第2回
分化を分裂や分断にしないための想像力
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
一方で、ロードサイドにある飲食店や地元の産品を扱う“道の駅”などの物販施設の一部では、週末ともなると県外ナンバーの車がずらりと並ぶ。関東甲信越エリアでまん防が出ていないのは山梨だけ。他県は県民に対して「県境をまたぐ移動の自粛」を要請しているが、規制に反対する人もかつてないほど多くなっている。そうなるのも頷ける。しかし、これは立地条件が奏功した一部のケースに過ぎない。全体としては厳しい。やはり“感染を徹底して防いだことによる苦難”は極めて理不尽だ。
まん防がでていても、うちはやる!
多くの都道府県では、まん防に伴う時短要請が求められている。要請を受け入れれば協力金もでる。が、あえて要請を拒否して営業を続ける、という飲食店もある。そういうところの経営者に聞くと、多くが「客が求めているから」と応える。そういう店では、週末ともなれば時短要請を受け入れた多くの店が閉まる午後9時以降、大勢の客でにぎわう。こうした現象は、テレワークや在宅勤務の定着もあり、都心などより多くの人が住む郊外でみられる。そういうところで聞くと、客も言う。「ただの風邪でいろいろ制限を受けたくない」と。ただ、改正特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」というルールはある。実名公表や過料といった罰則もある。客はともかく、店舗の運営者には「客が求めているから」とはいえリスクが伴う。営業に反対する嫌がらせがある。その嫌がらせに対する強い反発もある。“求めている客”以外の人たちからの信用を失うリスクもある。
ということで、3年目を迎えつつあるコロナ禍の現況についていろいろ触れてきたが、こうした社会の“空気”をヤバいと感じる。考え方が分化している。分断につながりかねないような気もする。分化する考え方の双方には、歩み寄れそうな余地もなさそうだ。
程度こそ変われど新型コロナウイルスとは今後も付き合い続けることになる。現在は特殊な状況下ではあるが、収束してもさまざまな面でコロナ禍前には戻らない、との見方が多い。コロナ禍でわれわれの行動や習慣は変化した。というか、さまざまな自粛を余儀なくされる半面で、この行動が“こうせよ”“こうあるべきだ”とか“そんなことする必要ない”などいう形で議論にさらされてきた。しかも趨勢が変化しているから悩ましい。過渡期とはそういうものかもしれない。コロナ禍がいよいよ収束に向かっている、ということだろうか。どちらかといえばそう思う。そんな時だからこそ、社会や企業、人のいろいろな面がみえる。これまで意識しなかった違いもみえる。いろいろ厳しい中だと、悪いところもたくさんみえる。
パチンコ産業について似たような議論がある。パチンコ店はコロナ禍で緊急事態宣言が東京都に出された当初、大きな物議をかもした。一部の店舗が休業要請を無視して営業を続け、その様子はマスコミも連日大きく報じた。報道も、途中からは「けしからん」という声ばかりを拾うようになり、すっかり悪者になった格好だ。ところが、パチンコ店ではクラスターなどは発生していない。たばこがつきものだったパチンコ店の強力な空調システム、盤面に向かって黙々と楽しむプレースタイルが奏功したと考えられている。ちなみに、改正健康増進法もあり、当時のホールは禁煙となっていた。もちろん、改正特別措置法に基づく緊急事態宣言に違反しているのはよくないが、その言われようや扱いには違和感を感じた。
パチンコ店はそういう憂き目に遭いやすい。真夏の駐車場に止められた社内で熱中症になってもまるでパチンコ店が悪いかのように報じられたりする。そんな非難の中核には、パチンコが嫌いな人たちがいる。かれらの多くはパチンコをしないため、実態がどこまでわかっているかは不明だ。だからこそ、厳しい非難ができる、ということかもしれない。そんなこともあり、パチンコ産業は70年以上の歴史や20万人以上の雇用を抱えるようになったいまでも、その存続を問う議論がされることもある。
パチンコを擁護しているわけではない。プレーヤーでもないので、ファンの気持ちが分かるわけでもないのだが、稚拙な議論からは建設的な解が見つからないと思ってるだけだ。
よりよいもの、よりよいことを求めていく必要がある。そのためには、悪いもの、悪いことを批判する必要があるかもしれない。そのためには、まずよく知る必要がある。そのためには想像力を働かせる必要がある。その上でよく考える必要もある。コロナ禍で、人と人との距離は広がった。コミュニケーションも希薄化している可能性が高い。自分以外の人と話をする中で、自分の意見を確認といったこともしづらい。だからこそ、へんなマスコミの報道に振り回されず、へんな思い込みにとらわれず、いまこそ想像力を働かせよう!
経済ジャーナリスト A
- 第46回 経済合理性に合致しない社会の声
- 第45回 街の衰退と地方都市の挑戦
- 第44回 東証史上最高値更新も乏しい実感
- 第43回 減少を想定した“縮小戦略”という選択
- 第42回 どうする“伝わらない重要な情報”
- 第41回 デジタル化進み、危険もいっぱい
- 第40回 とにかくなんとかすべきは人手不足
- 第39回 「フィルターバブル」に埋もれたくない
- 第38回 AIのカスタマイズで歪むネット情報
- 第37回 求められる中国依存からの脱却
- 第36回 言行に責任者不在、しかも制御不能のSNS
- 第35回 人口減少による経済縮小に不安
- 第34回 どうする?増え続けるIDとパスワード
- 第33回 これまでとは違う潮流を見つけて伸ばす時!
- 第32回 国や自治体の少子化対策に違和感
- 第31回 人流戻るもグローバル化の変質は加速
- 第30回 コロナ禍終焉で人出は増えても人手は増えず
- 第29回 投票率低迷でみえる日本の〝薄まる参加意欲〟
- 第28回 賃上げは必要だが、他の魅力も重要
- 第27回 ネット時代だからこそのリアル店舗とは
- 第26回 「各自の判断」ができない日本人
- 第25回 景気は戻っても、経済は元のカタチには戻らない
- 第24回 コロナの後遺症? 悩ましい分断の構図
- 第23回 地方への人口分散で個人消費の拡大も
- 第22回 “人手”が事業の先行きを左右する時代
- 第21回 「灯台下暗し」とよくいうが…
- 第20回 増える借金 これ返済とかするの?
- 第19回 経済の原動力の一つ“欲望”の行方
- 第18回 物価高対策は“補填”より“賃上げ”
- 第17回 全地域、全業種が一様だった時代の終焉
- 第16回 高成長に向けた変革、個々は自分の身を守れ?
- 第15回 今こそ求められる〝稲盛さんの教え〟
- 第14回 ますます広がっているかも知れない情報格差
- 第13回 世界はアフターコロナに移行 日本はどうする
- 第12回 事業再構築補助金が創出する市場や需要
- 第11回 複雑化する経済社会、“情報は疑う”を基本に
- 第10回 求められる本質を読み取るリテラシー
- 第9回 国内回帰の機運高める世界の分断
- 第8回 DXより前に求められる自らの将来像
- 第7回 “ロシア制裁”は原油高との闘い
- 第6回 雇用の喪失は心配だが、人出不足も心配
- 第5回 わからないからこそ挑戦! でも知らないはダメ
- 第4回 ハラスメントの深刻化と信頼関係の希薄化
- 第3回 ソーシャルディスタンスの定着って…
- 第2回 分化を分裂や分断にしないための想像力
- 第1回 デジタルで変わるコミュニケーションの功罪