コロナ後の世界

第33回

これまでとは違う潮流を見つけて伸ばす時!

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

リニア中央新幹線の工事が、最大の難所である静岡工区で“難航”している。静岡工区は南アルプスの地下を通るトンネル工事だ。リニアが静岡県を通るのはこのトンネルのあたりだけで、県内に駅などができるわけではない。

しかし、静岡県はこのトンネル工事を前に実施しているボーリング調査について、南アルプスを水源とする大井川などの河川の水への影響懸念から県境から300メートル以内の実施を認めていない。静岡県もリニアの早期完成を目指すという基本姿勢ではあるが、現状は調査も認めない状況が続いている。

一方で、現地である南アルプスを所管する静岡市は以前からリニア工事に前向きだ。リニアができることによるメリットが静岡市にはある、ということもある。リニアができると東京―名古屋間を急ぐ現在の「のぞみ」を利用する層の一部が東海道新幹線からリニアに移行すると考えられている。これにより、のぞみの一部を静岡に停車する「こだま」や「ひかり」に替えることが可能になると期待してるからだ。

とはいえ、新幹線が停車することによる“本当の”メリットを評価するのは難しい。新型コロナウイルス禍でデジタル化が本格的に実用化され、オンライン会議なども普通になった。今後、新幹線のような交通網が持つ意味や、地域社会に及ぼすインパクトが変化することはないのだろうか。

地価公示やまもなく発表される路線価などにも、この変化の一部が表れている。専門家によれば、東海道新幹線の駅に限っても、明暗は分かれているという。かつての人口も増えた高度経済成長期のように、駅前はみな価格が上がる、といった時代ではないともいう。

例えば、大雑把にいうと三島や熱海の商業地はいいが沼津はよくない。熱海などでも、駅や中心街の商業地は大人気だが、少し外れるとそうでもない。コロナ禍が落ち着き、観光をはじめとした人流増加がみられる。観光資源を有するエリアのターミナル駅などでは、宿泊や飲食も含めた観光需要が期待できることから、地価や家賃はこれに反応して上昇を続けている。

ただ、三島や熱海の場合は、テレワーク化した企業に勤めるサラリーマンや自由業者が移住したりセカンドハウスを持つといったニーズもあり、強含みのエリアが増えている。これはコロナで変わった新しい潮流といえるかもしれない。東京などへのアクセスが良く、風光明媚で食べ物もいい。そんな魅力のあるエリアなどが、そうした次世代型の移住先として人気だ。

こうした流れを横目に、自治体の地域振興策は観光地づくりであり昭和の商工政策の延長のままであることが多い。前述したような、駅前市街地の整備による商店街の活性化などが中心的だ。これは、熱海のような観光都市ならばいのだけど、そうじゃない場合はどうなのだろうか。

例えば静岡市。国宝や世界遺産クラスの観光資源が豊富だが、プラモデルの出荷シェアで全国の8割を占めるほか、機械や電子産業も盛んで、農産物や海産物の出荷も多い。こういうところでは、新幹線が止まろうとも駅前の観光振興だけでは不十分だ。駅前の商店は人流拡大で潤っても、少し外れたエリアはそうもいかない。

そういう意味では、「何をどこでいくらで売るのか」といった伝統的な考え方ではなく、ネットなどを使って「何をどんな方法で誰に売るのか」を考えることが必要ではないかと思う。静岡のような歴史ある街にはいいものがたくさんある。これは静岡に限らず、全国的に言えることだ。歴史ある地方都市には知られざる逸品や文化、サービスがたくさんある。来てもらってそれらを楽しんでもらうことも重要だが、それ以外の拡張策をどう考えるか、がアフターコロナでは重要。その施策で明暗が分かれることにもなるだろう。

自治体が展開する施策は見えやすく分かりやすい。それを否定するものではないが、それはそれとして、企業には地勢的な環境や自治体などに依存しない戦略も求められている。アフターコロナは、それを可能にするツールが次々と登場する時代でもある。


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