第12回
事業再構築補助金が創出する市場や需要
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
民間の調査会社によれば、コロナ禍前の2019年には219カ所だったグランピング施設が2021年には350カ所にまで増加した。現時点では事業再構築補助金を受けた新設計画が500件以上あることから、来年初頭には1000カ所程度にまで増加するという。それこそ、補助金が市場を創出している格好だ。
そんなグランピング施設だが、豪華とはいってもテントである。ドーム型の頑丈で防音断熱性に優れた豪華なテントではあるが、宿泊施設を建設するのに比べると破格にローコストだ。20部屋の旅館やホテルを建設するとなると10億や20億円といった費用もかかるが、テントだと事業再構築補助金の範囲で収まることもあるという。この費用感が事業再構築補助金にちょうどいいのだろう。
グランピング施設が次々と設置されているのは、都会から離れた大自然豊かなエリアだ。スキー場などでの新設が目立っているようにも思う。そもそもスキー場はバブル期をピークに衰退の一途をたどってきた。若者の車離れ、アルコール離れなどがよく話題になるが、スキーも同様だ。冬季五輪で日本選手の活躍が目立つスノーボードなどは人気があるものの、そもそも人口減少下であり、スキー場利用者全体の減少には歯止めがかからない。ウインタースポーツを楽しむであろう年代の人口減少は特に深刻。2022年の出生数は“80万人割れとなっても不思議ではない”とされており、先行きも決して明るくはない。
コロナ禍は、こうした厳しい環境下にあるスキー人口やスキー場の減少に追い打ちをかけた。新型コロナの感染拡大が始まった2年前から営業休止が相次ぎ、北海道、長野、岐阜などで約30か所が休廃業している。ただ、考てみるとスキーは密にならないアウトドアレジャーではある。と同時に、夏のゲレンデは基本的には空いている。涼しい山間部に多く、駐車場なども完備している。レストランやホテル、温泉なんかがあるところも多い。
広々としていて密にもなりにくい夏場のゲレンデにドームテントを設置する動きは、生き残りをかけ、本来休止している夏場にも収益を確保しよう挑戦だ。ちなみに、グランピング以外にもオートキャンプ場やマウンテンバイクの専用コース、その他の乗り物系アトラクションなど、広々とした空いているスペースの活用手段は多い。このため、場所によって制約があるものの、休耕農地であるとか、リゾート地やゴルフ場の跡地などでも同様の活用が進む。
バブル時に流行ったリゾート開発のような大きな投資を伴わない“新展開”が、コロナ禍という特殊要因の影響で可能になっている。リアルな集客を伴うだけに、消費拡大など地方創生への波及効果も期待される。一過性じゃないことを見極める必要はあるものの、興味深い動きだ。
もっとも、本来のスキー(スノーボードも含む)についても密にならない。そうした面での再認識と再構築、周知に向けたアピールを強めてはどうかとも思う。例えばゴルフも長らく厳しい市場環境が続いてきたが、コロナ禍で注目され人気が高まっている。“密にならないのでコロナになりにくい”とはいいにくいが、夏場の市場創造に加え、冬場の人気レジャーとしての再興も強く期待したいところだ。
経済ジャーナリスト A
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