コロナ後の世界

第12回

事業再構築補助金が創出する市場や需要

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
最近、「事業再構築補助金を活用してこの事業を始めた」という話をよく聞く。

新型コロナウイルス禍で壊滅的な打撃を受けた居酒屋がスイーツ製造事業で復活したり、旅行会社が教育事業に参入したり…

上限額が1億円で、企業規模などにもよるが最大3分の2の補助が受けられる。対象となる中小企業にとっては大きな額だ。いろいろ条件はついてはいるが、コロナ後の新たな自社の姿が描けている経営者にとって利用しない手はない。そんな事業再構築補助金の活用が集中したことで、新たな市場が創出されつつある分野もある。

「グランピング」という言葉を聞いたことはあるだろうか。“グラマラス(豪華)”なキャンプのことで、キャンプ道具などを用意しなくても気軽にアウトドアが満喫でき、かつホテルと同等の料理やサービスが楽しめるというものだ。これがコロナによる行動変容で大人気だという。で、調べていくとその施設の多くが事業再構築補助金を利用して作られていることがわかる。

民間の調査会社によれば、コロナ禍前の2019年には219カ所だったグランピング施設が2021年には350カ所にまで増加した。現時点では事業再構築補助金を受けた新設計画が500件以上あることから、来年初頭には1000カ所程度にまで増加するという。それこそ、補助金が市場を創出している格好だ。


そんなグランピング施設だが、豪華とはいってもテントである。ドーム型の頑丈で防音断熱性に優れた豪華なテントではあるが、宿泊施設を建設するのに比べると破格にローコストだ。20部屋の旅館やホテルを建設するとなると10億や20億円といった費用もかかるが、テントだと事業再構築補助金の範囲で収まることもあるという。この費用感が事業再構築補助金にちょうどいいのだろう。


グランピング施設が次々と設置されているのは、都会から離れた大自然豊かなエリアだ。スキー場などでの新設が目立っているようにも思う。そもそもスキー場はバブル期をピークに衰退の一途をたどってきた。若者の車離れ、アルコール離れなどがよく話題になるが、スキーも同様だ。冬季五輪で日本選手の活躍が目立つスノーボードなどは人気があるものの、そもそも人口減少下であり、スキー場利用者全体の減少には歯止めがかからない。ウインタースポーツを楽しむであろう年代の人口減少は特に深刻。2022年の出生数は“80万人割れとなっても不思議ではない”とされており、先行きも決して明るくはない。


コロナ禍は、こうした厳しい環境下にあるスキー人口やスキー場の減少に追い打ちをかけた。新型コロナの感染拡大が始まった2年前から営業休止が相次ぎ、北海道、長野、岐阜などで約30か所が休廃業している。ただ、考てみるとスキーは密にならないアウトドアレジャーではある。と同時に、夏のゲレンデは基本的には空いている。涼しい山間部に多く、駐車場なども完備している。レストランやホテル、温泉なんかがあるところも多い。


広々としていて密にもなりにくい夏場のゲレンデにドームテントを設置する動きは、生き残りをかけ、本来休止している夏場にも収益を確保しよう挑戦だ。ちなみに、グランピング以外にもオートキャンプ場やマウンテンバイクの専用コース、その他の乗り物系アトラクションなど、広々とした空いているスペースの活用手段は多い。このため、場所によって制約があるものの、休耕農地であるとか、リゾート地やゴルフ場の跡地などでも同様の活用が進む。


バブル時に流行ったリゾート開発のような大きな投資を伴わない“新展開”が、コロナ禍という特殊要因の影響で可能になっている。リアルな集客を伴うだけに、消費拡大など地方創生への波及効果も期待される。一過性じゃないことを見極める必要はあるものの、興味深い動きだ。


もっとも、本来のスキー(スノーボードも含む)についても密にならない。そうした面での再認識と再構築、周知に向けたアピールを強めてはどうかとも思う。例えばゴルフも長らく厳しい市場環境が続いてきたが、コロナ禍で注目され人気が高まっている。“密にならないのでコロナになりにくい”とはいいにくいが、夏場の市場創造に加え、冬場の人気レジャーとしての再興も強く期待したいところだ。



経済ジャーナリスト A


 

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