コロナ後の世界

第39回

「フィルターバブル」に埋もれたくない

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

新型コロナウイルス禍前だったと思う。先輩がこんなことを言っていた。

「スマホでいろいろなサイトを見ているが、ネットの世界にはけしからん広告が多い」「サイトの案内もけしからんものが多い」「ちなみに出てくる広告やサイトは、エッチなものと髪の毛関連が多い」…

その原因は、その先輩がエッチな情報や髪の毛関連の何かを検索したり、そうしたサイトを閲覧しているからに他ならないのだが、今はその度が過ぎる。困ったことだ。

静岡に住んでちょうど1年になるが、飲食店や観光スポット、スーパー、静岡の情報を多々検索してきた。その結果、スマホに出てくる広告や案内は静岡一色だ。自宅のある埼玉や、その他のエリアにも行くが、何かを調べようとすると静岡最優先で出てくる。

普段から検索エンジンを使う際はシークレットモードだし、基本的には情報が出にくい設定にしているにも関わらず、この調子だ。つい先だっても、近所の漁港で釣りをする際の道具を調達しようと、近所の釣具店を探したり通販で小物を調達した。その後は、スマホが静岡関連と釣り関連の広告等であふれている。


こういうリコメンド情報を人工知能(AI)が次々と提供してくるわけだが、これは通販などでは案外便利だ。スマホのカバーなどを買ったりすると、一発で所有するスマホの機種に関連する周辺機器をリコメンドするようになる。ネットに限らず、医療現場などでは非常に頼もしいように気もする。ただ、社会で日々起きている情報を広く知ろうとした場合は大きな障害となる。

AIは、利用者の趣向に合わせてネットの大海原から好みの情報を集めてくれるのだが、これが余計なお世話なのである。わたしはジャーナリストなのでさまざまな物事を調べる。このため、情報の偏りは少ないほうだろうと思う。しかし、スポーツとか経済とか、見るものに偏りがあると、広告やリコメンド情報はそればっかりになることだろう。

これを「フィルターバブル」などというが、スマホやパソコンを主力情報収集ツールとし、それ以外のメディアを使わないと、完全にこのフィルターバブルの中に埋もれることになる。これに慣れると、新聞やテレビなどはさぞかしもどかしいものに思えるのではないだろうか。

特に新聞はそうだろうと思う。新聞社が知っておくべき情報、注意しないといけないことなどを新聞社側で選び提供している。興味がなくても、知っておいたほうがいいよ! という感じの情報提供だ。1面に載っている記事は、今日みんなが知っておくべきことが書いてある。もちろん飛ばして読んでもいいわけだが、飛ばし読みをするためにも見出しぐらいは読む。最近、これが大切なのではないか、貴重なのではないか、と思う。

コロナ禍を経て、ネット通販を多用するようになった。転勤したので、当初は大きな文具店や書店、何かの専門店の場所がわからないため、ますます通販を使う。しかも、本などは通販ならまず手に入るので便利だ。ただ、書店に行くのとはずいぶん違う買い物体験だ。

狙ったものを手に入れるには通販が便利だが、書店に行くとついつい余計な本も買う。この余計な本は通販でも買うが、書店と通販では衝動買いの対象は大きく異なるのだ。

書店では、たまたま目に入ったものを買うことが多い。通販は前述のリコメンド情報に基づいて買う。これは本に限らない。あらゆるものがそうなる。

AIもやがてそうした意外なものをリコメンドするようになるかも知れないが、フィルターバブル下のいまはそうではない。

自分の買い物、自分が得ている情報はこれでいいのか。最近、これが不安であり、おそらく正しくないとも思っている。なので、できるだけ市中に出向き、買い物をするようにしている。目に入る意外なものを探すようにしている。そうしないと、ヘンなフィルターのかかったモノや情報に埋もれそうだからだ。

しかし、下調べはネットしかない。専門誌もガイドブックも相次いで休刊し、ネットしかないためだ。結局はネットから始まっている。これでいいのか。不安だ。


経済ジャーナリストA

 
 

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