第5回
わからないからこそ挑戦! でも知らないはダメ
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
ウクライナは経済規模こそ小さいものの、世界有数の穀倉地帯だ。軍事侵攻を受ける中で、小麦やトウモロコシなどの供給がどうなるのか心配される。さらに、ロシアに対する制裁でロシアとの間のモノや資金の移動も大きく制限されることになる。
国際通貨基金(IMF)のまとめによれば、ロシアの2021年の国内総生産(GDP、ドルベース)は韓国よりも少なく、日本の3分の1にも満たないが、世界的な資源大国であり小麦の輸出は世界一でもある。ウクライナとロシア、そしてロシアに同調するベラルーシもだが、これらの国々の輸出入が大きく変化することの影響は大きい。
しかも、先行きがわからない。三菱総合研究所は今年2月16日に「ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望(2021~2023年度の内外経済見通し)」を発表した。その時点では日本の22年の実質GDP成長率を2.5%(2021年は1.6%)と予想していた。しかし、ウクライナ侵攻に伴い3月9日には「ロシアのウクライナ侵攻による世界・日本経済への影響」と題する改訂版を発表。そこで、22年の成長率予想を0.4%減の2.1%に引き下げている。
具体的な影響は日々報道されており、ガソリン価格の高騰といった形で顕在化しているものもある。それらの影響が出ることは必至だ。ただ、下方にふれるとはいえ、全体としては今年よりも拡大する予想ではある。
もっとも、これは全体の話。ロシアへの依存度が高い水産物関連など、局所的には甚大な影響を受ける産業もある。まったく影響を受けない人や産業はないだろうが、軽微な分野もある。ただ、生活面ではそもそも資源がなく、食料自給率も低い日本の場合、直接的な関係はなくても巡りめぐって影響は確実に出るはずだ。
そんなこともあって、これからの経済復興は難しさを増している。さあどうするか。
前述の三菱総研による予想では、今年は東南アジア(ASEAN諸国)と中国の経済成長が世界の中でも大きい。しかもウクライナ侵攻の影響による予想の修正も、中国はゼロ。東南アジアも0.2%の下方修正と、他のエリアよりは小幅だ。
とはいっても、中国は日米欧との政治経済的な摩擦が強まっており、先行きは不透明だ。成長率予想は5%だが、これも欧米との経済摩擦で鈍化した上でのことである。ウクライナ侵攻で見えにくいが、2月の北京冬季五輪には、政府関係者を派遣しない“外交ボイコット”が相次いだ。いわば、欧米とは非常に険悪な感じである。
一方東南アジアは、欧米や中国のサプライチェーンに組み込まれており、米中関係の動向次第では大きな影響を受けることになる。ただ、そのあたりも含め、あまりにも不透明。先が見通せない。何が起きるかわからない。だから、予想には反映のしようもない。
ということで、海外ビジネスについては不確定要素の多い環境下ではある。このあたりは、バブル崩壊や東日本大震災のような日本だけの懸案とは異なっている。そんな時だけに、日本の企業経営者、特に中小企業経営者は考えなければならないことが多い。
業種や規模にもよるが、まずはウクライナ侵攻の影響をにらみながら、コロナ禍からの復興を急ぐことになる。さらに、コロナ禍前から懸案となっている事業承継や人材確保、さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)などもある。
あまりにも課題が多すぎてよくわからない。そう。なんだかんだ言っても先行きはどうせわからない。しかし、置かれている状況や取り巻く情勢については、きっちりと見ていく必要がある。少なくとも視線を逸らさないほうがいい。
かといって、情勢を見極めてから判断するのはどうかと思う。なぜならば、見極めはつかないかも知れない。というか、おそらくつかない。
経済社会は、デジタル化をはじめとする歴史的な大変革の渦中にある。実は、コロナやウクライナに目を奪われている場合ではない。この変化はコロナ禍で加速した感もあるが、先行きはこれまた誰にも見通せない。いろいろとやってみるしかない。
もちろん、大きな投資や存続をかけた挑戦をいきなり始めるのはよくないが、変革期だけに立ち止まっているのもよくない。いや、立ち止まることが最大のリスクだとさえ思う。これまでの延長線上で未来が描ける場合はいいのだが、多くの場合そうではないだろう。
大きな流れとしてのデジタル化は進む。
農業や中小企業、地方、環境、健康…、もちろん海外展開も。
デジタルと何かの融合で何かが始まる。イノベーションは知と知の結合で生まれる“結合知”である。通販や事務処理を自動化することがDXだと思ってはいけない。どうせ誰にもわからないのだから、わからない前提でいろいろと挑戦することが重要だと感じる。
経済ジャーナリスト A
- 第46回 経済合理性に合致しない社会の声
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