コロナ後の世界

第27回

ネット時代だからこそのリアル店舗とは

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

福井県鯖江市はメガネフレーム生産で国内の9割以上ものシェアを有している。新潟県燕市はスプーンやフォークなど金属洋食器生産で同9割ともいわれる。

こうした産業集積地には、それらが発展した強力な理由がある。原料や材料が産出したり、調達しやすいといったケースもあれば、技術やノウハウが蓄積、伝承されているといったソフト面の強みが根底にあることも多い。そして、だいたいは時代とともに業態や構造を変革した結果、現在の形になっている。

伝統的なものづくりをルーツにしていることが多く、その歴史や世界観も貴重で価値のあるもとだったりする。近年は、そうした産業を観光資源として活用する動きが全国的に見られるようになってきた。

静岡県静岡市にもいろいろな産業がある。その中で、ちょっとおとしろいのがプラモデルだ。静岡市はプラモデル生産で8割以上もの国内シェアを誇る。地元企業であるタミヤなどのほか、バンダイナムコグループの生産拠点もある。ガンプラと呼ばれる機動戦士ガンダムのプラモデルは、全量静岡製だとも。意外なことに、静岡は世界でも屈指のプラモデルの街なのだ。

静岡の北部は3000メートル級の山々が連なる南アルプスで、天竜川や大井川、安倍川といった河川の源流域となっている。そして南側は駿河湾などの海。かつては山間部から河川を介して街に木材を運んだ。そうした河川の下流は平野部で、古くから静岡や浜松といった都市が発展した。

そんなこともあり、浜松や静岡では木材加工業が栄えた。例えば浜松では木材の加工品として家具が盛んに生産された。機織機なども盛んに作られた。その技術やノウハウを活かしてピアノや高度な織り機が生み出された。織機のメーカーは二輪車製造などにも進出。いまでは世界有数の楽器とバイクの生産地となっている。

静岡も同様だ。盛んな木工品産業の生産者が模型を手がけるようになった。タミヤは戦後に模型事業を始めたが、当社は木製だった。1960年代になり、海外からプラスチック製の模型が流入し、木製品の売れ行きにかげりが出てきたことから、プラスチック製のいわゆるプラモデル生産にシフトしていった。

 

静岡では、このプラモデルを観光資源化しようという動きがある。静岡市は「静岡市プラモデル化計画」というシティプロモーションを展開している。市役所前の郵便ポストはプラモデルを模したものになっていたりする。

市民に世界有数のプラモデルも街であることを浸透させるとともに、消費の拡大などを通じた産業振興を進めている。しかし、プラモデルを扱う模型店は減少の一途を辿っているという。確かに、街を歩く限りではプラモデルの街を感じることはかなり難しい。

そこで、市は市内のコンビニエンスストアの協力を得て、コンビニ店頭にプラモデル販売コーナーを作る取り組みをはじめた。期間限定の実験的なものだという。これによって売れ行きが即座に向上するとは考えにくい。が、減少する模型店に代わり、市民の目に触れる機会を増やす効果は大きい。

そんな取り組みの一方で、実はプラモデルは売れている。コロナ禍に伴う巣篭もり需要などもあるが、フィギュアなども含めたホビー市場は着実に拡大している。輸出も増えている。でも、模型店は減っている。

この背景には、ネットをはじめとした通販の拡大がある。コロナ禍で隅々まで行き渡り、定着した通販の台頭で、模型店は苦戦を強いられているということだろうか。

これはたいへん皮肉な話だ。コロナ禍の巣篭もり生活でプラモデル自体の需要は拡大したが、リアルな模型店ではなくこれまたコロナ禍で利用が拡大した通販が伸びた、と。通販にはデメリットもある。欲しいものが決まっていない場合は商品を探すのに慣れが必要かもしれない。また、選ぶ基準が価格だけになりがちでもある。

とはいえ、通販の拡大は時代の流れだけに、抗し難い。そういう意味では、今まさに通販時代のリアル店舗のカタチが問われている。折しも、静岡市はプラモデル化計画を進めているが、購入はネットで!というのも味気ない。地方創生といった面では、ネットを最大限に活用するとともに、リアル店舗の役割や活用意義も再考したい。シティプロモーションという面では、リアル店舗の役割は大きい。


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