第8回
DXより前に求められる自らの将来像
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
デジタル化、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めよう!
デジタルを活用して新たな市場を生み出したり、これまでのものをデジタル化することで違った形の市場を創造した例もある。たとえばゲームソフトだ。これはデジタル産業でもあり、日本企業は世界でも有数の実績を持つ。でも、家電メーカーや自動車メーカーのような雇用は創出しないし、経済規模のさほど大きくない。ハードウエアも手掛ける任天堂あたりで売上高が1兆7000億円ぐらいだ。
これに対し、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などは伸びているし大きい。たとえばグーグルを傘下に持つ米アルファベットの2021年通年の売上高は前年より41%増え2576億3700万ドルとなり初めて2000億ドルを上回った。これは現在の為替レートで換算すると33兆円を超える。米アップルは同様に計算すると売上高が47兆円を超える。この規模の企業は日本にはない。雇用についても、米アップルは15万人以上、米アルファベットもそれより少し少ない程度となっている。米国には、米メタ(旧フェイスブック)や米アマゾンほか、このクラスの企業が多くある。今後社会がより一層デジタル化するとなれば、単純に有利だ。
その点日本は大変だ。そうした企業もほぼない。じゃあどうするんだ!
ITで情報化は進む。情報には言葉も大事である。英語を軸に世界を相手にしてきた米国のIT産業はそうした土壌やインフラの上に成り立っている。パソコンの基本ソフト(OS)も含め、現状では主導権のかけらもない。そこで思うのは、そうした枠組みに対抗しようといろいろ考えるのではなく、それらを使ってどうするかを考えるのが得策ではないか、と。もちろん、コンテンツや便利なサービスを考えるのはいいが、根本的には“自分たちがいまある価値のあるものを認識し、それらをデジタル時代にどう売るのか”である。
食品や衣料品、住宅などは、数が減ったとしてもなくなるわけではない。デジタル化に長けた分だけ他社よりも顧客をより多く得られるケースはあるだろうが、便利さを超える満足があれば消えていくこともない。問題ないわけだ。そういう意味では、最重要課題はデジタル化をどう進めるかではなく、“きたるデジタル時代の自社の姿を妥当に描くこと”ということになる。
確かに、統計などを見る限り日本の生産性は遅れている分野も多い。その改善を否定するつもりは毛頭ないが、それ以上に将来像を描けていない企業の多さが気にかかる。人手や後継者不足、下請け構造、原材料費の高騰など、課題は多いが、こうした大転換期だからこそ“将来像”を考えたい。そのためには、自分たちの持つ価値や自分たちのビジネスがどういう形で成り立っているのかをよく分析する必要もあるだろう。どんな企業にもあるはずだ。営業力や技術、昔からの顧客との付き合い、味、雰囲気…。さまざまな業種業態でそれぞれが何らかの価値を持っている。
自分たちのビジネスを因数分解し、市場における自分たちの本質や価値を突き止めれば、将来像は描きやすくなる。将来像が描ければ、きっと今すべきこと、そのために必要となればDXの形も見えてくると思う。
経済ジャーナリスト A
- 第46回 経済合理性に合致しない社会の声
- 第45回 街の衰退と地方都市の挑戦
- 第44回 東証史上最高値更新も乏しい実感
- 第43回 減少を想定した“縮小戦略”という選択
- 第42回 どうする“伝わらない重要な情報”
- 第41回 デジタル化進み、危険もいっぱい
- 第40回 とにかくなんとかすべきは人手不足
- 第39回 「フィルターバブル」に埋もれたくない
- 第38回 AIのカスタマイズで歪むネット情報
- 第37回 求められる中国依存からの脱却
- 第36回 言行に責任者不在、しかも制御不能のSNS
- 第35回 人口減少による経済縮小に不安
- 第34回 どうする?増え続けるIDとパスワード
- 第33回 これまでとは違う潮流を見つけて伸ばす時!
- 第32回 国や自治体の少子化対策に違和感
- 第31回 人流戻るもグローバル化の変質は加速
- 第30回 コロナ禍終焉で人出は増えても人手は増えず
- 第29回 投票率低迷でみえる日本の〝薄まる参加意欲〟
- 第28回 賃上げは必要だが、他の魅力も重要
- 第27回 ネット時代だからこそのリアル店舗とは
- 第26回 「各自の判断」ができない日本人
- 第25回 景気は戻っても、経済は元のカタチには戻らない
- 第24回 コロナの後遺症? 悩ましい分断の構図
- 第23回 地方への人口分散で個人消費の拡大も
- 第22回 “人手”が事業の先行きを左右する時代
- 第21回 「灯台下暗し」とよくいうが…
- 第20回 増える借金 これ返済とかするの?
- 第19回 経済の原動力の一つ“欲望”の行方
- 第18回 物価高対策は“補填”より“賃上げ”
- 第17回 全地域、全業種が一様だった時代の終焉
- 第16回 高成長に向けた変革、個々は自分の身を守れ?
- 第15回 今こそ求められる〝稲盛さんの教え〟
- 第14回 ますます広がっているかも知れない情報格差
- 第13回 世界はアフターコロナに移行 日本はどうする
- 第12回 事業再構築補助金が創出する市場や需要
- 第11回 複雑化する経済社会、“情報は疑う”を基本に
- 第10回 求められる本質を読み取るリテラシー
- 第9回 国内回帰の機運高める世界の分断
- 第8回 DXより前に求められる自らの将来像
- 第7回 “ロシア制裁”は原油高との闘い
- 第6回 雇用の喪失は心配だが、人出不足も心配
- 第5回 わからないからこそ挑戦! でも知らないはダメ
- 第4回 ハラスメントの深刻化と信頼関係の希薄化
- 第3回 ソーシャルディスタンスの定着って…
- 第2回 分化を分裂や分断にしないための想像力
- 第1回 デジタルで変わるコミュニケーションの功罪