第9回
国内回帰の機運高める世界の分断
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
日本は世界トップレベルの先進工業国だが、いまでは日本製の工業製品は少ない。先日掃除機が故障したため電器量販店に新たな掃除機を買いに行ったが、国産品などはもはやなく、あっても非常に高価なうえ半導体その他の供給不足で生産が滞り、在庫もない。注文はできるが納期は1カ月近く先になるという。
これに対して中国などで製造されているものは断然安い。機能面でも十分。しかし、それらも在庫はなく、多くの商品が在庫限りで、再入荷は未定だった。
こうした話は掃除機に限らない。先日釣りに使うリールを買いに釣り具量販店に行った。ここでも、国産品は目玉が飛び出るほど高価だ。一方で中国などで製造されているモノは同じ分野の商品とは思えないほど格段に安い。ただ、そうした商品はコロナ禍で工場が稼働しないだの出荷できないだので品薄だった。
要は、外国からモノが来ないのだ。さまざまなモノが国際分業して製造されている。サプライチェーンの分断で、こうなるのはあるいみ当然。国内でも台風や地震などの災害時にサプライチェーンが分断されると自動車工場など最終製品の製造拠点が休止するが、広い意味ではあれと一緒だ。
こうした中で、製造業に国内回帰の動きがある。特に、国内需要のあるものや安定供給が求められるモノでそういうことが検討され、進んでいる感じだ。
国内回帰には、政府や地方自治体をはじめとして行政の支援もある。特に政府は、先端的な半導体などの戦略物資について、国策で国内回帰を目指している。
先だって米国のバイデン大統領が韓国や日本を歴訪したが、その際の議論のテーマの一つにも半導体製造に対する日米韓の協力というのがある。日米の半導体産業にはかつて世界を席巻した歴史がある。が、いまでは韓国や台湾企業にとってかわられている。このうち台湾は地勢的にも先行きにリスクがある。米国にとっての目下の最大の懸案は中国対策だ。中国との断絶や万一の台湾有事も想定し、先端的な半導体は日米韓で“自給”できるようにしたいと考えている。幸い、日米には先端的な製造技術と製造装置だけはある。
とはいえ、こうした戦略物資の自給は安全保障問題なので、一般論としての製造業の国内回帰と混ぜこぜに議論してはいけない。
では、それ以外の国内回帰をどう考えるか。国内回帰にはさまざまな支援がある。その点ではチャンスといえる。やるなら今かも知れない。でも、国内でのモノづくりは大変ではある。
人件費、光熱費、税金、その他いろいろ高い。30年前は世界一だった国民所得こそ先進国中では最下位クラスになったが、トータルではいまでもいろいろ高い。だから工場は海外に移転していったのだし、いまや市場の多くも海外だ。
国内回帰した工場の立地では雇用が増えるものの、日本全体は人口減少に伴う未曾有の労働力不足に突入しつつある。雇用が増える、つまり人材に対する需要は増えるが、労働人口(供給)は減る。世界の分断が深刻化すれば、回帰した工場の価値はより高まる半面、外国人観光客どころか海外からの出稼ぎ労働者も絞られる。最低賃金も年々上がる中で、人件費の先行きも不透明だ。
そんなこともあり、当然のことながら国内回帰には中長期的な戦略が特に強く求められる。維持するための要件や想定する将来についてもこれまでとは違うのだ。
世界は分断しはじめ、今後もこうした傾向は強まる傾向にある。北朝鮮のミサイル発射に対する制裁強化の国連決議は中国とロシアの拒否権行使で否決されたが、両国もこれまではそういうことはしなかった。世界は変わった。分断には対決軸もみえはじめている。この分断が続くなら、国内回帰はより強く求められることになる。半面で、世界が希望する融和が訪れると、肩透かしをくらったような形にもなりかねない。
世界はかなりガタガタしている。へたに正解を探したり、想定される正解を目指すような戦略はなりたたない。コロナ禍もそうだが、今後の戦略を描く上では引き続き正解のない、あるいは、正解がわからない時代が続く。そんな気がする。
経済ジャーナリスト A
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