コロナ後の世界

第42回

どうする“伝わらない重要な情報”

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

デジタル化がどれだけ進んでも、やはり情報を伝えるのは難しい。“伝えられる側が特に興味を示していないが重要な情報”である場合は特にそうだ。

かつて国民の主力情報源だったテレビは受動的メディアの代表で、受け手の意向に関わらず次々と情報を発信する。それこそ、電源を入れておけば好むと好まざるとに関わらず“テレビ局がよかれと思った”編成に基づいて情報が届く。

この“よかれと思う”編成の中に、視聴者の意向がくみ取られているわけだか、万人向けである以上、視聴者の感想はまちまち。もちろん、好みじゃない場合、視聴者にはャンネルを変えるという手もある。

一方で、新聞や書籍は能動メディアであり、どれを選ぶかはもちろんだが、情報を得るには読むという作業を伴う。作業が要るということだ。

インターネットもそういう意味ではこの能動メディアといえる。あまたある情報から希望の何かを選び出し、読むなり観るなりしなければならい。ただ、前述のものとは決定的な違いがある。“得たい情報を得る”という点だ。以前のこのコラムでも触れた「フィルターバブル」もあり、“得たい情報だけ”に接する傾向は強まる一方だ。

そんな中で本題に戻るが“伝えられる側が特に興味を示していないが重要な情報”はどう伝えればいいのか。

津波警報などのような災害情報だったり、世の中を揺るがすような大ニュースはともかく、緊急性はなくとも社会の将来にかかわる重要な課題は多い。そうした課題に対する解決策に選択肢がある場合、主権者であるわれわれ国民はそれぞれが自分の考えを持つべきだ。かといって、そうした課題に関する情報を調べたり学んだりする人は少ない。いないに等しいかも知れない。

そんなことを、かれこれ1年ほど住んでいる静岡でも感じる。

リニア中央新幹線の工事が路線の予定各地で進んでいるが、静岡県内ではまだ未着手。県が工事を認めていないためだ。

県はリニア工事に伴う「大井川の水問題」「トンネル工事に伴う残土問題」「(路線の予定地である)南アルプスの環境保全問題」に懸念を示してきた。このうちの山場とみられてきた水問題は、上流部のダムの取水制限案について大井川の流域市町が了承したことで、前進する兆しが見えてきた。


そんな市町の首長が口をそろえる。

「わたしは関係者から専門的な情報も含めて十分説明を受けて状況を理解したが、市(町)民は違う。今後は市(町)民にも同様に説明し、理解を求めてほしい」と。

かくいう首長らが受けた説明の内容は特別なものではない。インターネット上に多数掲示されている。とはいえ、それらを積極的にみて理解する人はそうそういない。このため、当初の懸念が払拭されず、いまだに「大井川の水量に影響しかねないリニア工事は心配だ」という声がよく聞かれる。これが投票などにも反映されるようだと困ったことだ。

工事に慎重な静岡県も、基本姿勢は「リニアの早期実現を目指す」としている。半面で、選挙によって選ばれる人たちは、主権者である投票者の意向をおおいに気にしている。そして、投票者である県民や市(町)民の理解は足りていない。

いろいろな情報や意見があり、いずれも大事な決断の元になる情報だ。その結果としてどう考えるかはそれぞれ個々の問題だが、前提となる科学的な知見や情報と賛否両論の意見をどう伝えていくのか。手段も含め、このあたりが根本的な最重要課題かも知れない。そして、これはデジタル一択時代の大きな課題にもなり得る予感がする。



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