第44回
東証史上最高値更新も乏しい実感
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
2月22日は「にゃんにゃんにゃん」ということで「猫の日」だった。近所(静岡県内)のスーパーなどではキャットフードの特売イベントが行われていたし、地元のテレビやラジオでも猫にちなんだ商品やサービスの紹介、猫に関する話題が多かった。
静岡県にはカツオやマグロの扱いが多い焼津や清水などの港があり、水揚げも国内最大級だ。近年はそうした海産物を使用するキャットフードなどの生産も盛んになっている。地元の食品大手であるはごろもフーズ(本社・静岡市駿河区)やいなば食品(同静岡市清水区)などでは、キャットフードなどペットフード事業が経営の大きな柱となるまでに成長している。
今年からプロ野球のウエスタン・リーグに参戦する新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」のホーム球場は静岡市清水庵原球場(静岡市清水区)。命名権を獲得したいなば食品はこの球場に「ちゅ~るスタジアム清水」という愛称をつけた。この「ちゅ~る」は、同社のペット用おやつブランド。看板商品の1つにもなっている。ツナ缶などで知られる食品大手だが、ペットフードへの力の入れようがうかがえる。
関西大の宮本勝浩名誉教授が猫の日に合わせて試算した猫の経済効果は、飼育費用や猫グッズの売り上げなどの総額で推定2兆4941億円にもおよぶとか。猫に限らないが、新型コロナウイルス禍で不急不要の外出が制限されていた頃はペットの飼育が流行りにもなった。ペット関連は人口減少下でも拡大が続く貴重な市場なのだ。
犬猫の関連としてこんな話もある。
「景気が良くなると犬を飼う人が増え、景気が低迷すると猫を飼う人が増える」という説?だ。
そこで、近年の犬猫飼育数の推移をみてみよう。日本ペットフード協会がまとめた2023年の「全国犬猫飼育実態調査」によると犬は飼育頭数、飼育率ともに微減が続いている半面で、猫は横這いの推移が続いている。ちなみに、2013年時点の飼育頭数は犬が約871万頭,猫が約841万頭だったが、2014年に猫が犬を頭数で上回り、以来猫の方が多い状態が続いている。ちなみに、2023年は犬が約705万頭、猫が約884万頭だった。
似たような話として「景気が良くなると男児玩具が売れ。景気が低迷すると女児玩具が売れる」というのがある。
日本玩具文化財団のホームページにある「おもちゃの歴史」によれば、1987年の欄に『「星闘士星矢」「ゾイド」「トランスフォーマー」など男児玩具好調』とある。1992年の欄には『「セーラームーン」登場で女児玩具好調』とある。
1985年の「プラザ合意」に起因した急激な円高は円高不況につながった。これに伴って工場の海外移転なども加速。男児玩具が大ヒットした1987年あたりから景気は上向いていく。
いわゆる「バブル経済期」は1986年12月から1991年2月までの51か月間のことを指すとされるが、男児玩具の好調はその初期に起きている。実感として多くの人が好景気を意識したのは1987年10月19日のブラックマンデー以降のことだったと思う。
就職もうっすらと考え始めていた当時大学生だった経済ジャーナリストAが好景気を感じるようになったのはその翌年、1988年ごろからだったように思う。
おかげで就活は楽であった。1990年には実際に就職した。就活中は歴史に残る好景気で、現在のような人手不足でもあった。企業は好待遇で昇給も約束。簡単に就職先は決まる。これは私事であり、どうでもいいことだが。
入社直前の1989年12月には東証平均株価が3万8915円というそれまでの史上最高値をつけた。ところが、このころから風向きが変わった。失われた30年といわれる長期低迷の始まりだ。女児玩具が好調になりはじめたころ、いわゆる「バブル経済」ははじけた。今年はどうなるのだろうか。猫を飼う人は増えているのだろうか。
折しも、2024年の猫の日には東京証券取引所の平均株価が34年ぶりに過去最高値を更新した。とりあえず、いまのとろ34年前のような好況感はないが…
- 第46回 経済合理性に合致しない社会の声
- 第45回 街の衰退と地方都市の挑戦
- 第44回 東証史上最高値更新も乏しい実感
- 第43回 減少を想定した“縮小戦略”という選択
- 第42回 どうする“伝わらない重要な情報”
- 第41回 デジタル化進み、危険もいっぱい
- 第40回 とにかくなんとかすべきは人手不足
- 第39回 「フィルターバブル」に埋もれたくない
- 第38回 AIのカスタマイズで歪むネット情報
- 第37回 求められる中国依存からの脱却
- 第36回 言行に責任者不在、しかも制御不能のSNS
- 第35回 人口減少による経済縮小に不安
- 第34回 どうする?増え続けるIDとパスワード
- 第33回 これまでとは違う潮流を見つけて伸ばす時!
- 第32回 国や自治体の少子化対策に違和感
- 第31回 人流戻るもグローバル化の変質は加速
- 第30回 コロナ禍終焉で人出は増えても人手は増えず
- 第29回 投票率低迷でみえる日本の〝薄まる参加意欲〟
- 第28回 賃上げは必要だが、他の魅力も重要
- 第27回 ネット時代だからこそのリアル店舗とは
- 第26回 「各自の判断」ができない日本人
- 第25回 景気は戻っても、経済は元のカタチには戻らない
- 第24回 コロナの後遺症? 悩ましい分断の構図
- 第23回 地方への人口分散で個人消費の拡大も
- 第22回 “人手”が事業の先行きを左右する時代
- 第21回 「灯台下暗し」とよくいうが…
- 第20回 増える借金 これ返済とかするの?
- 第19回 経済の原動力の一つ“欲望”の行方
- 第18回 物価高対策は“補填”より“賃上げ”
- 第17回 全地域、全業種が一様だった時代の終焉
- 第16回 高成長に向けた変革、個々は自分の身を守れ?
- 第15回 今こそ求められる〝稲盛さんの教え〟
- 第14回 ますます広がっているかも知れない情報格差
- 第13回 世界はアフターコロナに移行 日本はどうする
- 第12回 事業再構築補助金が創出する市場や需要
- 第11回 複雑化する経済社会、“情報は疑う”を基本に
- 第10回 求められる本質を読み取るリテラシー
- 第9回 国内回帰の機運高める世界の分断
- 第8回 DXより前に求められる自らの将来像
- 第7回 “ロシア制裁”は原油高との闘い
- 第6回 雇用の喪失は心配だが、人出不足も心配
- 第5回 わからないからこそ挑戦! でも知らないはダメ
- 第4回 ハラスメントの深刻化と信頼関係の希薄化
- 第3回 ソーシャルディスタンスの定着って…
- 第2回 分化を分裂や分断にしないための想像力
- 第1回 デジタルで変わるコミュニケーションの功罪