第17回
全地域、全業種が一様だった時代の終焉
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
そもそも、現下の“回復”の動きは一様ではない。業種や地域によって感じ方は大きく異なるはずだ。要は置かれている環境によって感じ方が大きく異なるだろう。というのも、新型コロナウイルス禍前のように、全国とか全事業者とかの平均値ではわからないことが多いようにも思えるからだ。
その理由を求人倍率から考えてみよう。ちなみに、“求職者1人に対しては何件の求人があるか”を示す求人倍率には「有効求人倍率」のほかにも「新規求人倍率」などがある。
「新規求人倍率」は、その名の通り“その月に申し込まれた求人の数”と“その月に受け付けた求人の数”を基に算出する。これに対し、報道などでよく耳にする「有効求人倍率」は、“前月から繰り越された求人と求職”を加えて算出する。これを大雑把にいうと。「有効…」は景気のトレンドを反映しやすく、「新規…」はこれからの状況を把握するのに役立つ(先行指標)、ということになる。ちなみに、8月の「新規…」は7月を0.08ポイント下回ったが2.32倍と高水準だった。
実数である新規求人数(原数値)は前年同月比15.1%増と、7月をさらに上回っている。そこで、業種別の動向をあえて新規の求人数でみると、宿泊・飲食サービス業が同51.1%増、生活関連サービス・娯楽業が同28.9%増、卸売・小売業が同18.7%増となるなど、サービス業を中心に5月以降求人増が続いている。なんと全11業種のうち、8業種が2ケタ増という状況だ。
業種の偏りというか、産業構造の違いやコロナ禍時を通じた雇用状況を反映することから、地域による違いもいろいろだ。そこで、地域別については状況を把握しやすい「有効求人倍率」(就業地別)でみてみると、東京都が1.12倍、神奈川県は1.07倍なのに対して山形県は1.78倍、長野県は1.72倍、福井県は2.04倍にも達した。コロナ禍で失われた地方の雇用が回復してきていることを伺わせる。
一方の大都市圏はコロナ禍による雇用環境の変化が少なかった。企業が多い都市では、雇用調整助成金などを活用して雇用を維持してきたことも大きい。要はもともと失業者が比率としては少なかった。
そんな現下の状況を完全失業率(季節調整値)でみると、8月は7月より0.1ポイント下がり2.5%だ。失業率は下がったほうがいい。というか、失業者が少ないということだが、8月の数値はいわゆる完全雇用状態である。これが全国平均。平均と地方では、実態も感じ方もだいぶ違うのではないだろうか。雇用が戻ったという面もあるし、究極の人手不足に陥っているという地域や業種の多いだろう。
日本では今後、一様な経済政策は円安や資源・食料高対策などに限られてくる。景況感も業種や地域はもちろんだが、同業でも個社で大きくことなる時代を迎えている。行政はもはや頼りにならない。全国旅行支援のようなものもあるが、基本的には個別の産業政策には限度がある。だいたい、円安や資源高対策にしても、日本が自力でどうにかできるものではない。というか、どうにもできないだろう。
コロナ後の経済社会の変化は、進んできた多様化をより加速させ、場合によっては分断にもつながっていく。分断された勢力が自衛意識を強めると、抗争にも発展しかねない。それでも、自力で何とかしていきたい。とはいえ、そうすると常に不安が付きまとう。同じ境遇の人に相談しているうちに、それがまた新たな勢力を形成することもある。なんとも悩ましく、難しい。ただ、その際にも“自分たちファースト”の思考に陥らなければ、状況は変わっていく。
多様化が進む中で、われわれは抜本的に考え方を転換する時期にきている。
経済ジャーナリストA
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