コロナ後の世界

第19回

経済の原動力の一つ“欲望”の行方

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

最近、テレビやラジオで“ユーミン”こと松任谷由実さんの特集がよく組まれている。それもそのはず。なんと、今年はデビュー50周年なんだという。そんなことも知らなかったのか、と言われそうな話だ。とはいえ、昭和40(1965)年生まれの筆者はユーミンを人並みには知っている。

それこそ筆者が若者だったバブル経済前後のころはユーミンの全盛期で、ドライブに行くとあれば彼女のアルバムの1つや2つは必ずや用意しておかねばならなかった。そんなこともあって、テレビやラジオで繰り返しユーミンが出てくることからいろいろと思い出してきたのである。

そうそう。『私をスキーに連れてって』という映画があった。この映画に出てくる楽曲はすべからくユーミンだ。と同時に、バブル経済に向かう当時(公開されたのは1987年)の日本の若者の生態を描いたような内容だった。それでもって、最近この映画をレンタルDVDで観てみた。なぜならば、筆者はいろいろな事情で地方都市に単身赴任しはじめ、あまりにもヒマだったからだ。

それはともかくだが、描かれている世界は当然のことながら今とはずいぶん違う。その時代を謳歌してきた世代の筆者でさえ思う。世代が違う人たち、というか、より若い人たちが観るとかなり違和感があるだろう、と推察する。

一見すると、それほどではないが古さを感じる。しかしそれは、登場人物の髪型やファッションなどによるものかもしれない。が、筆者の目に付いたのは当時の社会のレギュレーションだった。言い出すとキリがないのだが、今ではアウトな感じのことが多い。

一例で言えば、職場でタバコを吸い、OL(これも死語?)に対するイマ的にいうところのセクハラっぽさもあり、上司のもの言いはパワハラで…。現代の若者のに言わせると、それ以外のところにもずいぶんひっかかるらしい。

10年ぐらい前のクリスマスのころ、25歳ぐらいの飲み仲間にこの映画の感想を聞いたことがある。その若者は案の定、強い違和感を感じたという。“登場人物の中年男性や若手サラリーマンはともかく、女性新入社員までもが自家用車を所有していること”“みんなしてスキーのような移動にも道具にも金のかかりそうなレジャーに取り組んでいること”“男女ともに異性にしか興味がない感じなこと”“みんなでベロベロになるまで呑んでること”…。いろいろ考えられない、とのことだった。

そりゃそうだろうな、と思う。筆者には感じなかった違和感も多かった。むしろ筆者には懐かしく思えたりもした。

この映画は、主人公であるスキーおたくで独身の男性が、年末の最終出勤日の終業後にスキーに向かうシーンからはじまる。背後に流れるのはユーミンの曲だ。まだ仕事をしている人が多い中、こっそりと職場を抜け出す。当時は携帯電話がないので、抜け出せたら追いかけるすべはない。で、通勤電車で自宅に帰り、車に乗ってスキーに向かう。途中で六本木の明治屋に寄る。そこで、ワインだのチーズだのをガバガバ買い物かごに投げ込んでいく。前出の若者は、このシーンにも大きな違和感を感じたという。

これこそバブルな感じだ。収入が増えないイマ、この買い物風景は無謀に見える。では、現代の若者はこのバブル感が嫌いなのだろうか。あるいはそれ以外の何かがあるのか。前出の若者にいろいろ聞いたのだが、漠然とした反応ばかりで明確な答えは得られなかった。

バブルはよくない。経済用語的にいうバブルとは、実態とはかけ離れた価値を持つものが溢れた状態のことをいう。原動力となるのは往々にして投機だったりする。それはダメだ。ただ、楽しむこと、そこに多大な費用を投じることは悪くない。バブルと贅沢な消費行動は違う。別の話なのだ。

昔から道楽というのがある。これは、本職以外の道にふけり楽しむことであり、趣味などにのめり込むことだ。それが生きる活力であったり、仕事をして稼ぐモチベーションだったりもしていた。では、現代の若者はどこにそれらを求めているのだろう。それが、実態のみならず、欲望としてもお金のかからないモノやコトだとしたら、これまでの経済は間違いなく成立しなくなる。ビジネスとして成立するのは必需品だけになってもおかしくない。

でも、現代の若者も昔はなかったスマホやスマホ上のいろいろなコトにお金を使っている。楽しみは求めているのだろう。たとえば賃金が上がったらどうか。仕向け先が変わってきた、ということだといいのだが。


 

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