第14回
「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
ピーエムグローバル株式会社 木暮 知之
グローバルプロジェクトに特化した企業であるピーエムグローバルの代表を務める木暮知之を聞き手に、国内外で活躍するプロフェッショナルに体験談や仕事を円滑に進める秘訣をうかがう連載コラム「グローバル・コネクター」。今回のゲストは、英会話スクールの創業者を経て、現在はオンライン学習プログラムや海外留学支援などを手掛ける実業家のイムラン・スィディキさんです。
木暮 現在も英会話スクールの経営をされているのですか。
イムラン 2003年に立ち上げた英会話スクール「コペル英会話」の経営権は3年ほど前に譲渡し、今は業務委託の形です。
木暮 ずっと日本で活動を?
イムラン 日本生まれ、日本育ちです。東京のインターナショナルスクールから日本の大学に進学し、そのまま大学院まで行きました。学費を工面するために始めた英語教師のアルバイトが楽しくなってしまった感じです。大学院修了後にいったん就職したのですが、英会話学校設立の夢が捨てがたく、在職中に起業し、土日を中心に英会話を教えていました。勤めていた会社にバレないよう名前を伏せてですが。軌道に乗ったので1年半ほどで会社を辞め、英会話学校に専念しました。
木暮 独立当時はどのくらいの規模だったのですか。
イムラン 生徒数は120人ぐらい。経費は自分とアルバイト講師の人件費のみでしたね。今は300人を行ったり来たりといった感じです。
木暮 以前から在宅でレッスンできる仕組みを導入されていたそうですね。新型コロナウイルスの影響はどうですか。
イムラン 打撃は大きくないものの、休会する人はいます。遠隔の授業が苦手な方や「コロナが終息したら復帰したい」というケースです。昔は教室へ通って学びたいという人も多くオンライン授業へのハードルを感じました。今はずいぶん抵抗感が減りました。
木暮 外国人教師を採用する難しさはありますか。
イムラン コミュニケーションには問題を感じないのですが、指示通りに授業を展開してもらうのに苦労します。口頭で伝えても、米国や豪州の出身者は聞き流して自己流で進めてしまうことが多いです。
木暮 我流の部分は授業の半分ぐらい?
イムラン 8割といってもいいぐらいです。指摘しても「問題ない、分かった」と答えるけれど案の定、分かってない。
木暮 メソッド(教授法)は重要ですから守ってもらえないと困りますね。
イムラン 上司が指導したり、ほかの講師の授業を見てもらったりして、マスターできるまで繰り返し指示します。厳しいかもしれませんが、それでも習得できない場合は辞めてもらうこともあります。
木暮 教師の採用基準はありますか。
イムラン 開校してしばらくは、妥協して採用したケースもあったのですが、納得しないまま採った人が立派に成長を遂げる一方、面接時から期待していた新人が良い教師にならなかったこともよくありました。こうした採用傾向が5年ほど続いたため、「面接で印象が良くなかった人を採るべし」という自分のルールが確立しました。
木暮 面白いですね。
イムラン 私に調子良く合わせる人にだまされただけなのかもしれませんが、自分には人を見る目がないと気付けたのが良かったですね。
木暮 他人を信じる人柄なのでしょう。
イムラン そうだといいですね。
木暮 採用で妥協して失敗した経験は私もあります。「求めるスキル」か「人柄」かでは人間性が先ですね。
イムラン こちらがやってほしい仕事に合わせて人を雇うとダメですね。適材と見込んだ人が仕事に向いていないことが分かるとショックです。採用では、あえて自分の意図しない方を選ぶ「逆張り」がいいです。
木暮 日本人との関わりで難しい点はありますか。
イムラン パキスタン国籍だったので、物件を借りるのに苦労しました。
木暮 以前のインタビューでも話題になりましたが、外国人が日本で不動産契約するのは苦労するようですね。
イムラン 海外渡航の際も制限が多くいろいろと不便でしたので、2年ほど前に日本国籍を取得しました。
木暮 多くのスタッフを抱える中で、外国人と上手く付き合うコツはありますか。
イムラン 大事なことはメールでやり取りするようにしています。口頭だと受け流されたり、ごまかされたりしまうことがあるからです。メールには要諦を明確にできるメリットもありますし、内容を何度でも確認できます。
木暮 なるほど。エビデンス(証拠)も残るし、論点もはっきりする。
イムラン ただし、責められていると誤解しないように、本文に「I’m not criticizing you(批判しているのではありません)」とか「I’m not angry, just want make things clear(怒っているのではなくて、事情を明確にしたいだけです)」と添えるように気を付けます。本人を見つけたら「メールを見ておいてね」と笑顔で伝えるのも効果的です。
木暮 気配りですね。
イムラン 冗談のつもりで書いた文章がうまく伝わらなかった人もいましたから。
木暮 文字だけではリスクがありますよね。社内でチャットツールを導入した当初は意図通りにメッセージが伝わらず苦労しました。そうした苦い経験から、送信後は相手にあらためて口頭でフォローするようにしました。日本人とのやり取りはどうですか。
イムラン 外国人に対してよりも「分かっている」という感覚があります。自分が気を抜いているだけかもしれませんが。
木暮 日本人対応の方が慣れている?
イムラン 話し方には注意しています。俗に言う「ため口」は避け、20代のアルバイトでも基本的には敬語で話します。
木暮 敬語は大事ですね。その方が便利ですし。教育業界の動向はどうなっていますか。
イムラン 参入して17年になりますが、大きな変化はありません。あえて言えば教師に多様性が出てきたことです。昔は英語のネイティブスピーカーが大半だったのですが、今は英語を習得していれば出身地にかかわらず、日本人も先生になれます。私が駆け出しの頃は「外国人からレッスンを受けたい」という人が多く、日本語のスキルは講師としての売りになりませんでした。今は受け入れる側も変わってきたのかもしれません。
木暮 著書や動画を拝見して、教え方が非常に洗練されている印象を受けました。ポッドキャストで5分番組を主宰しているのですが、分かりやすく伝わる言葉を選ぶのが難しく、構成会議には3時間近くかかっています。今後の目標は?
イムラン 生徒をもっと外国に連れて行き、日本人にとっての英語のハードルを下げたいです。1週間の体験留学など気軽に試してもらえるように海外に拠点を構えていく計画で、マレーシアへの進出も検討しています。英語は今も勉強中です。(おわり)
プロフィール
グローバルなビジネス環境で今まで以上に高品質なプロジェクトマネジメントを必要とされる全てのお客様のために、プロジェクトを推進し成功させるための環境づくりを総合的にサポートします。また、マネジメントのパートナーとして現場の視点と経営の視点を併せ持った課題の発見、およびその対策としての戦略策定をご提案します。
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海外進出コンサルティング
Webサイト:ピーエムグローバル株式会社
「外国の方とのビジネスやコミュニケーションに悩まれたことはありませんか?
ギクシャクしたり、思ったほど相手との距離が縮まらなかったり。英語だけの問題ではないのでは?
『ガイバナ』では、英会話自体にフォーカスするのではなく、英語が苦手な方でも、一歩踏み出してコミュニケーションの場を明るくする、キラリと光るエッセンスをお届けします。エピソード後半に、覚えてほしいキラリフレーズをご紹介しています。
「ガイバナ」ポッドキャストはこちらから
ガイバナ@Line: @315pjfpo」
- 第77回 「みんなで決めたらやり遂げる」甲斐ラースさん
- 第76回 「ひとつずつクリアする」大渕愛子さん
- 第75回 「国内・海外の共通言語はコミュニケーション力」駒井愼二さん
- 第74回 「相手に合わせたロジックを」福田勝さん
- 第73回 「強みを生かす」亀井貴司さん
- 第72回 「現状に疑問を持つ」アミヤ・サディキさん
- 第71回 「任せたら自由にさせる」竹内新さん
- 第70回 「正しいあうんの呼吸を」村瀬俊朗さん
- 第69回 「ほかにない価値を」金城誠さん
- 第68回 「素早く対応する」柏田剛介さん
- 第67回 「ビジョンを伝える」中村勝裕さん
- 第66回 「歴史を学ぼう」磯部功治さん
- 第65回 「多少の自信と歯切れの良さと」島原智子さん
- 第64回 「情報を体系化する」鈴木隆太郎さん
- 第63回 「メッセージを明確に」岩本修さん
- 第62回 「上司もホウ・レン・ソウ」高橋裕幸さん
- 第61回 「自分を肯定する」前川裕奈さん
- 第60回 「状況を掘り下げて原因を探す」寺島周一さん
- 第59回 「信頼と共感の空気をつくる」蔭山幸司さん
- 第58回 「一緒に楽しむと続けられる」草木佳大さん
- 第57回 「7割の見込みを信じる」吉元大さん
- 第56回 「意見をありがたく聞く」室井麻希さん
- 第55回 「常に学び・成長できる環境に身を置く」門田進一郎さん
- 第54回 「目の前の人との関係を大事に」岡田昇さん
- 第53回 「意見を聞いてから主張を調整する」大橋譲さん
- 第52回 「頼れる存在に任せる」ケビン・クラフトさん
- 第51回 「要望の背景も話す」堀田卓哉さん
- 第50回 「素直に聞く度量を」山田剛さん
- 第49回 「奇妙な日本人を自覚する」村上淳也さん
- 第48回 「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん
- 第47回 「俯瞰(ふかん)して眺める」エドワード・ヘイムスさん
- 第46回 「丁寧さが評価される」ブレケル・オスカルさん
- 第45回 「個と向き合う」吉野哲仁さん
- 第44回 「事実に焦点を当てる」中村敏也さん
- 第43回 「現場に顔を出す」深井芽里さん
- 第42回 「状況を楽しむ」飯沼ミチエさん
- 第41回 「人生を楽しむ“絶対的価値観”を」小川貴一郎さん
- 第40回 「少ない言葉でも伝わる」アレン・パーカーさん
- 第39回 「ポジティブは伝染する」川平慈英さん
- 第38回 「自分で考える人に」野田純さん
- 第37回 「常にフェアであれ」忍足謙朗さん
- 第36回 「相手の価値観を包み込む」神原咲子さん
- 第35回 「直接得る情報を大事に」ネルソン水嶋さん
- 第34回 「相手のルールを早く知る」杉窪章匡さん
- 第33回 「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん /「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん
- 第32回 「技術を尖(とが)らせる」稲垣裕行さん
- 第31回 「自分でやってみる」佐々木英之さん/「やる気のエネルギーを信じる」白井良さん
- 第30回 「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん
- 第29回 「英語はメールから始めよう」岡田陽二さん
- 第28回 「逃げずに向き合う」矢野浩一さん
- 第27回 「相手に合わせた伝え方を」松田励さん
- 第26回 「ゴールを共有する」多島洋如さん
- 第25回 「考え方は変えられる」小森谷朋子さん
- 第24回 「相手が話しやすいテーマで心をつかむ」増山健さん
- 第23回 「どうしたいかで生きればいい」佐藤みよ子さん
- 第22回 「伝わる話題を探す」石井陽介さん
- 第21回 「話をよく聞いて信頼してもらう」我謝京子さん
- 第20回 「ギブアンドテイクの視点で」北尾敬介さん
- 第19回 「組織はファミリー」中沢宏行さん
- 第18回 「1人のスーパーマンよりチームワーク」前澤正利さん
- 第17回 「多様なメンバーが強い組織を生む」竹田綾夏さん
- 第16回 「ビジョンを共有する」マックス市川さん
- 第15回 「同じ人間として対等に話す」浦川明典さん
- 第14回 「会話は敬語、メールは気配り」イムラン・スィディキさん
- 第13回 「思い込みを捨てる」羽田賀恵さん
- 第12回 「うじうじ考えてないでサッサやるだけよ」本多士郎さん
- 第11回 「批判だけでは前に進まない」チャンダー・メヘラさん
- 第10回 「実績を示せば耳を傾けてもらえる」朝野徹さん
- 第9回 「シナジーをいかに引き起こすか」髙谷晃さん
- 第8回 「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん
- 第7回 「相手のプライドを土足で汚さない」佐藤知一さん
- 第6回 「気持ちが入っていないと、いい仕事はできない」 森本容子さん
- 第5回 「知る、理解する、好きになる、の順で」原田幸之介さん
- 第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん
- 第3回 「失敗はだれでもある、やり直せる」平野昌義さん
- 第2回 「『好き』が相手に伝われば何とかなる」林原誠さん
- 第1回 「アドレナリンが出ている時が大事」太田悠介さん