真っただ中にある。これをコロナ禍が強力に後押しした格好になり、変革のスピードは加速している。次の時代がどうなるのかはわからないが、情報があふれ、多くの産業が知識化していくことにはなりそうだ。


はやく気兼ねなく会食や飲み会ができる日々がこないものか。もちろん、そこに知を持ち寄り、イノベーションを巻き起こしたいからだ。ということにしておこう。まあ、そういう日常があったコロナ前もイノベーションは起きていないような気はするのだが・・・


 

経済ジャーナリスト A


 

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