第30回
コロナ禍終焉で人出は増えても人手は増えず
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
いよいよ新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類になった。
この3年間、世界の経済社会はコロナ禍で大きく混乱した。特に、観光業や飲食業など、人と人とのリアルな交流を伴う分野は壊滅的な打撃を受けた。とはいえ、日本の場合はコロナ対策のための要請を受け入れて休業した場合の協力金やさまざまな助成金、各種融資もあり、倒産件数は歴史的にも例を見ない低水準で推移した。半面で廃業件数は極めて高い水準で推移。街の繁華街に連なる飲食店の顔ぶれは変わった。
こうした中、人出は予想以上に回復しているように思う。ゴールデンウィーク(GW)中に静岡―東京間を往復したが、ギリギリになっての行動だったため東海道新幹線の指定席は予約がほぼ取れない状況だった。連休明けの発表によれば、東海道新幹線のGWの乗車率はコロナ前の2018年比で100%を上回ったという。予約がなかなか取れないはずだ。
連休中には長野県の某所で春スキーをしたが、こちらは宿泊したホテルが超満員、大混雑だった。さすがに人気が凋落して久しいスキー場はすいていたが、市中の観光スポットなどば大混雑だった。確認しわけではないが、宿泊したホテルは外国人観光客が3割ぐらいいたのではないか。インバウンド客がこれほどまでに回復しているのにも驚いた。
しかし、一方で廃業した旅館や飲食店が目立った。コロナ前によく行ったレストランはことごとくなくなっていたし、この時期によく利用したホテルも廃業していた。
これらの“行きつけ”が経営に困っていたとは思えない。いつも繁盛していた。ただ、経営者や従業員の高齢化は進んでいた。コロナ禍前から経営者はある時点での廃業を考えていた可能性はある。これまた確認はしてないが、コロナ禍が廃業に向けて背中を押したのではないだろうか。
コロナ廃業は経営状況によらないケースも多々ある。そうした場合、背景には「経営者の高齢化」と「後継者がいないこと」があるケースが多い。コロナ禍で先行きが見通せず、そうした環境が数年にわたって続くとなれば、廃業を決断する気持ちもわかる。そういう意味で、コロナ禍はさまざまな進行を早めた感がある。デジタル化などが進み、衰退を続けてきたものを消滅させた。そんなコロナ禍もいよいよ終わる。
が、残された影響には注意が必要だ。まずは人手が足りない。とにかく人手が足りない。前述の観光業や飲食業では、人出の増加に人手の増強が追い付いていない。地方では、今後も追い付かないとの予想もある。
コロナ禍は日本の人口減少にも拍車をかけた格好だ。新型コロナウイルス罹患による国内の死者数は5月8日時点の累計で7万4669人だったというが、2022年の出生数は前年より4万3169人少ない79万9728人と初めて80万人を割り込んだ。こうした出生数の減少は、将来の人口減少に拍車をかけることにもなる。
コロナ禍前に、オーバーツーリズムという言葉がよく使われた。コロナ禍で忘れていたが、今回のGWでは久しぶりにこの言葉をよく聞いた。これは受け入れる側のキャパシティーよりも多くの観光客が一挙に来訪することで、公共交通や地域社会が対応しきれず悪影響を及ぼす現象のことだが、QWにはこうした現象が起きていたということかもしれない。
国は2030年に訪日外国人観光客6000万人の集客を目指すとした目標をコロナ禍の期間を通じて変えていないが、これほどの観光客を受け入れるだけの人手をどう確保するのかは大きな課題だ。日本人観光客が人口減少の影響で減少するにしても、人手のない地方では今から何かしない限り実現できるようには思えない。
コロナ禍の終焉に際しそんなことを思うのだが、こうした一連の課題の根底にあるものは観光業や飲食業に限らず、さまざまな産業にも共通して影響する。そう。人手だ。いろいろな意味での人手だ。
日本経済の99%を担う中小企業は人手が足りない。後継者も足りない。それでは、仮に顧客が増えても存続できない。これは困ったことだ。
経済ジャーナリストA
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