コロナ後の世界

第3回

ソーシャルディスタンスの定着って…

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
コロナ禍になってから会合や宴席が激減した。まあ、あたりまえだ。行政もそうするよう言ってる。社会のムードもそんな感じだし。

打ち合わせや取材などもオンラインで行う機会が増えた。オンラインでの打ち合わせや取材は便利な面も多々ある。コロナ前は、遠隔地や海外の人との打ち合わせとなると出張を要し、数日かかることも多かった。これが自宅でも簡単に可能となった。たぶんこれは、通信環境やパソコンなど情報機器の現状を考えれば以前からできたことだが、今やそれをすることが普通にはなった。時間を決めたあとは「オンラインにしますか? それとも面談にしますか?」がもはや合言葉のようだ。

面談になった場合、お互いにマスクは外せない。距離を取り、話をする相手との間にはアクリル板とかがあったりもするし。

で、何が言いたいのかというと、オンラインはもちろんのこと、面談の場合も相手との距離があるせいで、話をしている相手の情報が少なすぎる、と感じるのだ。言葉が通じないわけではない。問答をする上での問題は全くないといっても過言ではない。しかし、以前のように面談で人と会うのとは大きな違いがある。その理由はいろいろ挙げられるのだが、いずれも主観的なものではある。要は、好き嫌いの話だということにもなりかねない。

ただ、面談する相手をより深く理解しようとすればするほど、情報の少なさを感じてしまう。人と人とが会っている時は、言葉以外にもさまざまな情報を収集し合っているのではないか。それがオンラインやマスク越しでは収集しきれないということではないか、と思う。

以前、海外の学術論文で面白い考察を見たことがある。それは恋愛に関するものだった。その種の恋愛に関する科学的な考察はいろいろな角度からなされているようで、多数の論文がある。それらは大雑把に言えば、心理学的なアプローチや統計に基づく経済学的な現象を扱うもの、そして医学・生理学的なものに分けられる。このうち、興味深いのは生理学的なものだ。

その種の論文の主旨も大雑把にまとめると、恋愛に至る条件として臭覚上感じない匂いであるとか、声の質やペース、指先や肌、その他さまざまな“言葉以外”の感覚的な情報が作用している、という感じだ。この背景には遺伝子がいて、われわれ生物はこの遺伝子の好みに基づいて行動している部分が多い、と。で、遺伝子はといえば、双方にない特徴を持ち、ウイルス感染症などに強い個体を生み出せる相手を選ぼうとする、と。英国の進化生物学者であるリチャード・ドーキンス氏の「生物のそれぞれの個体は遺伝子が悠久の時間を旅するための乗り物にすぎない」という言葉はよく知られているが、それに近い結論が多いという印象だ。

打ち合わせ等々は恋愛とは違うが、他人と接触する際にもそういった動物的、あるいは遺伝子的な情報分析が無意識になされているような気がする。つまり、オンライン等では、そうした動物的、遺伝子的な情報が大いに不足してしまうのではないかと感じる。というわけで、極めて主観的で仮説のような感想をぐだぐだと説明したが、それが主題ではない。こうした中で、どうしたら納得のゆくコミュニケーションがとれるのか、に悩んでいるのである。

これは業務連絡の効率性や確実性の話ではない。人間同士の関係性、共感をどう得ていくのか、という話だ。仕事上はそんなのなくても大丈夫だという反論も聞こえそうだが、伝達だけに終始するなら、将来的には人と人との接触も不要になるかもしれない。話はズレるが、人工知能(AI)を駆使した最新のチャットボットは不慣れな人間よりもきちんと要望を聞いてくれるし、へんな違和感もなくなってきた。それはそれで悪いことではないが、半面で不安も募る。

そうしたAIやロボットが大いに発展するであろう将来、人間はなにをすればいいのだろうか。好きなことだけやっていられるなら、それはそれで大いに魅力を感じる。そういう時代がくる可能性もある。が、そこに至る過渡期はなんだか大変そうな予感がする。少なくとも、AIやロボットにできることは人がやらなくて済むようになる。AIやロボットに置き換え可能な仕事をしている人は、それらができない仕事にシフトしなければならなくなるかも知れない。それってなんだろうか。

結論を言うなれば、わからない。わからないので今のところ対応もできないのだが、それは言い方を変えれば“人間にしかできないこと”ということになる。裏返せば、AIやロボットには最終的にもできないことだ。これは難しいが、一つ言えるのは人間同士でしかできないいろいろなことだろう。人間にはさまざまな感情がある。それはそれで面倒ではあるのだが、そこに端を発する友情とか恋愛とかその他のいろいろな感情や絆は人間同士じゃないと起きない。


最近、米情報産業の集積地であるシリコンバレーの起業家や経営者の間で“共感”という言葉が流行しているのだという。顧客や従業員、その他のステークホルダーに対し、共感や理解に基づいた言葉が多用されているという。共感とは感情の共有だ。デジタル時代だからこそ、感情をしっかり伝え合う必要が出てきている、ということらしい。かれらは、これまで以上に想像力を働かせ、工夫しながらコミュニケーションをとる必要があると考え始めているようだ。デジタル化の先頭をゆくかれらは、さらなる進化を競うその先に何かを感じているのかも知れない。



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