第45回
街の衰退と地方都市の挑戦
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
静岡に来てもうすぐ1年半になる。
ようやく道路や細かい地名などもわかるようになり、生活する上での不便がなくなってきた。慣れたということかもしれない。
1年半前はまだ新型コロナウイルス禍もあり、マスクが欠かせなかった。静岡は地方都市にしてはすばらしく発展しているが、シャッターの閉まっている商店も多く、地方都市の厳しい現実をみたような気にもなった。
しかし、その半年後に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けがインフルエンザと同等(5類)になると、次第に街中には活気が出てきた。閉まっていると思っていた店が、休業から“再開?”したのだろうか。駿府と呼ばれた中心街、大御所となって駿府城に入った徳川家康が発展させたというエリアは来た時とは違う活気のある街になった。
コロナ前に戻った、ということなのだろう。どうやら、これが静岡中心街の本来の姿だったのだ。レトロな街並みだが活気がある。昭和の高度経済成長期のような光景が、高度成長期に子供時代を過ごした昭和世代には心地よい。いろいろな規制で進出を阻んできたため、大型の商業施設は昔からある百貨店ぐらい。街中には今もさまざまな専門店や個人商店が立ち並ぶ。まさに昭和の商店街だ。
そんな、活気を取り戻した中心街だが、昨年末あたりから閉店する店がパラパラみられるようになった。
たまに寄った魚屋や雑貨店が閉店したからそう感じるのかも知れないが、聞くと有名な和菓子店なども次々と閉店したのだという。
一度は再開しておりコロナとは関係ない。業績の問題でもなさそうだ。繁盛していたし、賃貸物件に入居しているわけでもなさそう。
閉店時の張り紙には「〇〇年間ありがとうございました」というあいさつとともに、もう歳なので引退する、といったことが書いてあった。そういうことなのだろう。そういう店が多い。
これはかつて駿府と呼ばれた静岡市の中心街の話だが、そこから東に10~20キロ行くと清水(静岡市清水区)という街がある。人気アニメ『ちびまる子ちゃん』の舞台で、作者であるさくらももこの出身地。マグロの水揚げが日本一で豪華客船なども寄港する国内有数の巨大港、清水港を擁する大都市だ。
ここも中心街は発展しているのだが、駿府とは状況が異なる。見事なまでのシャッター街は、コロナ禍後もそのまま。パラパラと開いているところもあるが、基本的には大半の店が廃業している。
駅前のアーケードを備えた大商店街でもそんな感じで、コロナ後も変化はない。
ただ、廃墟になっているわけではないようだ。市中の飲み屋のオヤジによると「1階の店舗は閉めたが2階は住居で、そこにみんな住んでるよ!」とのことだった。
駿府もこうなりかねない。いや、なりかかっている。実際に、静岡浅間神社の立派な参道がほぼそんな感じらしいし。
これは結構大変だ。少子高齢化の果ての人口減少下だけによくある話だ。が、地方都市にとっては、外から人を呼び込む上で駅はまさに街の玄関口。玄関口がこうだと、どうにもイメージが良くない。イメージだけではなく、そうした利便性の高いところが経済活動に有効活用できないのは痛手だ。
じゃあ再開発だ!
となればまだいいのだが、住んでるわけだし、そこまでの収益性が期待できるわけでもない。だからこうなっているのだろう。
静岡市は大都市ではあるが面積上は狭い。北側は南アルプスにつながる山間地だし、西側には安倍川が流れ、その向こう側は焼津市との境にある中山間地。清水の向こう側(東側)も山だ。で、南側は駿河湾。海だ。
というわけで、土地がない。このため、地方都市にしては地価が高い。静岡県最大の都市は浜松だが、平野部が広い浜松に比べると圧倒的に狭いため、地価は静岡市がとびぬけて高い。
にもかかわらず、住居兼店舗の店舗部分で廃業が広がり、なんとも厳しい活力の衰退が続く。工夫次第でなんとかできそうだが、実際には法を含めた複雑な規制や権利といった難しそうな障壁もありそうだ。
静岡市ではこれから、同市に進出したい企業などに対する窓口を開設し、ここで土地の手配や障害となる規制などについての相談に応じるという。それこそ行政にしかできない仕事だ。
駿府はかつては規制で守ってきた。その守ってきたものをこれからは違う形で再生しようとしている。守ってきたものはいい形で残っているだけに、これらを残しつつ、新しいものを加えていければこの街はもっと魅力を増すだろう。簡単ではないが、そういう挑戦は面白い。東京・秋葉原のような巨大再開発プロジェクトのような瞬間芸ではないだけに余計難しいが、そういうことができるならぜひとも…
そのころ静岡にいるかどうかは別として、注目し続けたい取り組みだ。
- 第46回 経済合理性に合致しない社会の声
- 第45回 街の衰退と地方都市の挑戦
- 第44回 東証史上最高値更新も乏しい実感
- 第43回 減少を想定した“縮小戦略”という選択
- 第42回 どうする“伝わらない重要な情報”
- 第41回 デジタル化進み、危険もいっぱい
- 第40回 とにかくなんとかすべきは人手不足
- 第39回 「フィルターバブル」に埋もれたくない
- 第38回 AIのカスタマイズで歪むネット情報
- 第37回 求められる中国依存からの脱却
- 第36回 言行に責任者不在、しかも制御不能のSNS
- 第35回 人口減少による経済縮小に不安
- 第34回 どうする?増え続けるIDとパスワード
- 第33回 これまでとは違う潮流を見つけて伸ばす時!
- 第32回 国や自治体の少子化対策に違和感
- 第31回 人流戻るもグローバル化の変質は加速
- 第30回 コロナ禍終焉で人出は増えても人手は増えず
- 第29回 投票率低迷でみえる日本の〝薄まる参加意欲〟
- 第28回 賃上げは必要だが、他の魅力も重要
- 第27回 ネット時代だからこそのリアル店舗とは
- 第26回 「各自の判断」ができない日本人
- 第25回 景気は戻っても、経済は元のカタチには戻らない
- 第24回 コロナの後遺症? 悩ましい分断の構図
- 第23回 地方への人口分散で個人消費の拡大も
- 第22回 “人手”が事業の先行きを左右する時代
- 第21回 「灯台下暗し」とよくいうが…
- 第20回 増える借金 これ返済とかするの?
- 第19回 経済の原動力の一つ“欲望”の行方
- 第18回 物価高対策は“補填”より“賃上げ”
- 第17回 全地域、全業種が一様だった時代の終焉
- 第16回 高成長に向けた変革、個々は自分の身を守れ?
- 第15回 今こそ求められる〝稲盛さんの教え〟
- 第14回 ますます広がっているかも知れない情報格差
- 第13回 世界はアフターコロナに移行 日本はどうする
- 第12回 事業再構築補助金が創出する市場や需要
- 第11回 複雑化する経済社会、“情報は疑う”を基本に
- 第10回 求められる本質を読み取るリテラシー
- 第9回 国内回帰の機運高める世界の分断
- 第8回 DXより前に求められる自らの将来像
- 第7回 “ロシア制裁”は原油高との闘い
- 第6回 雇用の喪失は心配だが、人出不足も心配
- 第5回 わからないからこそ挑戦! でも知らないはダメ
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- 第2回 分化を分裂や分断にしないための想像力
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